第6話

とりあえず気色悪く動く黒い何かを見つめながら尋ねる。

「注意しろつったってこいつをどうすればいいんだよ!」

「まあ止めるならこの怪異を倒すしかないじゃろうなあ。」

「倒す?俺が?」

「そうじゃな」

確かにこの場で戦えるのは俺ぐらいしかいないが、、、

少しそのと呼ばれた化け物に視線を向ける。

「なんか人の形になってきてね?」

「乗っ取った器を学習しとるのじゃろう。」

どうする?石でも投げつけてみるか。いやそもそもこいつは俺が戦って倒せる奴なのか?考えているうちに怪異は2か3メートルぐらいの大きさになっている。いったいどうすれば───────

「ッ!!」

恐ろしい殺気を向けられ顔を上げるといつの間にかに近くに来た黒い怪異が半透明な腕を振り落としてくる。

「うおお!」

咄嗟に身を翻し避けることが出来たが砕けて飛んできた破片が腕に刺さる

「アスファルトがこんな簡単に、、、、」

えぐられた地面を見つめながら呟く。やばい。確実にやばい。

「あまりボケっとしてるでないぞ。」

「す、すまん。いやでもこれ本当に俺でも倒せる?なんか弱点とかないのか動力源とかなんか。」

「うむ、それならあの怪異の身体の中心に露出しておる眼球みたいなやつに妖力がたまっておるな。」

ぎょろぎょろしている気味の悪い球体を指しながら答える。

「あの目玉をどうにかする。くそ難易度たけぇけど、、、やるしかないのか。」

顔が恐怖で引きつる。だがここで止めなくっちゃ一般人に被害が及んじまう。そう思いながら怪異に向かって走り出す。どうやればあの目玉までたどり着けるかはもう考えている。さっき見たこいつの腕の振りは後隙が大きかった。だから───

「攻撃を誘ってから、近づく!」

怪異が振り下ろした腕を後ろに飛んで避け散らばる破片を気にせずに突っ込む。

後隙が大きく近づきやすいという推測は当たったのですんなり懐に入れた。

「もらった!」

大きく手を伸ばし目玉を思いっきり引っ張り出そうとした瞬間

目玉がずるんと身体に潜り込み背中に移った。

「え」

あまりに奇怪な光景で呆気に取られた。すかさず怪異が横から振り払った腕で吹っ飛ばされる。一瞬で空中に放り出された。自分の身体は思っているより飛び、まるでボールのように弾んでから校舎裏近くの林に草木を折りながら突撃した。

「あ─────が、ぁ」

多少落ち葉や葉で衝撃は緩和できたものの吹っ飛ばされた勢いが強いのか衝突した背中が痛む。骨は辛うじて折れてはいなそうだ。少しでも行けると思った俺が馬鹿だった。怪異を人間と同じ尺度で測ってはいけないをひどく痛感する。

「意識は失っておらんな。だったら早う立たんか。怪異を止めるんじゃろ?」

「ぐ、、、、いやでもどうすりゃいいんだよあんなの。」

先程俺を吹っ飛ばした怪異は俺の事を探しているのか林の方に動き始めている。

「なんじゃもう手詰まりか、情けないのぉ。」

悔しいが何も言えない。俺にもプライドはあるのだがこの際そんなことに構ってはいられない。

「何か手を貸してくれないか?ほら。前回俺の身体に憑依したやつ。もう一回できないか。」

「駄目じゃ。あの術は主の身体にかなり負担がかかる。命が惜しいのであればやめておくのが賢明じゃな。」

確かに前回の憑依された後は妙に肩やらなんやらが重かったが実際はもっと負担がかかっていたらしい。

「じゃ、じゃあ他に何か方法はないか?」

「うーむ。」

チヨメが頭を抱える。

「あまり使いたくなかったのじゃが。しょうがないのぉ、主よそこらの棒きれを一本持ってくるんじゃ。」

手を差し出しながら言ってくる。たかが棒で何ができるんだと思いながら落ちている木の棒を拾いチヨメの手の上に置く。

「一応言っておくが主の妖力も使うから少し負担がかかるぞ。」

「え」

そういった瞬間俺の腹の辺りとチヨメの身体全体から青白い光が抜けだす。その光と共に身体から徐々に力が抜けていく。チヨメが至って真面目な顔で何かをしている中、段々頭が痛くなって吐き気もしてきた。

「ほら完成じゃ。」

憑依する奴じゃなくても負担がかかってるじゃないかと言いたかったがすぐに先程渡したものと何も変わらないような木の棒を投げてくる。

「これに何したんだ?」

「主と妾の妖力をその棒に込めたんじゃ。あの怪異ぐらいならそれでも太刀打ちできると思うぞ。ついでにさっき吹き飛ばされた時の痛みも消しておいたぞ。これでいけつじゃろ。」

成る程。じゃあこれを使えばまだ渡り合えるのか。

「よし。行ってくる。」

まだ身体は重いが痛みはなくなった走れないほどじゃない。今俺の事は気にせずにすぐに行くべきだ。

「なんじゃ、もうちっとためらうとおもったんじゃがな。うむ、決断が速いのはまあいいことじゃな。妾はちと妖力を使いすぎた主の身体へ戻るぞ。」

そういってチヨメは青白い光となって俺の中に消える。息を深く吐きながら先程から木やらなんやらが倒れる音がする方へ歩みを進める。今は背中の腰辺りに移っている目玉を見る。前が見えていないようで手あたり次第に暴れている感じだ。幸いまだこちらには気付いていないようで容易に背後に回ることが出来た。

(ここで失敗したら本気で後がないぞ、、、)

勝手に上がる心拍数の音を聞きながら一発で決めるためにゆっくり冷静に思考を研ぎ澄ましていく。万が一のことを考えていてもしょうがないので足音を殺し、木に隠れながら近づく。木がどんどん倒れているので多少落ちた葉を踏んでも感づかれないはずだ。渡された木の棒を力強く握り飛び掛かる機会を探る。狙うなら腕を振った時の後隙だ。怪異が腕を上げる。すぐに刺しに行くため足に力を入れる。恐らく振り下ろした腕の空を切って木に当たり折れ曲がる音を聞く。

(いまだ!)

音を聞いてすぐに木の裏から飛び出す。そのまま勢いよく怪異の目に飛び掛かり深々と棒を突き立てる。

木の裏からでて棒を握り走り出した瞬間、怪異の大きな目玉がはっきりとこちらを見据えた。こちらを認識してすぐに目玉を身体の反対側辺りに戻す。あの目玉は、錯覚かもしれないがにんまりとした邪悪な顔を連想させた。学習していたのだ。人間の形だけでなく人間のまでも。誘い出されたと理解するころにはもう後戻りはできない状況だった。

(こっからどうにかするには───)

思考をフル回転させて打開策を考え、一つの案が思い浮かぶ。策と言って良いのか分からないし、かなりの運頼みであったがもうこの方法に頼る以外に道はない。足の速度を緩めずまっすぐ飛び掛かる。怪異の方は俺が予想外の動きだったのか少し面食らって動くことを一瞬躊躇していた。その少しの隙を見逃さずに勢いよく怪異に木の棒を突き刺す。怪異の身体に貫通し、棒の先端が身体と一緒に肥大化していた目玉に刺さる。

『──────!─────────!!!』

怪異が複数の音が混ざり合ったかのような甲高い音を出す。耳を塞ぎたくなるが我慢して怪異の目玉の前に回り込み後ろに飛びのく。まだ木の枝が刺さっているのを確認してビクビクと鼓動している目玉に狙いを合わせ今出せる全力の力を出して助走をつけて両膝を折り畳むように飛ぶ。

これでも─────

「くらえッッッ!!」



走った勢いを乗せて少し身体を傾け両足で蹴りを入れこむ。ゴムのように柔らかい目玉だったがしっかりと木の枝が深々と刺さる。

『────!!!────、、、、、─、、、、、、、、、、、、』

怪異の身体全体が蒸発していき目玉だけが残っていく。先程と同じように甲高い音を出してきたが、刺した部分からドロドロとした液体が出ると同時に風船のように音がしぼんでいった。蹴った後無様に尻もちをついた俺はその液体をもろに浴びる。

「うっっっっっわきったねなにこれ!!やっば口の中にも入ってきた!ぺっぺっ」

慌てて顔やら身体やらなんやらから変な液体を振り払う。勝利の余韻とか脱力感に襲われるとかあるじゃないですか。

「気持ち悪くなってきたしなんかもっと身体重くなってきたんだけど、、、、。」

倦怠感かぁ、そっちは嫌だな、、、。

そんなくだらないことを思っていると身体の中で何かがうごめき始め、はじけるように俺の身体からチヨメが出てくる。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」

いつの間にかめちゃくちゃの量が出てきている液体にダイブして歓喜とも驚嘆ともとれるような珍妙な叫びをしながら液体を手ですくってなめている。

え、きも。

「おい。そこの主よ。別にこれはそんな汚いものじゃないぞ。これを摂取すると妖力が回復するんじゃよ。」

「へー。」

だとしても絵面がなあ。ちょっとなあうん。

「じゃがこの量を飲み切るのは面倒じゃ一つにまとめるかの。」

そう言ってなんか手に力を込め始め液体が一滴残らず集中して一つの塊になってしまった。ごつごつして色がどす黒い。こんなおぞましい黒色見たことないんだけど。

「あーーむ。」

あ、一口でいった。

「ん-ー。美味じゃな。満足したぞ。」

そう言うと変な丸い光になって俺の中に入ってくる。入った衝撃で仰向けに倒れる。疲労がたまっているのか身体を起こせない。少しまどろんでいる中、校舎の方から誰かが走る音がしてきて勢いよく角から飛び出してきた。

「何の音だ!こんな時間まで誰が何やって、、」

顔をそちらの方へ向けると男性教師の驚いた顔が目に入る。

「なんだなんだ!大丈夫かそこにいる二人!!!」

うーんなんか駆け寄ってきてくれてるのに申し訳ないけどすごい眠くなってきた。大きな声で呼んできているけどもうほとんど頭に入ってこない。今日は頑張ったでしょ、俺。

「──い!へ──んじを─────し─────!!」

薄れゆく視界でぼんやり見つめる。なんか頭の中にやれやれといった顔でこちらを見ているチヨメがいたが気にしないことにする。

そうして落ちていく意識を掴めず睡眠の誘惑に負け、

そのまま眠りについてしまうのだった───────────────


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖魔怪奇譚 たこ焼き太郎 @takoyki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ