第6話 スライム達の襲撃

 母は俺の為だろう。絵本をいくつか持って会計へと向かった。


 綺麗な絵柄で書かれた絵本だったので読むのが楽しみだ。この世界の絵本のセンス、いいな。漫画とラノベとゴッホとミュシャを合わせたようなデザインの絵柄で俺に非常に刺さる。

 帰って読むのが楽しみだぜ。


「ばぶばぶぅ!」


「あら、ユシア。この本好きになれそう?」


「ばぶ!」


 俺が頷くと、母も笑顔になる。


「それは良かったわ。あれ?」


「?」


 母が何かキョロキョロと辺りを見回す。

 すると、母は何やら怖い顔をした。


「この邪悪な感じは……まずい!」


 母の赤い髪の毛が少し光る。え、何発光してんの?

 母は懐から何かを取り出した。いや、それは何かというより、明らかに前世の俺が考えた呪文書だった。


「『魔力感知』!」


 母は詠唱した。すると母の発光が少し弱まった。


「っく……これは、まずい!」


 母の顔が一層険しくなる。何がまずいんだろう?

 この世界で呪文が有効だと言うのなら、母は何かを魔力で感じたということになる。

 母は森の方を向いている。

 あっちに、何が……と思ったら。


 ぴょこ、っと顔を出してきた生き物がいた。

 スライムだ。

 粘体性の魔物で、それなりに強そうだ。

 うねうねと動く緑色の体は母と同じくらいの魔力を発している。

 数は……。五体。


「うわああああああ!」「きゃああああああ!」「ひいいいいい!」


 そこかしこで悲鳴があがる。

 魔物に皆慣れてないのか、驚いているようだ。


 母は舌打ちした。


「最悪、魔王軍の斥候であるスライム達が……もう街まで来てるなんて!」


 っく。俺に何が出来るというのか。俺の体は赤ん坊である。

 生後何ヶ月かも分からない。離乳食は済んでいるものの、腕力ではそこら辺の軍人どころか子供の中でも下位だろう。

 赤子の手を捻る、という言葉があるように今の俺を倒すのは容易だ。

 勇者の資質があっても、今は何もできまい。


「火球!」


 母は胸の前で手を組んで呪文を詠唱した。すると、実際に母の掌から火の玉が出てスライム達を襲う。

 今回、母が使った呪文は俺が考えた呪文とは違う。

 どうやら、この異世界には俺が考えて無い呪文も存在しているようだな。


 スライム達に火球が激突、一匹が蒸発し謎の石をドロップした。謎の石は発光している。


「っく、あたしの魔力じゃ火球はあと三発が限界。なら……いちかばちか、やるしかない」


 母は俺を本屋の店員に預け、


「郊外の小屋に住んでいるセレスです。父のゼウルは知ってますか?」


「ゼウルさんの奥様ですか? 勿論、ゼウルさんはA級冒険者ですからね」


 店員は頷く。父、A級冒険者なのか。強そうだな。


「あたしにもしものことがあったら、この子をゼウルにお願いします」


「もしもって」


 母は真剣な面持ちで俺を店員に預け、スライムに向き合う。

 縁起でもないこと、言わないで欲しいぜ。


「憲兵団がすぐに来るとは限りません」


「セレスさん、そんなこと言わずに!」


 母は首を振って、


「あたしが『魔力感知』したら、スライムはこの街に五百体以上来てます」


「ご、五百以上!?」


 店員の顔が恐怖に染まる。

 俺が見ても分かる。スライム達は雑魚などでなく強敵だ。

 魔力が人間の平均より多い。


「はああああああ! 『ほのぼの炎』!」


 母はスライムに突撃し、呪文を詠唱した。

 残る四体のスライムのうち、三匹が蒸発した。

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