第17話 シンの魔法実技講座(1)
「けど、急に決まったんで特に何の準備もしてないんだよなあ……」
とはいえ、何もしないわけにはいかないし、これを望んだのは自分自身である。
元々教師経験の無いシンである。いきなり「魔法学」と「魔法実技」という別々の授業の内容を平行して進めていく計画を立てるというのは少々難易度が高い。
「……じゃあ、さっきの授業で教えたことを実践してみようか」
「あの徐々に魔法を調整するやつですか?」
ティアが大きな目を輝かせながら聞いてきた。
「そうそう。でもいきなり全員がやるのも危ないから――レオン。ちょっと前にきて」
「俺、ですか?」
「昨日見た限りだと、このクラスで一番魔力の制御が上手そうだから」
「多分そうだと思いますけど……。昨日……そこまで見てたんですか?」
「まあ、大体全員の能力は把握した」
事も無げにそう言い放つシンに驚きを超えて感動すら覚えるレオン。
シンが言っているのは訓練場でクラス二十人が一斉にシンに魔法を撃ちこんだ時の話だ。
全員が動き回りながら様々な魔法を絶え間なく打ち続けていた。その全てがシンに届くことはなかったが、レオン自身も何がどうなっているのか把握出来ないほどの乱戦の中で、一人一人を観察する余裕すらあったことへの驚き。そしてそれを容易に分析することが出来るということへの畏敬。
隣ではティアがその感動を隠すことなく興奮して腕をぶんぶんと振り回している。
前に進み出たレオンは皆のいる方へと向き直り、その背中にシンが立つ。
「まず、【
言われたとおりに【
右手の指先に蝋燭の灯のような小さな火が発生し、左右にゆらゆらと揺れていた。
「じゃあ、その火を見つめたまま、体内の魔力に意識を集中させて」
レオンの瞳に揺れる炎が映っている。
しかし意識は自分の内側へ、深く深く沈みこませ、体の中を廻る魔力へと集中していく。
催眠状態の様な虚ろな瞳となったレオン。
「そのまま、そのまま見えている炎に【
言われるままにイメージした【
レオンの中で重なる二つの炎。
一つは実在し、一つは半透明に透けるように見える。
「魔力の流れを意識したら、それを指先の炎を移動させるイメージを」
次第に二つの炎の輪郭がブレ始め、その形を同じにしていく。どちらか一方に合わせるということもなく、レオンの視界の中で重なり合っていく。
それに同調するかのように、ゆっくりと自分の魔力が炎へ注がれていく感覚を覚える。
レオンは初めて感じる不思議な感覚の中、シンの言葉を頭の中で繰り返していた。
(魔力を移動させるイメージ……魔力を移動させるイメージ……)
「おおー!!」
突然上がった歓声に驚いて我に返るレオン。
「何!?」
「うん。上手く出来た」
レオンは背中越しに聞こえてきたシンの声で、自分の目の前にある【
「あ、れ……いつの間に……」
「はい、じゃあ消して」
シンの言葉に慌てて大きくなっていた炎を消す。
「凄いよレオン!ゆっくりだったけど、【
自分の事のように興奮しているティア。
その勢いに若干引き気味の当事者であるレオン。
自分がやった実感が無いので余計に温度差が大きかった。
「どう?魔力が流れていくのは感じた?」
「はい……多分あれがそうなのかな?と……実感は無いですけど……」
「見てる分には上手くいってたから、今感じた感覚がそうだと思う。これから何度も練習していけば、そのうち意識することなく感覚で出来るようになるから。それが出来るようになれば、魔法の種類を決めて使うことをしないでも、好きな規模の魔法を無詠唱で発動出来るようになるよ。どんな火魔法でも自分の魔力の範囲内であれば、基本は無詠唱で使える【
「……いや!あれは無理でしょう!?」
「そんなことないよ?ちょっとコントロール難しいかもしれないけど、その辺を補うのが術式だから、併用して使えば出来ると思う」
今のレオンの魔力量ではまだ無理だけどね。と心の中で付け加える。
「あれを……俺が……?」
それまでのレオンの常識でいえば、魔法を使う時は必要な魔力が発動時に一気に使われて終わりというのが普通であり、発動後に魔力を調整するといったものではなかった。
だからシンの言わんとしていることは理解出来るが、この延長線上に昨日見た炎竜があるとはすぐには納得出来なかった。
「さすがに想像がつかな――」
「先生!次は私がやりたいです!」
話の途中で突き飛ばされて転がるレオン。
振り向いた先では、ティアが子供のように両手を上げてピョンピョン飛び跳ねていた。
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