第13話 俺を認める本屋女子と、俺を認めない母

「ユシアちゃん。このスマホ、どうしたの?」


「だぁ」


 俺は呪文書とスマホを指差す。母に、『コピーアンドペースト』の呪文で複製品を作ったと理解してもらいたいのだ。

 しかし、伝わなかったようだ。母は首を傾げた。


「ぼびーばんぼべーぶぼ」


「何言ってるのか分からないわ」


「ばぶぅ……」


 っく、どうすればいいのか。

 と想ったら本屋女子が、


「あの、あたし見てました。このユシアちゃんがコピーアンドペーストの呪文を使ってスマホを複製したんです」


「ばぶ!」


 俺は頷いた。この本屋女子、有能である。

 母はまたもやびっくりした顔になる。


「ゆ、ユシアちゃんが、コピーアンドペーストの呪文を!?」


「はい」


 母は口元を掌で押さえた。


「あ、ありえないわよ。だってコピーアンドペーストの呪文が使えるのは教皇と魔王だけ」


 !?

 教皇だけでなく魔王も使えるのか?

 そ、そうか。魔力を大量に消費するものの魔王クラスなら俺の呪文を使えてしまうのか。

 コピーアンドペーストは対象となった物体や文字コードを複製することが出来る呪文だ。


 本屋女子は首を横に振った。


「セレスさん。あたし、実際に見たんです。間違いありません」


「そうなの、ユシアちゃん?」


 母と本屋女子が二人とも見てくる。

 俺は頷いた。


「ばぶ」


「我が子ながら、本当に賢いわねえ」


「この子は賢すぎますよ、セレスさん」

 

「神童じゃないかしら」


「神童でしょうね」


「いえ、子煩悩が過ぎたわ」


「厳然たる事実です。今すぐにでも教皇軍に加わって欲しいくらいですよ」


 本屋女子の言い分に、母はちょっと怖い剣幕になった。


「ベテランの冒険者も軍人も容赦無く死んでいく教皇軍に……魔王軍との戦に、我が子を使うなんて嫌よ。夫を送り出すのだって辛いのに、この子まで送り出すなんて」


「でもその子は多分、既にS級冒険者以上のスキルを持ってます。世界を救えるかも」


「だめです!」


 うむむ。

 俺は場合によっては魔王軍と戦う所存だったが、どうやら母は許してくれないらしい。

 徴兵に赤子が応じるとかありえないもんな。

 女子供が戦場に行くなど国の末期とか言われるけど、赤ん坊は流石にない。


 母は頑固で、説得は不可能だろう。

 俺がそう想った時だった。


「ぎゃあああああああああああああああああ!」


 外から大きな悲鳴が聞こえた。よくよく耳を澄ませば、戦いの音が離れた場所から聞こえた。戦いの音は増えていき、悲鳴や絶叫もそれに比例するように増えていった。

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