第46話 確定未来――決着

「ガアァァァァァ!!」


 絶叫と共にシンからの圧を跳ね返すゴブリンキング。

 そうしてシンを睨む顔には、怒り、恐怖、嫉妬、不安、そんな様々な感情が入り混じり醜く歪んでいた。


「怪我は……どうした?あれだけの怪我を一瞬で直すほどの回復魔法がこの空間内で使えるはずがない!!どんな手を使った!!」


 シンに問いかけながらも更に魔力を練り上げていく。

 これはただの時間稼ぎ。今のシンから感じる力をもってすればこの異空間内でも回復することは可能だということは察していた。


「普通に回復したよ。さっきまでは死なない程度にダメージを受けながらだったけど、今はもうその必要が無いからな」


 一瞬シンの身体が輝いたかと思うと、それまで流れていた血の跡が全て綺麗に消えた。


「これで元通り。破れた服は終わってから替えるから気にしなくて良いよ」


 シンは破れた服の裾をいじりながらそう言った。


「……もう勝ったつもりか?」


「いや?そんなことは思ってないけどね」


 その言葉に偽りはなかった。


「――最初から勝つと思っていたから」


 シンの右手に現れた新たな刀。

 漆黒の刀身から溢れ出る漆黒のオーラ。


「みんなが待っているんで、もう終わりにしよう」


 日本刀を模した魔剣『村正むらまさ』。

 刃長二尺一寸一分(六十四センチ)の黒刀は、かつて暴走し世界を滅ぼさんとした古龍の魔核から作られた一振。

 その格は神話ゴッズ級すら凌ぐ創世ジェネシス級。

 それを見た瞬間、ゴブリンキングは自らの敗北を知る。


「そんなはずは……私がこんなところで……」


 呆然と呟き続けるキング。


「お前も準備は終わったんだろ?」

 シンは両手で『村正』を正面に構える。


「ソンナハズハナーイ!!」


 絶叫と共に全ての魔力を集中して放った魔力砲。

 それまでのものとは桁外れの威力をもってシンへと放たれた。


 大陸すらも焦土に変えるだけの威力を秘め、その速度は光の速さにも肉薄するほどの魔力砲。

 放たれた瞬間、辺りは激しい光に包まれる。


 光の中に走る黒の光線。

 まるで空間を分断するかのような黒い射光。

 それは斬撃の軌跡。

 光すらも捕らえて逃がさない闇の浸食。


 ゴブリンキングの魔力砲は一瞬で闇によって食い尽くされてしまった。


「バ……カ……ナ……」


 それがゴブリンキングにとっての最期の言葉。

 その全身に刻まれた数千の黒の斬跡。

 暗黒の世界に巣食い、光の世界を支配しようとしていたゴブリンキングにとってはこれ以上ない屈辱。

 闇の魔力に切り刻まれ、身体を数億もの欠片と変えられたゴブリンキング。

 そして切断されたのはこの空間も同じであった。

 ガラスが割れるように粉々に吹き飛ぶ異空間。

 塵となった闇の粒子が、同じく塵となったゴブリンキングの魔素と混ざり合って消えていった。



 西に傾きかけた太陽が見える。

 緑の匂いを乗せた風がシンの鼻腔をくすぐる。


「ここ……どこ?」


 周囲を見回すが、元居たベルーガの地とは違うように感じる。

 とりあえずエクセルに戻らなければいけないシン。

 ゴブリンキングは倒したが、まだ戦争が終わったわけではない。


 ――まずは太陽と逆に向かいながら誰かに聞くか……。


 空中へ飛び上がり、全速力で東へと向かっていった。




「高密魔導砲準備整いました!!」


 エクセルの結界を破壊したカネリン軍の秘密兵器。

 その一射には膨大なエネルギーが必要とされるため、それに掛かる魔石の量も桁違いのものであり、二射目の準備にも時間を要していた。


「装填!!目標は帝都エクセルの城壁!!」


 指揮官の声に合わせて兵士たちが砲身を城壁へと向ける。

 自軍は五万。王都を守備している兵は、援軍を含めても五千にも満たない。

 このまま力押しでも十分に勝機はあったが、万が一シルヴァノ率いる騎士団がこちらへ来ないとも限らない。

 その前に勝負を決する。

 カネリン軍総司令官ウィルソン・ムンディ将軍は油断なく采配を振るった。


「発射準備完了しました!!」


「撃てー!!」


 ムンディ将軍の号令と共に発射される高密度魔法弾。

 轟音を上げて首都エクセルを破壊せんと襲い掛かった。


 そして城壁へと到達する瞬間――エクセルの街全体が眩い光に包まれる。

 魔力弾はまるでその光に吸収されるように消滅し、その場にいた両軍の兵士たちは呆然とした表情でそれを見ていた。


「何が……起こったのだ……」


 他の兵士と同じように虚ろな目でエクセルを見つめるムンディ。


「将軍……帝都の結界が復活しております」

 ムンディの傍に控えていた魔導士がそう告げる。


「馬鹿な!!どうしてそんなことが起こるのだ!!」


「わ、わかりません!しかし、帝都から感じる魔力はそうとしか考えられないのです!」


「……結界が」


 再びエクセルを見つめるムンディ。

 兵士たちは戦闘を再開していたが、ムンディはそれを苦虫を嚙み潰したような顔で見ていた。


 ――無理だ。本当に結界が回復したというのであれば、我らの力で帝都を落とすことは出来ぬ。……ならば。


「攻城戦に当たっている以外の全兵士は我に続け!!」


 後方の兵士たちに檄を飛ばすムンディ。


「帝都の北部で戦っているパルブライト本隊を叩く!!」


 ――ゴブリン軍に加勢して奴らを滅ぼせばよい!!


 約四万のカネリン軍は、帝都を迂回してパルブライト軍本隊のいる戦場へと移動を開始した。



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