第12話 スライム達、千匹以上来ていた

「ぼび」


 良し。俺はスライム達をぶっ倒すことに成功。

 っと……気付けば光る石が辺りに散らばってるな。なんだ、あれ?


 店員女が俺を抱きかかえたまま、俺の母をゆさゆさと揺さぶって起こす。


「ん……」


「セレスさん、起きて下さい! 大変です、大変なんです!」


「え……」


「貴方のお子さんが、スライムを」


「!?」


 うとうと顔だった母は目を大きく見開いて飛び起きた。


「ぼ、坊やが、大変!? スライムに、殺されたの!? あ、あぁ……」


 と悲嘆な顔を浮かべる母。だが、俺はまだ本屋店員の女子に抱かれたままなのだ。


「だぁ」


 俺は母に向かって小さな俺の手をふりふりと振る。我ながら愛らしい仕草だ。

 母は感涙極まり、滂沱の涙を流し俺を抱きしめた。


「ゆ、ユシア!」


 ぎゅーっと美人母が俺を抱擁してくる。うん。悪くない気持ちだ。


「ってあれ? 何だ、全然大丈夫じゃない。ユシア……怪我がないみたいで何よりだわ」


 母はきょろきょろと辺りを見回す。張り詰めた顔はまだ深刻だったものの、少し緊張が解けた顔になる。


「……もしかして、S級冒険者か軍の精鋭部隊でも来てくれたの? 見たところ、魔石が転がってる。ということは、誰かが倒したってことよね?」


「……はい」


「誰が倒したの? あたしの傷も治ってるということは、まさか、教皇様でも来た?」


 母は自分の体をストレッチするように動かしている。ただストレッチしているのでなく、母は自分の体に異常がないか確認しているのが見て分かった。

 母、何者だ?

 まさか、ベテラン冒険者か?

 あり得る。

 母のストレッチする姿は様になってた。


 母の言葉を、本屋女子は否定する。


「いえ、その……セレスさん。スライムを倒したのは、この子です」


「だぁ!」


 俺は両手を挙げて母に愛らしい手を向けた。母、俺だぜ!

 褒めて!


「……冗談をおっしゃい。ユシアはまだ生後八ヶ月よ」


 俺、生後八ヶ月だったのか。

 通りで体動かしにくいと思った。


「セレスさん。本当なんです。この子は……勇者の呪文書を使いこなしてました。天才魔導師です」


「だぁだ!」


 俺はドヤ顔でスマホを母に見せた。

 母はむっとした顔で、俺からスマホを奪う。

 おい、母、止めてくれ。それ取られたら皆を守れない。

 俺の最強スキルはスマホと一緒に使うことが出来るのだ。


「これ、誰の? もしかして、あの男性の……」


 母は視線を近くでずっこけている間抜けな姿のおっさんに目をやった。


「凄い姿勢ね」


「でぼ、ぼぼぼばべ」


 でも、漢だぜ。

 あのおっさんはスライムに殺されそうな母を助けたからな。


 本屋女子が母に苦笑しながら、


「セレスさん。あの方がスライムに果敢に立ち向かって本を投げたんです。気絶した貴方を守りながら、ね」


「ばぶ!」


 俺はセレスの言葉に頷く。

 母は俺の動作に驚いたらしく、目を瞠った。


「も、もしかしてユシアちゃん」


「ばぶ?」


「貴方、言葉が分かるの?」


「!?」


 俺は驚いたが、ここで頷かないと母とコミュが今後しにくくなるだろう。全力でぶんぶんと上下に頷いた。


「ばぶ!」


「そ、そうなの。賢いわね、ユシアちゃん」


 母はちょっと引き攣り気味に俺を撫でてくれた。

 本屋女子は俺に対し、絶句してたが仕方ない。生後八ヶ月の赤ん坊が言語を理解しているというのは驚かれて当然だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る