第8話 継がれゆく血界魔法

「魔法を撃ち続けろ!あいつにテリオスの気配を感じさせるな!!」


 弾幕のように撃ち続けられる多種に渡る属性魔法。


 ――だから全部聞こえてるから。


 シンは動くことなく障壁でその全てを防ぎ続けている。

 そしてそれに紛れる様に背後に回り込んだテリオスの動きも当然把握していた。


「ウオォォォォォォ!!」


 強化した魔力を全て右拳に集中して背後から襲い掛かってくるテリオス。


「どうしてそこで声を出すかなあ?」


 シンは振り向くと、目の前まで迫っていたテリオスの拳を素手で受け止めた。


「――!?」


 渾身の一撃を簡単に受け止められたことに驚愕の表情を浮かべるテリオス。


「思い切りは良いけど、もし普通に殴ってたら拳が砕け散ってたぞ」


 テリオスを諭すように言いながら、その背中では降り注ぐ魔法を全て障壁で跳ね返し続けている。

 そしてテリオスの腕をそっと押し返すと、全ての魔力を使い果たしていたテリオスはよろけながら後ろに下がった後、力尽きてそのまま尻もちをついて倒れてしまった。


「何だ……。あいつは何なんだー!!」


 その一部始終を見ていたヘルマン。

 確かにシンはテリオスの攻撃を障壁で防ぐようなことはしなかった。しかし、全く意に介さないように受け止めた様子から、自分たちの作戦が甘かったことを痛感した。


「ヘルマン!そろそろみんなの魔力が限界よ!」


 ヘルマンがティアの声に周囲を見回すと、すでに魔力切れで倒れている者が出始めていた。

 残っている者にも疲労の色が見え、テリオスの攻撃が通用しなかった以上、今の攻撃を続けることにも意味が無く思えてきた。

 せめて剣でもあればとも思ったが、それもすぐに意味が無いだろうと考えた。そしてヘルマンは決断する。


「全員攻撃を止めろ!!」


 ヘルマンの指示で全員の動きが止まる。

 ほっとした表情を浮かべながらその場にへたり込む生徒たち。


「これでお終い?どうかな?これで俺に君たちを教える資格があると認めてくれる?」


「まだだ!!」


 ただ一人戦意を失っていないヘルマン。


「これを食らっても生きていられたら認めてやる!!」


 そう叫ぶとヘルマンは自分の右手の親指を噛む。

 傷口から血がぽとりと床に落ちる。


「ヘルマン!それは駄目!!」


「うるさい!お前たちは下がっていろ!!」


 ヘルマンが何をやろうとしているのか察したティアが止めようとするが、ヘルマンがそれを聞き入れることはなかった。


「みんな下がって!いや、急いで訓練場から出なさい!!倒れている者は近くの者が手を貸すのよ!!」


 ティアはヘルマンを止めることは出来ないと判断し、急いで生徒たちの避難誘導を始めた。


「まだやるの?」


 シンは普通に聞いたつもりだったが、今のヘルマンには挑発にしか聞こえない。


「貴様が優れた魔導士であることは分かった!それでも!どこの誰とも知らぬ貴様を認めることなど出来ぬのだ!!」


 指から流れ出た血が、ヘルマンの足元を走り出し、それは徐々に魔法陣を描き出していく。


 ――自分の血で魔法陣を?しかも無詠唱で描かれていく?


 それはシンにとっても初めて見るもの。

 興味津々の表情で魔法陣が完成するのを見つめる。


 ――どうやらあの血には魔力と別の何かが含まれているっぽいな。


 シンがそんなことを思っていると、魔法陣はついに完成したように輝きだした。

 避難を終え、スタンドで見守る生徒たちと、少しだけ不安そうな表情のマーベル。

 怒りの表情でシンを睨むヘルマンと、その魔法陣しか見ていないシン。

 皆がそれぞれ違った感情を持ちながら、場の緊張だけは高まっていった。


Der Drache裁きの des zornigen Gerichts獄炎竜


 ヘルマンを包み込むように魔法陣から炎が吹き上がる。

 それは火柱のように吹き抜けの訓練場の空へ向かって伸びていき、その形を徐々に変えていった。

 そして全ての炎が噴き出し終わると、炎は空舞う竜の姿となって旋回を始める。


「はぁ、はぁ、はぁ……。これが、七大公家に伝わる血界魔法、だ」


 未だ輝き続ける魔法陣の中央に立ち、大きく肩で息をしているヘルマン。


「これは、凄いね……。成程、結界魔法――代々血で受け継がれてきた秘術ってとこかな?」


 火竜を眺めながら観察を続けているシン。


「……そうだ。これは七大公家の嫡男だけが受け継いでいく、帝国が最強である証!!」


 火竜に込められた魔力は、とてもヘルマン一人で補いきれるようなレベルのものではなく、ヘルマンの言う通り代々の先祖たちが血を持って伝え続けた秘術であるとシンは理解した。

 そしてこの力こそが、七大公家が皇帝と同格とすらいえる力を保持することの出来る理由なのだと。


「凄い威力なのは認めるけど、君の今の力じゃ制御しきれないんじゃない?それに、多分この訓練場ごと吹き飛ぶ威力な気がするけど……」


「うるさい!!俺に求めらているのは絶対の勝利!!たとえ学生の身であろうとも、大公家の誇りの為なら命すらも惜しくないわ!!」


 ――いや、それはこっちが困るから!こんなとこで簡単に命賭けんなよ!しかも他の生徒の分も!!


「死ねえぇぇぇ!!」


 巨大な火竜が、シンを目掛けて――いや、訓練場ごと飲み込む勢いで落下してくる。

 直撃してはスタンドに張られていた結界すらも意味を成さない程の威力の魔法。

 それを察した生徒たちだったが、すでにどうすることも出来ずに声を上げることもなく目を瞑り、その場に身を伏せて神に祈った。




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