第4話 瀟洒な街『プラハヤデ』
俺は家の近くにある街『プラハヤデ』にやって来た。
赤い瓦屋根が連なり、綺麗な景観になっている街。
町外れの高台にある我が家から見下ろした景色はそんな印象だった。
来てみると、それなりに色鮮やかで心が躍った。
「ばぶぁ~~!」
「あらあら、ユシア。そんな嬉しいの?」
「ばっばぁ!」
俺は精一杯笑顔になって喜びを表現した。母セレスも笑顔になり、子供として俺は大満足だ。
「ユシアが喜んでくれて、母さんも嬉しいわ。じゃあ母さん、ちょっと本屋寄りたいから行くわ。大人しくしててね」
「ばぶ」
俺が頷くと、美人母は頭を撫でてくれる。嬉しいぜ。
「賢いわね、ユシア」
母はご機嫌なまま、本屋へと向かった。
着いた場所はまさに沢山の本があった。それなりに広く、品揃えは圧巻だ。前世の俺の感覚で言うなら大きい駅に出店している大型ブックストアくらいの規模。
店員は十人ほどが働いてて昼間だというのにそれなりに客が来ている。
週刊少年漫画は読めないだろうが、絵本を読んで活字を理解出来たらいいな。
母は俺を抱っこしたまま、料理本コーナーに向かった。そこで俺は奇妙な本を見つけた。
「ばぶ?」
何これ、日本語じゃん。っておい。これ……前世の俺が考えた『僕の考えた最強呪文集』、じゃねえか。
何でこれ発売されてんだよ。俺の黒歴史ノートが異世界にあるなんておかしいだろ。
「あら、これに興味あるの?」
「ばぶぅ……」
思わず俺は気落ちする。
黒歴史を出版されて最悪の気分だぜ。何でこれがこの異世界にあるんだよ。ましてや、出版されてんだよ。
「真面目ねえ、ユシアって」
「ぶー」
真面目なんかじゃねえ。こんな本は焚書してやりたい。誰が出版したのか。
「これは勇者教というこの世界最大の宗教が出版した聖典なの」
「ば、ばんばっべ!?」
な、何だって!? 母、それは本当なのか?
なぜだ。なぜ一体、そんな流れに。
「この本に書かれてある呪文は本当に発動できるの」
アイタタタタ。
しまったよ。しまったってば、俺。
なんという黒歴史を……ってあれ?
母はナイフを使って指先を切った。赤い血がどくどくと出てくる。
「ば、ばぶぁ!」
「うふふ。大丈夫よ、ユシア。これは治るから。『第一の呪文:ほのぼの炎』」
俺が前世考えた呪文である。っく、なんてことだ。俺の黒歴史がこんなところで……あれ?
おい。
母の手からは炎が迸っているではないか。
「これね、味方は回復して敵は燃えてダメージを受けるっていう画期的な呪文なのよ。これが第一の呪文ってんだから凄いわよね」
……俺が前世、考えた通りの効果だ。
母の指先はもうすっかり完治してしまっている。
「……」
俺はふと、前世俺が考えた呪文書に惹かれた。
この異世界では俺の考えた魔法が実際に起動するらしい。
それなら、価値があるではないか。
俺の最強呪文、殺試合(デスゲーム)があれば基本負けることはないのだから。
「これね。昔、勇者教の教皇が異世界召喚をやった時、勇者様は喚べなかったけどこの本を手に入れたって豪語して世界に広まったの」
中学卒業と同時に無くなった俺の黒歴史ノート。異世界に飛んでたってのかよ。
はぁ。仕方ねえ。勇者やって世界救うとしますか。
配信者になって、人気者になりたかったけど勇者でも人気は多分出るだろ。
と思ったら俺の視界にとんでもないものが映った。
っておい、アレ。通行人がぽちぽちと弄ってるアレ。
スマホじゃねえか!!
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