第28話 転生勇者の部屋を訪れたのは教皇だった。

「ふむ」


「だぁ……」


 俺は胡座をかく姿勢になり、俯いた。

 くそ。この爺さんと話そうと思うのに、「だぁ」とか「ばぶ」だけじゃ話せないぜ。


「勇者殿」


「だぁ」


「私の言葉は分かりますか?」


「ばぶぶ」


 俺は頷く。すると、相手は大きく目を見開いた。


「おぉ、何と賢いことか。神童ではないか」


 爺さんの近くに側近と思われる神父がいて、涙を流している。その男はハンカチを取り出し、涙を拭く。

 ……理解してるだけで神童ねえ。いや、違う。この人達にとって今は国家存亡の危機なんだ。というか、人間そのものが皆殺しにされかかっている。

 だから強力なスキルを有する俺は神童と言っていいし、理解してコミュニケーション取れるのは神童と言いたくもなるんだろうな。


 老人は恭しく俺にお辞儀し、頭をあげた。


「私は教皇コモンと申します。以後、お見知りおきを」


「ばぶぅ……」


 俺は頷く。


「この世界の現状がどうなってるか、分かりますか?」


「ばんぼばぶば」


 何となくは。ってこれじゃ通じないよな。殺試合(デスゲーム)を発動したら会話が出来るのだろうが……待てよ?


 俺は手に力を込め、ドス黒い魔力を発現させる。


「うわ」と教皇が、

「っひ」と教皇の側近がびびる。


 俺は魔力を辿って――近くの机に置いてあったスマホを浮遊させ、操作する。

 音声が流れる。


【はじめまして、教皇】


 教皇は一瞬びっくりしたが、すぐ平然とした。人の上に立つだけあって冷静になることに長けているようだ。


「はじめまして、勇者様」


【私は何分、生後十ヶ月程度ですので常識に疎いとご理解していただきたい】


「生後十ヶ月にしては些か知性が高すぎると思ってしまうのですが……」


 側近が頷く。それは無視するとして、


【何の用ですか? 貴方は今、かなり大変な時期と考えておりますが】


 教皇は鋭い眼光を俺に向ける。その態度は真剣そのものだった。


「勿論、貴方に会う為です。勇者様、お願いです」


 教皇は跪き、俺に頭を下げた。


「人間を……いえ、人類を救っていただきたい」


【……】


 側近の男もそそくさと俺に土下座してくる。

 ……あれ?


――――――――――――

:ちょwwww

:教皇様、土下座wwwwwwww

:wwwwwww

:マジすかwwwwww

――――――――――――


 しまった。これ、配信されてしまっている!

 俺はぽちぽちと弄るが、どうすればLive配信がなかなかoffにならない。

 あれ、おかしいな?


【その、あの】


「お願いです。人間は今、絶滅の危機に瀕しています! 魔王軍が人間を皆殺しにしようと戦争をしかけてきていて……敗北寸前です! 私はドラゴン軍団と戦い、魔王軍本隊と挟み撃ちされそうなのを命からがらプラハヤデまで逃げ延びてきました! どうか、どうか勇者様! プラハヤデを救った時の力を……お貸し下さい!」


 俺はちらりとスマホを見る。すると。


――――――――――――

:勇者様、お願いします!

:ほんとそれ。勇者様、お願いします!

:教皇まともで草

:良い教皇って評判だよな。勇者に頭下げてくれて良かった

:威圧的になって勇者が拒否ったら世界終わるしな

:人類の希望はユシア様だけ!

:お願い、あたし達を助けて

――――――――――――


 ……どうやら登録者達は俺に戦ってもらいたいようだ。

 俺は教皇の方を見る。

 偉い人が土下座までしているしな。

 俺も、配信してしまったという罪悪感がちょっとある。

 彼はこの土下座をデジタルタトゥーとして残していくこと間違いない。


【分かった、受けるよ】


 俺がそう言うと同時に、教皇達は顔を上げる。

 その顔には大粒の涙がぽろぽろと流れていた。

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