第24話 残基を一に

 逃げていたスライムキングは俺が最初に作った結界の壁にぶつかった。

 どうやら、出られないらしい。

 これなら俺の魔力はあの魔物を逃すはずがない。


 俺のドス黒い魔力により、スライムキングの内部に支柱と上下二つの魔法陣が発生。

 どうやら二重詠唱でも発動したらしいな。


 俺は冷や汗を少しかく。

 ……分かる。俺は疲れている。

 このままなら本当に体力が切れてしまう。


《マスター、決着はなるべくお早めに》

【おう、分かった】


 俺はスマホ画面に魔力を注ぎ、スライムキング――否、約二十万匹のスライム達に命じた。


【二十万匹のスライムさん達、こんにちは】


 スライムキングがびくっとなり、動きが鈍る。


〖な、何であるか!?〗


【今から皆さんに殺し合いをしてもらいます】


〖な、なぬ!?〗


 スライムキングは一体しかいない大質量の魔物だ。

 しかし、どよどよと蠢く沢山の声が今では聞こえる。本当に超個体のようだ。


【ノルマは、十秒に一体。最後の一匹になるまで殺し合って下さい。加護、『一撃必殺』をスライムさん達にプレゼントします】


 俺がそう言うと、スライム達の体に俺のドス黒い魔力が入って行く。

 よし。これで準備は完了のはずだ。


〖ま、待つであーる! どういうことであ――〗


 俺は聞き終わらないうちに、号令をかけた。


【スタート!】


 そこから始まったのは醜い争いだった。

 利己的な命が優先され生き延びていく泥試合のような殺し合い。


 結合していたスライム達は自分の仲間を自分の攻撃で容赦なく殺していく。

 人間を捕食してきた種族だから可哀想とは気ほども思わない。


 おっと、配信しないとな。


――――――――――――――――――――――

ペペロン:ざまぁwwwwww

スパゲ:飯が美味いwwwww

インス:スライムは人も農作物も食ってきた害獣! 殺しておk!

モブデス:神配信!

――――――――――――――――――――――


 チャンネルの評価はすこぶる調子が良い。


 おっと。

 視聴者数が十万人を超えている。

 登録者は……十八万!?

 随分増えたな。

 こりゃインフルエンサーになっちまったか?


 収益化できたら家族に何か買ってやろう。

 と、そんなことより。


 俺はスマホ越しにスライムキングを見た。

 今一分ほどしか経ってないが、その体積は充分の一になってる。


【さぁ、スライムキングの滅亡まであと少し!】


――――――――――――――――――

ペペロン:うおおおおおおお!

モブデス:最高!

スパゲ:wwwwww

インス:スライム、ざまああああああww

――――――――――――――――――


 さらに一分経つと、またまた十分の一、時間と共にスライムキングは小さくなっていく。


〖ぐぬぬ。ぐぬぬ〗


 俺は配信者として死にゆくスライムキングに質問した。


【ねぇねぇ、今どんな気持ち?】


 俺は屈託のない笑顔で聞いた。

 スライムキングは意表を突かれたように驚いた顔をした。


〖ぐぬぬ……貴様のような化け物が、人間から生まれるとは〗


【おっと皆さん、聞きましたか? 酷い言い草ですねぇ。人間を皆殺しにしようとした魔物のくせに、生意気です!】


 俺はニヤリと笑う。


 スライムキングは悲しげな顔で俯く。


〖我らの、負けである〗


 スライム達にしかけたデスゲームは、終わった。

 スライムキングは残基一匹だけ残って、ただのスライムになった。

 湖と見紛うだけの巨大質量ではなく、そこにいるのは二メートル程度のスライム一体だった。

 残基が二十万から一になったのである。

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