第15話 最強赤ちゃんは領域スキルを展開してスライムの攻撃を無効化する

 先ほどまでとは余りにも異なる巨大な天蓋。そこには、莫大な魔力が込められた魔法陣がある。

 十三本の支柱は、更に豪華になりプラハヤデの街そのものを覆っているようだ。

 俺のデスゲームは特殊な結界を展開する領域スキル。

 対象の多さや広さに合わせて規模を変化させる故、この規模になったのだ。


「嘘、何これ……魔王軍の新魔法かしら?」


 母は天蓋を仰ぎ見ながらそう呟く。

 ふっふっふ。違うんだな。この天蓋設置は俺のスキルだ。


 俺はスマホに自分の魔力を込め、アナウンスした。使ってみて分かったが、これはテレパシーの一種に近いようだ。魔力を使って意識を伝達しているのが感じられる。


【こんにちは、勇者です。これからスライムの皆さんに殺し合いをして貰います】


 俺の声は街全体に響き渡り、スライム達を萎縮させた。スライム達は動揺し体を震わせる。


〘!?〙〘な、何だこの声!?〙〘とんでもない魔力だぞ!〙〘一体、何者だ!?〙


 スライム達の焦燥が聞こえる。

 どうやらスライム達は魔力を使って意識を伝達する手段に長けているようだ。

 俺がスマホを使って漸く出来ることをスライムは自前で出来るらしい。

 ……雑魚モンスターとは言い難い。

 人間が苦戦するのも分かるな。


 俺がスマホを起動すると、よく分からない文字が出てきた。異世界の言語だろう。俺はそれに自分の意図を魔力で流した。


【今回、私は人間を味方とし、魔物を敵とします】

《了承》、と即座に返答がきた。よし、文字が分からなくても魔力で意図を伝えることは出来る様だな。


 町中に俺の魔力が行き渡っていく。スライム達が襲っている人間に、俺の魔力が覆い被さる。

 よし。

 これでもうスライム達が人間を傷つけることはできないだろう。実際、スライム達は人間を捕食できなくなり、驚いている。


 さて、そろそろ配信しないとな。だけど、代わり映えしないのも問題なんだよな。

 俺のスキル、デスゲームは登録者や視聴者数が多いほどそのスキルを向上させる仕様にしてある。

 前世の俺が黒歴史ノートでそう設定したから、間違いなく今回もそういう仕様になっているはずだ。

 可能なら、俺の夢である一億人登録者を成し遂げたいものだ。


 盛り上げたいぜ……。

 そうだ、一般人にスライムを狩らせよう。

 俺は、母の方を向いた。


 俺はスマホを操作する。

 隠しコマンド、発見。

 スキル『八百長』を選択。

 そこから派生し、スキル『依怙贔屓』を選択。

 俺はゲームマスターとして勝たせたい奴を勝たせることが出来るのだ。


【母さん】


「な、何かしら、ユシアちゃん」


【本名を教えてよ】


「え……セレス・ティアーズよ」


【そっか。じゃあ僕はユシア・ティアーズって名前なんだね】


「そうよ……貴方、本当にユシアちゃんよね?」


 俺は頷く。


【うん。何で?】


「……あたしの子とは思えないくらい、賢そうだから」


 そ、そんなこと言うなよ、母。

 だが今は殺試合(デスゲーム)を始めないといけない。

 あとでフォローするとしよう。

 母の綺麗な赤髪が揺れ、碧眼が俺を捉えた。その綺麗な瞳に真っ直ぐ答えるのは後でにするしかない。


【セレス・ティアーズに『一撃必殺』と『強固防壁』を付与】


 『強固防壁』は俺が『依怙贔屓』を発動した時に仲間へと付与する加護(ギフト)だ。これがあると、デスゲーム参加者が『強固防壁』を持つ参加者を傷つけることはまず出来なくなる。『一撃必殺』より『強固防壁』の方を上位スキルとして設定しているから万が一、間違って誰かが仲間を攻撃しても『一撃必殺』は効かない。

 つまり『八百長』なわけ。


 俺は、本屋女子を見る。ずっと俺を抱きかかえてくれた女子は、あわあわと慌てふためいている。

 本屋女子は髪も瞳も薄茶色の瞳で、黒い店員用ユニフォームを着ている。

 ルックスは悪くないが、母と違って垂れ目で意思の弱そうな中性的な感じがする。


【ねえ、君、名前は?】


「あ、あたし!? パピル・スクロールよ」


 俺はスマホに魔力を込めた。


【パピル・スクロールに「強固防壁」と「一撃必殺」を付与】


「ええええ!」


 俺はニヤリと笑う。


【戦ってもらうよ、お姉さん?】


「無理無理無理無理!」


 パピルは嫌がっている。意思弱く流されると思ったが、どうやらそうでもないらしいな。


【でもさっきスライムの攻撃効かなかったでしょ?】


「あ……」


【大丈夫。だから頼むね】


 二人でいいかな? と俺は思った。

 だが、店のドアをくぐって出てきた男がいた。

 俺の母を助けようとしたおっさんである。


 眼鏡をくいっと持ち上げ、学者然とした態度のおっさん。ぶっちゃけ見栄えは悪い。しかし、俺は彼のことを気に入ってる。

 今回はゲスト参戦してもらうとしよう。


【おっさん、名前は?】


「ぶ、ブレイブ・ハートファイアだ」


 格好いい名前だな。見た目は冴えないおっさんだが、その名前に相応しい心を持っているのは知っている。


【ブレイブ・ハートファイアに「強固防壁」と「一撃必殺」を付与】


「? これは……まさか、赤ちゃん。君は俺に加護(ギフト)を付与してくれたのか?」


 おっさん。なぜそれが分かるのだろう?

 まぁいいや。


【母さん。パピル。ブレイブさん。貴方達にはデスゲームで生き残って貰います。勿論、優遇するんで】


「デスゲームって何?」と母。

「ちょっと、何であたしだけ呼び捨てなの?」とパピル。

「……赤ちゃんとは思えぬ凄い迫力だな」とブレイブ。


 三者三様の反応。だが構わない。

 俺はスマホアプリをタップして、配信Live画面へと移行。


【配信、スタート!】

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