第36話 母「さっさと殺せ」 子「でも配信が」 母「戦争で遊んじゃいけません」

 俺がほくそ笑んでいると、母が俺の尻を軽くつねってきた。


「びっば!」


 いった!

 俺は涙目になって母の方を見ると、怖い顔で俺を睨んでいる。

 俺は恐る恐るスマホに黒い魔力を込め、母に訊いた。


【か、母さんよ……どうしたの?】


「敵をさっさと殺せ」


【でも配信が】


「戦争で遊んじゃいけません」


 とりつく島も無い。馬鹿な。馬鹿な。

 俺の配信を否定するって言うのかよ。


「ユシア。貴方のスキルは素晴らしいわ。でも……さっさと殺さないなら」


 母は凜とした冷たい声で言い切った。


「貴方のスマホを取り上げます」


【!?】


 俺はスマホのコメントをチラ見した。すると、


――――――――――――――――――――――――

:草

:wwwww

:ユシアちゃんの配信終わっちゃうの?

:子供にスマホはね

:というか、赤ん坊って度々言われてるよね

――――――――――――――――――――――――


 っく。

 別に味方になってはくれないか……。

 どうしよう。

 母に取り上げられたら、人類を護ることができなくなる。


 仕方ない。正直に話そう。


【母よ、心して聞いて欲しい】


「何? あたしはドラゴン達なんてさっさと死んで欲しいのよ。一秒だって焦らして欲しくないんだけど」


【俺はスマホを使わないと、スキルを使うことができない】


「……は!?」


 母は驚き、俺の目を凝視した。

 俺は頷き、誠心誠意答える。


【母が俺からスマホを奪えば、人類を救えなくなる】


「……」


【母、聞いてくれ。スマホがないと、俺のスキルは使えないんだ。だからせめて配信を許してくれ。それに、配信が出来た方が実はスキル強くなるんだ】


 登録者数と俺の魔力は連動しているからな。

 これなら母も納得して――くれなかった。

 母は首を横に振った。


「嫌よ。あたし、ドラゴン達は遊び無く即殺して欲しいから」


【!?】


 俺はスマホを確認する。

 俺がおかしいのか?

 母が正しいのか?


――――――――――――――

:ちょwwwwwセレスさん何言ってんのwww

:鬼ママwwww

:勘弁してくれ

:配信くらい許してやれよ

:登録者増やすように拡散してくる

――――――――――――――


 俺はスマホのコメント欄を母に見せ、


【母さん、俺の方が正しいってネットの皆が】


「そんな過激な意見なんて興味無いわ。ネットなんて、きっと社会不適合者の集まりよ」


【!? ぜ、前時代的だよ】


「余所は余所! うちはうち! あたしの子なのにあたしの意見に従えないっていうの?」


【子供の自主性を信じてよ】


「配信なんてしてないで、さっさとドラゴン殺しなさい!」


 険しい顔は、赤子の俺には怖かった。

 美人とは言え、自分の母に怒られると生物的な本能が刺激されるわ。


 俺が諦め気味にドラゴン達を撮影し直すと、なんとあいつらもスマホを操作していた。


【ま、魔物がスマホを操作してる……】


 母は呆れた声で溜息する。


「そりゃするわよ。だってあいつら、魔力高いのよ? スマホは魔力で動くじゃない。魔物は難なくスマホを使えるわ」


 ドラゴンロードは部下を殺しながらスマホで誰かに話しかけている。

 ていうかあんな小さいのをよくタッチ操作できるな、あの巨体でよ。


〘もしもし、魔王様ですか? 敵はスマホを使ってスキルを起動しているらしいです。スマホさえ使わせなければ勝てるかもしれませんけど、使わせたら絶対に負けます!〙


 野郎……魔王に俺のスキルをリークしやがったな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る