第5話 異世界にスマホがあった
おいおい。
あのおっさんが弄ってるアレ、完全にスマホじゃん。
俺は俺から二十メートルほど離れたおっさんを凝視した。彼は新聞? のコーナーで難しい顔をしてスマホを弄っている。
「あら、ユシア。どうしたの」
「ばっぶぅ」
俺は赤ん坊特有の小さな手を使っておっさんのスマホを指差した。
「あらユシア。スマホに興味あるの?」
「!?」
俺は驚いた。異世界でもスマホがあるって言うのかよ。
「あれはね、教皇が異世界召喚を行った時勇者の部屋から呼ぶことに成功したっていう物なの」
異世界召喚便利すぎだろ。
もうアメリカ軍の装備でも取り入れて魔王軍と戦えっての。
?
スマホに奇妙なシールが貼られているのに気付く。
『鈴木裕』
おい、あれ俺のスマホじゃん。
「変な文字書いてるわよね。あれって何書いてるか分からないけど、仕方ないの」
何が仕方ないというのか。
「教皇様は呪文書に書いている呪文の一つ、『コピーアンドペースト』を使って量産することに成功したの。だから貼られたあの文字もそのままってわけ」
……母の解説はありがたい。俺の名札シールがそのまま貼られているのはむかつくけどな。
あれは初代iPhone。2007年に発売されたのを年上の従兄弟から貰ったお下がりだ。あれが中学卒業と同時に無くなったと思ったら、まさか異世界に泥棒されていたとは。
「教皇様はスマホを解析して教皇軍の強化を図ったんだけど、上手くいってないのよね。音楽や映像の再生記録とか伝達手段として使われているわ」
「ばぶぅ」
それが出来るなら離れた部隊と連携して電撃戦みたいなことできそうだけどな。なぜ出来ないんだよ。
スマホがあっても勝てないとか魔王軍強すぎるだろ。
「ユシアはスマホに興味あるの?」
「ばぶ!」
俺は頷く。
「賢いわねぇ」
「ばぶぶぅ~♪」
「でもうち、貧乏だから買ってあげられないわ」
「ばば!?」
俺はショックを受けた。スマホが買って貰えない苦しみをまた味わうことになるなんて。
初期型最低モデルのiPhoneでさえ買ってくれないっていうのかよ。
iPhone12とかじゃなくて1だぞ、1!
そのくらい、欲しいぜ。
「ばぶぅ~~♡」
俺は猫撫で声で母親に甘えてみた。
見苦しいかもしれないが、こうなりゃ破れかぶれだ。
「ダメよ。欲しがりません、勝つまでは」
「ばぶぁ!?」
どこかで聞いたようなフレーズで返された。
母の顔は、いつもより険しかった。
「ゼウルが……お父さんが教皇軍と一緒に組んで戦っているの。なのに私達がスマホで遊びたい、なんて許されると思う?」
「ば、ばぶぅ……」
俺はちょっと気まずくなる。確かにその通りだ。父は明らかに傷だらけになって帰って来る。しかも、今日も戦場に行ってるというのだ。それなのにスマホを買って欲しいと赤ん坊がねだったら許されなくて当然だ。
「分かってね、ユシア」
「ばぶぅ」
だが、理解は出来るがスマホは必要だ。
なぜなら俺は最強スキル『殺試合(デスゲーム)』を使うのに一つだけ誓約を用意した。
それがスマホなのだ。スマホがあって初めて起動できる。カメラなどでも良いのだが、慣れ親しんだ身としてはスマホがいいな。そもそも、スマホ以外にカメラがこの世界にあるのかも分からないし。
スマホ、欲しいな。やっぱ配信もしたいし。
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