第30話 転生勇者、美少女シスターの母乳をあてがわれる

 俺は俯きながら、腹の音をぐーぐー鳴らしている。恥ずかしい。


「も、もうユシアったら。母さんの母乳じゃ足りないって言うのね!?」


「ばぶぅ」


 母は額を抑えながら、俺の頭を撫でる。


「……冒険者ならありがちなんだけど、強力なスキルを使ったらその分、お腹が空いちゃうのよね」


「ばぶぶ!?」


 俺は頭を上げ、母を凝視した。母と父は顔を合わせながら頷き合っている。っく。二人で納得してないで俺に説明しろ。


「ユシア」


「だぁ」


「離乳食を作ろうと思うんだけどね」


「ばぶ!」


 へへへ。俺に嫌いな食べ物はない。野菜でも肉でも魚でも何でもokだぜ。

 母は、信じられないことを言った。


「うち、お金がないの。というか街に物資の余裕があまりないの」


「ばぶぶ!?」


「だから……ご飯あまり作ってあげられないかも。ごめんね」


 ……事情があるなら仕方ない。

 と思ったら、勢い良く扉が開いた。


「話は聞かせて貰った。人類は滅亡する寸前だ。私に任せてくれ」


 それを言ったのは教皇だった。あの野郎、帰る振りして聞いてやがったな。まぁいい。今の言葉が本当なら奴は俺にご飯をくれるってことになる。


「教会では授乳魔法をシスターに教えている」


「ば?」


 は? 授乳魔法だと? 俺の聞き間違いかな?


 教皇は自信たっぷりに話す。


「処女のシスターだけが出来る魔法だ。恵まれない孤児の子などにシスターが母乳を与えている。良ければ、勇者ユシアに母乳をあてがおう」


 処女の必要、ある?


「是非お願いします!」


 母が笑顔で了承する。えぇ……断っていいたろ。母よ、俺も貴方以外の母乳はちょっと気恥ずかしいぞ?

 乳母(めのと)とか言うのが昔の日本の上級国民にあったけど、俺はちょい恥ずかしいな。他の手段がいい。


「ばぶばぶぅ!」


 俺は首を横に振った。

 教皇はハッとした顔で俺を見る。両親は「?」とした顔を浮かべている。


「ま、まさか勇者ユシア君……君は、シスターの母乳は嫌だというのかね?」


「ばぶ」


 俺は頷いた。この教皇、空気が読めるな。素晴らしいじゃねえか。


「君はまさか、自分の母親の母乳以外飲みたくないというのか?」


「びば~」


 いや~、その通りだよ。俺は照れながら頭をかいた。家族愛を赤の他人に言うて気恥ずかしいよね。

 母さんもきっと照れくさく――なってなかった。そこには鬼としか言いようのない母の顔があった。母、なんでや?


「ゆ~し~あ~」


「ば、ばぶぅ……」


「教皇様が母乳をあてがってくれるっていうのにその不敬な態度は何様よ!」


「ばぶ!?」


 俺は驚いた。さらに父親(ゼウル)が母の隣で「そうだそうだ」とか抜かしやがる。え、何コレ。俺が悪い流れ?


「ユシア、好き嫌いは許しません」


「ばぶぅ……」


「ましてや、シスターの母乳を差別するとか何事ですか?」


「ば、ばぶばぶ!」


 母(セレス)の剣幕はどんどん険しくなっていく。

 差別なんてするつもりはねえ! 誤解だって。俺は母親以外の母乳を貰うって気恥ずかしいし、その……羞恥心、それが俺にあるんだ。

 俺は必死に母に弁明した。


「ぶうびびん! ぼべばぼべびばぶんば!」


「ばぶばぶ言ってるだけじゃ分からないわよ! ちゃんとした言葉で話しなさい!」


「ばぶぅ……」


 悔しい。俺は

 あ、やばい。尿が出た。悔しい……。


「ユシア、おしめ変えましょうね」


「ぶぅ……」


 くそ、赤ん坊の体ってマジ不便だわ!

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