元まお番外編
ジャンヌの葛藤 1
部屋の扉がノックされる。
小さく、遠慮がちな音が聞こえた。
「ジャンヌ、入るよ?」
声変りをする前の高い少年の声。
元から返事は無いだろうと想像していたロイドは、ゆっくりと扉を開けて中を覗く。
ベッドにうつ伏せになっているジャンヌの姿を見て、一瞬引き返そうかという考えが頭をよぎったが、今は一言だけでも声をかけておいた方が良いのではないかと判断した。
机のところにあった椅子を持ち、ジャンヌのいるベッド脇まで運ぶ。
そして、ベッドとは反対側を向くようにして座った。
「突然すぎてびっくりだよね……」
ロイドはやや俯き加減で、小さく呟いた。
「いきなりシン様の子供になれって言われても、すぐに返事出来るようなことじゃないし……」
「……」
「ローラたちは深く考えないで喜んでるみたいだけど、少し前まで村で生活していた僕が、義理とはいっても貴族の子息扱いされるのは……しかも、その父親がシン様とか……」
「……ロイドはシン様の子供になるのが嫌?」
そこでようやくジャンヌが口を開いた。
しかし、枕に顔を埋めたままで喋ったので、その声はくぐもっていて聞き取り辛い。
「嫌……というのとはちょっと違うかな?これは、怖いに近いかも。怖気づいているって感じ」
「でも、ローラがそうしたいなら、ロイドだって一緒じゃないと……」
「どうするかはこれから考えるけど、養子だからローラだけでも問題ないんじゃない?僕とローラが兄妹であるのは変わらないんだしね」
「私は違う……。私が養子になるのを断ったら、私がここにいる理由がなくなっちゃう……」
「理由って?シン様も言ってたじゃないか。断ったとしても、これまで通りここにいても良いって――」
「違うの!!」
ジャンヌの大声に驚いて振り向いたロイド。
ベッドの上に起き上がってロイドを見るジャンヌの目の周りは赤くなっていた。
「私がここにいられるのは、みんながいてくれるから。私と同じ境遇のロイドやローラ、ルイスとミア。みんながいるから私がいられるの!みんながシン様の子供になって、私だけが違ったら……私はこの家にいる誰なの?」
ロイドはジャンヌの言っている意味を考える。
そして自分とジャンヌの立場の違いに気付いてハッとする。
自分は強引とはいえフェルトの弟子という立場にある。シンから直接的に指導を受けているわけではないが、それはこの家にいる理由になると勝手に思い込んでいた。
そしてローラだけでもと考えている理由も、自分がここから出ることを想定していないからこそのものだった。
だがジャンヌは自分で言っているように、ロイドとは全く立場が違っていた。
彼女はシンのようになりたいと憧れ、シンがその気持ちを汲んで連れてきた少女だ。
魔力と身体能力。
それはシンの無意識化の修行により成長している。
しかし現状のジャンヌは誰かに師事しているわけでもなく、この家で何かの役割を担っているわけでもない。
ジャンヌ以外の者が養子となってしまえば、この家で自分だけが部外者のような存在になってしまうのではないか?ジャンヌはそのことを言っているのだろうとロイドは気付いた。
シンが自分ジャンヌ、子供たちを最初から家族として扱っているのはロイドも感じている。
だが、ジャンヌ自身はそうされることに若干の抵抗を見せているのも感じるし、その理由も薄々だが察していた。
察していたからこそジャンヌを追ってきたのだったが、ジャンヌの想いはロイドの考えていた以上のものだった。
「嫌……みんなと離れたくない……」
しかし、シンの子供という立場も取りたくない。
ロイドはジャンヌの複雑な心境を考えると、それ以上何も話すことが出来なかった。
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