第26話 スライムキング、撃破

 悍ましい顔で、母達はたった一匹のスライムを見下ろす。

 一応、そろそろデスゲームは俺の魔力切れで終わるのだが、この一匹だけなら母だけでも多分倒せるだろう。


【母様、体調や体力に問題はありませんか?】


 母は俺の方を向いた途端、笑顔になってくれる。


「えぇ、大丈夫よ。ユシアちゃん、心配してくれてありがとね。他のスライムはあたし達が狩ったから、もう問題ないわ」


【え……そのスライムで最後なんですね?】


 仕事が早いな。母はそこまで実力があったのか?

 加護の付与がそれほど強かったのか?


「防御は気にしなくて良いし、さっさと動いて一撃当てればいいだけ。本当に楽な戦いだったわ」


 母は肩を竦めて苦笑気味に言う。そして、スライムを睨む。


「魔王軍の大幹部、スライムキングを殺せるとはね」


 スライムキングだったスライムはびくりと動き、


〖ひいいい、ゆ、許して欲しいである!〗


 と俺達に土下座した。


 俺はスマホで映してはいるが、こんな美味しい部分のコメントは流石に確認したい。

 俺はコメントを見る。


――――――――――――――――

ペペロン:配信者のユシア氏とセレスさんって知り合いなんだね

モブデス:土下座wwwwww

インス:魔王軍の幹部が情けなwwwwww

イカス:神 展 開

ツウィト:これもう永久保存版だろwwww

カルボ:他の奴らにも土下座して欲しいwwwwwww

――――――――――――――――


 おぉ、盛り上がってるな。

 やっぱいいよな、むかつく奴の土下座。

 嬉しい。


 俺はぐるっとプラハヤデの故郷を一望する。

 その有様は、無惨の一言に尽きる。

 ところどころに死体があり、重傷を負ってる人もいる。

 商店では品物はバラバラになるほど破壊の限りを尽くされ、瓦礫があちこちに散らばっている。

 まるで、災害が起きた後だ。

 これが……魔物に侵略を受けるってことなのか。

 しかも、相手は人間を皆殺しにしようと思っているのであって支配しようとするわけでもない。

 徹底的なまでの差別主義者。

 許しがたいにも程がある。


 俺は傷つけられた人々に意識を向けた。

 この【殺試合(デスゲーム)】は結界であり、今はプラハヤデの全てを覆っている。

 スライム達からドロップした魔石。あれにこもった魔力を使ってもいいが、今回は特別だ。

 俺の力を使おう。

 だが、その前に。


【母さん。最後の一匹、駆除を頼む】


「えぇ」


 憎しみのこもった一撃がスライムに振るわれ、その体は飛散し――魔力の巨大な塊が出てきた。スライム二十万匹分の魔力がこもった魔石だ。


 母とパピルは悲しげな顔で街を見つめている。


 ブレイブは少し嬉しそうに「勝てて良かった。皆殺しにされるかと……」と言った。


 俺はどちらの気持ちも分かる。

 そして、俺のチャンネル登録者数が百万人を突破していた。

 何でこんなことになってんの?


【母様、このスキルを解除します】


「ユシアちゃん、本当にありがとね。……貴方、何者なの?」


【それは眠りから覚めてから話します。本当に、眠いので】


「……これだけのスキル、そりゃ魔力消費量も甚大よね」


 母ははにかみ気味に笑った。……母が無事で良かった。

 俺は本格的に意識を失いそうなほどうとうとしているので、断りを入れることにした。


【母様。寝る前に、スキルを使用します】


「?」


【ほのぼの炎】


 俺のスキルが、街全体を燃やした。とは言え、これは味方を癒やし、敵を燃やすスキルだ。

 人々の全ては癒えていく。死者を蘇らせることはできないが、残された人々はきっとこれで安らかに……。


「ぎゃあああああああ!」


【!?】


 俺は驚いた。俺や母達から少し離れたところでたった一名の男が、燃えていた。

 苦しそうにもがき、近くの川に飛び込んでも尚その男の体は燃え続けている。

 ど、どういうことだ?

 なぜ人に……ダメージが出るんだ!?

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