第4話

何か悪い夢を見ているのだろうか。俺の目には今目前で女の子が浮いているのだが。

「何を呆けておるのじゃ。妾を美貌に見惚れたか?」

「見惚れてない。」

「そんな真顔で言わなくてもいいじゃろ、傷つくぞ。」

少し落ち込んでぼそぼそと呟く。今一度顔をよく見てみると確かに世間一般的には美人の部類に入るのかもしれないが、幼女を美しいと思う変態にはなりたくない。

「さっきから何なんだよお前は。あるじだかなんだか言ってきて。」

「それは今妾がいるのが主の中なのじゃから、所有権はそっちはにあるじゃろ?」

そこはちゃんとしてるんだ。

「まあ妾が現界出来てるのも主のおかげじゃからな。」

「現界ってなんだ?」

「例えば幽霊のような実体がない存在が生きている人間の生気や空気中にある妖気などを使って顕現することじゃな。まあ見えるだけで触れんがの。」

そんな非現実的な説明でも信じてしまうほど嘘を言っているようには見えなかったし、今一番現実的ではない存在が目の前にいるので疑いようがなかった。しかし一つ疑問が浮かんだ。

「空気中にその妖気なんてものがあるならわざわざ俺の中に入らなくてもよかったんじゃない?」

「それもそうなのじゃが、、、もうここら辺は妖気がないんじゃ。だから人間の生気を取らなきゃいけなかったんじゃがなかなか人が来なくてのぉ。」

まあここまで廃れてると必然的に人が来なくなるのは納得だ。

「そう考えると何故主はここにきたのじゃ?」

「あっ!忘れてた!」

あいつらに命令されてからかなり時間がたっている。急いでもと来た道へ振り返り駆け出す。

「ちょっ、置いていくな主よ~」

「来るなら早く来い!」

後ろを振り向きもせず言う。幽霊だからなんとかなるだろ。周囲はだいぶ暗いので明かりなしでは少しつまづきはしたがなんとか走り抜けた。あいつらの姿が見えた。あちらも俺のことを見つけたのか近づいてくる。

「おい!お前おせえじゃねえかよ!」

「あー、ごめん。」

周りを見ると仲間どもが俺を囲んで睨みつけていた。幽霊は怪訝そうな顔をして漂っているがどうやら周りの奴らには見えていないらしい。

「てめえ舐めてんのか。もちろん証拠はもってきたんだろうな!」

「あぁ、それならスマホに、、、、」

充電が切れてる。瞬間手が腹部に飛んできて激痛が走った。

「なんもないじゃないかよ!調子乗ってんじゃねえぞ!」

腹を思い切り殴られたので嗚咽感が来てえずく。追い打ちかけるように横蹴りが顔面に迫ってくる。

「っ!」

咄嗟に手を出して足を受け止めるが、衝撃が伝わりバランスを崩し倒れる。

「反撃しようとしてんじゃねえよ!無駄なんだからよ!!」

周囲が笑う。止めどなく来る蹴り。もうどうすればいいかわからない。俺はこのままいじめられたまま過ごすのか、そう思うと情けなさで歯軋りをする。俺は何もできないのか————



「助けて欲しいか?主よ」



そう囁いてくる。


「、、、、、、どうにでもしやがれ。」


自暴自棄になっているかはわからない。聞き取れるかどうかわからないくらい小さな声で呟いた。。でもどうやらあの幽霊には届いたらしい。

「安心するのじゃ。少し身体を借りるだけだからの。」

そう返答されると幽霊の身体が淡い光となり自身の身体に入っていく。少しずつ意識が沈んで行く—―—――――――




気が付くと起き上がって先ほどまで俺を蹴っていた奴を見下ろしていた。

「やっと起きたか、主よ」

そう幽霊が喋りかけてくる。途端今までおぼろげだった意識が冷静になる。

「なにしたんだ?」

震える声で聞く。

「殴った。」

こいつに身体を貸したこと後悔する。少し考えれば貸さないほうがいいとすぐわかるはずなのだが。まあ殴られてたし。まあありがたくはある。しかし明日学校に行けば何をされるかはっきりわかる。やり返しに来るだろうし普通に殴られるだろう。

「もういいや帰る。」

めんどくさくなってきたので考えるのを放棄した。

「お前もついてくるんだろ?」

「まあそうじゃな。」

何を言おうか一瞬迷ったが最初に会ったときから聞いていなかった質問を改めて言った。

「お前名前は?」

少し困った顔をしながら。

「チヨメ、、、、チヨメって呼ぶのじゃ。」

そんな会話をしながら朝日がかすかに昇っている空と共に帰って行くのだった。

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