第3話 母親セレスと父親ゼウル
夜になると、父親と思しき男がやってきた。
「貴方、おかえり」
「あぁ、ただ今。セレス、ユシアは元気にしてたか?」
「えぇ、凄い飲みっぷりだったわ」
「そうか。それは何よりだ」
……俺は父親と思しき男の顔を見る。明らかに疲れている。というより、傷だらけだ。
彼はマントに身を包み帰宅したのだが、マントを脱ぐと剣と水晶玉のようなものの数々を装備してたのが分かった。
「貴方、その……傷はヒールで癒えなかったの?」
「高位の回復魔術ハイヒールでも治らなかった」
それを聞いた俺の母セレスは口元を抑え、顔は青ざめた。
「どうにもならない。魔王軍はすぐそこまで来ている。勇者でもいてくれたらいいんだけどな」
「そんな……勇者なんて、現れるわけないじゃない」
父? は装備品を外すとリビングの椅子に座ってビールを飲み始めた。
「滅多なことを言うな。最近、勇者教の偉い人が言ったんだよ。『とうとう異世界から勇者の霊魂を呼ぶことに成功した』ってな」
「そりゃ言うわよ。言わないと士気下がるもの」
「おい、セレス」
「ゼウル。貴方は昔、高位の冒険者だった。その強さは信じてる。でも魔王軍は別格よ。彼等は本気で世界を取りに来た。誰も勝てない。勇者召喚なんて、上手くいくはずないでしょ」
「……いて欲しいな、勇者。異世界から来た霊魂、本当にといいんだけど」
いるぞ。ここに、な。
「ばぶばぶ!」
俺のことだよ、とアピールした。俺は小さな手を使ってゴリラのように胸を叩く。
それを両親が見て、笑顔になる。
「可愛い~~~!」
「見たか、セレス! 俺達の子はなんて可愛いんだ!」
「ね! 可愛い!」
「っくぅ~~~、お父さんなら魔王軍を倒せるって言ったのかな? もう、大好き!」
勘違いするなよ。俺が勇者の霊魂ってことだ。異世界から転生されたのが勇者の霊魂ってなら俺だろ。
だが俺は言葉が話せない。
両親は勘違いしたまま、俺を抱き上げてすりすりしてくる。
「好き! ユシア、大好き!」
「ずるいぞ、セレス。次は俺だ!」
「もう、しょうがないわね」
「ばべばべ」
やれやれだぜ。
しかし、勇者の霊魂とは言え俺は今転生したばっかで赤ん坊なんだよな。
俺が成長するまで魔王軍は好き放題出来てしまうのだろうか。
それはちょっと可哀想だな。
どうしたらいいのだろう?
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