第18話 シンの魔法実技講座(2)
「さて、ここまででみんなのこれまで知識として知っていた魔法とは違う考え方だということが解ってもらえたと思う」
シンが見回しながらそう言うと、飛び跳ねているティア以外の面々は皆一同にうんうんと首を縦に激しく振っていた。
「魔力をコントロール出来るようになり、魔法のイメージをよりはっきりと思い浮かべることが出来るようになれば、その発動までに必要な詠唱を破棄出来たり、自分の魔力量に応じて威力を調整することが出来るようになる。これまで何段階かに威力分けされていると覚えていた魔法が、自分の好きな威力の魔法を扱えるようになる、と思う」
「思う?」
ティアが首を傾げる?
これは全て自分の考えでしかなく、これまでもフェルトたちに指導することのなかったシンにとっては、実戦データと呼べるものが自分自身の経験でしかなかった。
なので他の者が同じような方法で、自分と同じように魔法が使えるようになるかどうかの確証は持てていない。
「ま、まあ、レオンが出来たんだから、きっとみんなも出来るようになる、と思う」
「思う?」
ティアの首が直角になるほど傾いている。
「えっと、そうそう!それが出来るようになればこんなことも出来るようになるよ」
ティアの視線に耐えきれなくなったシンが懸命に話を逸らしにかかる。
「ティア、ちょっと手伝ってくれる?あ、首は元の位置に戻して」
「え?あ、はい。何をすれば良いですか?」
「えー、これからティアにはあそこにある的を火魔法で攻撃してもらいます」
シンが指さした方向には、魔法の練習用に設置されている木製の的が五つ並んで立っていた。
距離は約十メートル。
生徒たちが魔法の精度を鍛える為の的で、見た目は普通の木の的だが、そこには強固な魔法障壁が張られてあり、学生レベルの魔法では破壊することは出来ないようになっている。
「先生、普通にファイヤーボールで的を狙えば良いんですか?」
「うん。普通に的を攻撃してくれたら良いよ」
「分かりました」
ティアは的に向かって立つと、目を閉じたまま両手の平を的へと向ける。
「猛き炎よ!我が手に宿りて、敵を撃て!ファイヤーボール!!」
ティアが詠唱を唱えると、突き出した手の前に炎と化した魔力が現れ、ボーリング玉ほどの大きさとなった炎が猛烈なスピードで的に向かって飛んでいく。
そして見事に的に命中し、ファイヤーボールは当たった衝撃で霧散して消えた。
「おい、ティアのファイヤーボールってあんなに威力あったか?」
「ティアさん、凄い……」
ティアの魔法を見た他の生徒たちから驚きの声が上がる。
的に命中したことよりも、それまでに知っていたティアの魔法の威力が上がっていたことに驚いているようだった。
「うん。お見事。ティアは魔法のイメージを創るのが上手だね。今日の話を聞いただけで、昨日よりも威力が大分上がってる」
「……ちょっと自分でもびっくりです。普段のファイヤーボールよりも強めの炎をイメージしただけなのに……。でも、何か……身体が怠いです……」
「ああ、いつもより多めに魔力を使ったからね。身体がまだそれに慣れてなくてびっくりしてるだけだから心配ないよ。魔力が枯渇したとかってことでもないし」
「そう、なんですね?」
そう言われても、ティアはあまりしっくりきてない様子。
確かに魔力切れを起こしているような感じではないが、それでも体の中にぽっかりと穴が開いたような感覚がある。
「先生、魔力のコントロールとイメージが出来れば、僕たちの魔法も強くなるってことですか?」
レオンが興奮した様子でシンに詰め寄ってくる。
「あ、ああ。それはさっきも説明したように、自分の魔力量に応じて好きな威力に調整出来るようになるよ。でも、今ティアに手伝ってもらったのはその先のことを伝えておきたかったんだ」
「……これの、次ですか?」
そう言ったティアの声はまだ怠そうだ。
「うん。今ティアは的に向かって手を広げ、そこからファイヤーボールで的を狙ったよね」
「はい……。先生がそうしろとおっしゃいましたので……」
「だね。でも俺は、的を狙えじゃなくて、攻撃してって言ったんだよ」
シンはそう言ってティアに微笑む。
「攻撃?……狙うとどう違うんでしょう?」
「そうだね。じゃあ順番に説明していこうか。まず最初に、ティアは何故手の平を的に向けたの?」
「え?それは……魔法の照準を合わせて当てやすくする為です」
「なるほど、普通はそうだね。でもね、別に目で見て集中するだけでもそれは出来るんじゃないかな?ファイヤーボールが飛んでいくイメージをしっかり持つことが出来ればさ」
「あ……そうか……飛んでいく魔法の軌道のイメージを自分の中でしっかり出来れば……」
「うん。それが出来ればわざわざ標的に手をかざす必要は無いよね。別に手の平から魔法が出てるわけでもないしね」
「そう……ですね……。うん、出来るはずですわ」
「それと次に、ティアは魔法を自分の前に出現させて的に飛ばしたよね?」
「え?それは……ファイヤーボールですから……そうしましたけれど……」
「どういうこと?」
「いや、分かんねえ」
今度はシンが何を言っているのか理解出来ないという感じのざわつきが起こる。
「それも固定観念だよね。ファイヤボールは目の前に作って飛ばして当てる。まあ普通はそうなるように組まれた詠唱なんだから仕方ないんだけどね。でも、詠唱を破棄出来て、魔力をコントロール出来るようになれば――」
そう言いながらシンは的の方を向き――
「ファイヤーボール」
――ゴオォォォォォォォ!!
「わあぁぁぁぁ!!!」
「きゃあぁぁぁ!!!」
突然、並んでいた的が燃え上がる。
いや、燃え上がるなんてレベルではなく、五つあった的を全て包み込むような巨大な火柱が上がった。
「こういうことも出来るようになるよって言いたかったんだ」
シンのその言葉は、驚き呆然としている生徒の耳には届いていなかった。
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