〜再開〜

次の日、あのメイド口調の人からだと思われる手紙がおいてあった。


内容は…


「鬼流様へ。昨夜、戻れず、誠に申し訳ありませんでした。今から、指定する場所へお越し下さい。」


そこで待っているのかな?


指定している場所は、個室より少し高級感のある、特別作業室だった。


急いで、その部屋へ向かう。

その部屋は、前よりも進化していて、リラックスできる空間となっていた。


そこでは、キラキラと光るペンを持った、メイド口調の人物がいた。


すると、


「昨日は、誠に申し訳ありませんでした。この部屋にお越しいただいたのは、この秘密の契約書にサインをしてもらうためでございます。」


サインだって?昨日はこんな話をしていなかったではないか。

しかも、考えて見れば、自己紹介すらされていない。


この人は、何者なんだ?


「ああ。その前に、あんた…名前はなんだ?多分、あったときにするものだろ?」

…しばらくの間、何も喋ってはくれなかった。


「…私の…名前は…」


動揺しているのだろうか?顔が真っ青だ。


「私…自分の名前がわからないんです…!」


は?その時、ふざけているのかと言おうと思ったが、顔の表情からして本当のようだ。状況の急展開についていけない。


「名前がないのか?…わけがあるんだろうな。話してくれないか?直球に聞いてしまってすまない。」


名前がないとは相当だ。親がいないのか?しかし、いなくても名付け親はいるはずだ。


「……」


この子の返答を待つ。


「…」


「大丈夫か?話したくなかったら良い――。」


「なんでそんなに優しくしてくれるんですか!?私に名前がないなんて信じられないでしょう?なのに…なんで…」


私は、すべてを理解した。この子は、優しくしてもらったことがないのだ。


きっと、友達にも、虐められていたのだろう。


そして、親にすら優しくされなかったのだろうと。


しかし、新たな疑問が生まれた。


「あの…なんて呼べば良いかわからないんですけど、名前がないのにどうやって会社に入社したんだ?名詞かなんかが必要だろう?」


どこの会社だって、名前を教えなければならない。そのシステムを、どうやってかいくぐったのか。


「…鬼流様。普通は名前を偽造すると思いますでしょう?しかし、違うのです。そう、私は…」


たしかに、その可能性を考えたが…それは…


「鬼流様はご察しが良いですね。この会社は、名前が本物かどうか徹底的に調べられるんです。なので、名前を偽って名乗っても、だめなんです。そしたら、どうしたって?それはですね、私の存在を当たり前にしたんです。」


存在を当たり前に?


そんな事が可能なのだろうか?なにかの技を持っていても、人間の技では到底無理だ。


そこのところは、詳しく聞かなければ…


「存在を当たり前にってどういうことだ?できれば、詳しく教えてほしい。言いたくないことは、深堀しない。」


この子…そう言うことか…


「…鬼流様…いや、舜太よ。久しぶりだな。」

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