第44話 ロバリーハートに差す光
ランバートの一撃はジェネラルの固い外皮をその障壁ごと斬り裂いた。
間一髪で放たれた魔力砲すらも消滅させる一撃は、その手に握る『
体の中心から真っ二つに両断されたジェネラル。その一撃による余波は一瞬にしてジェネラルを絶命させ、その肉体を消滅させた。
がくりと膝をつくランバート。
それまで自在に振るっていた『
そしてランバートも大の字に伏せる。
全力を出し切った。すでに指一本動かせる力も残ってはいなかった。
これで出現していたジェネラルはパルブライト帝国と交戦中の一体のみ。
シンがゴブリンキングと戦っている間に増援が来ることはない。
しかしそのことは当然ながら誰も把握していない。まだ残る数百万のゴブリン軍と各国は交戦中であり、ここロバリーハートにおいてもロードがまだ二体残っている。とても連絡を取り合える状況にはなかった。
ランバートの耳には激しい戦闘の音が聞こえてくる。ジェネラルを倒したからといって戦いが終わったわけではない。何とか立ち上がり戦闘に戻ろうと懸命に力を入れるが、やはりその身体は動かない。
せめてロードの一体だけでも自分が倒さねばならない。そんな使命感がランバートの気持ちを焦らせていた。
それはそんな焦りが生んだ油断だったのか。そうでなくても動けないランバートである。例え気付いていたとしてもどうしようもなかったのかもしれない。
ランバートの体を影が覆う。
その視界に映るは巨大なロードの姿。
いつの間にか至近距離まで近づいていたロードは怒りの表情でランバートを見下ろしていた。
――クソッ!!動け!!
ランバートの体の何倍も大きな拳が振り下ろされる。
魔力が尽き、強化も障壁も無くしたランバートはいくら鍛えているとはいえ、ロードの攻撃の前では普通の人間と何ら変わりはない。
しかしランバートが死を覚悟することはなかった。その最期の瞬間まで決して諦めることはない。あの王城でシンと対峙した時、世界すら滅ぼしかねない古龍を見た時、あの二度の経験を経ているランバートには、いかに巨大なロード相手であっても命を放棄するという考えなど浮かぶはずもなかった。
全身に力を込める。僅かでも残っていないかと体内の魔力を探る。懸命に指を動かし大地を掴んでその場を離れようとする。
だがそれは一瞬のこと。
ロードの攻撃はランバートの全身を大地ごと砕かん威力をもって高速で襲い掛かってきた。
ランバートのいた地面が爆発する。
その振動は離れていた戦場の兵士すらも感じるほどの地響きとなった。
爆心地に立つ巨大なゴブリンロード。だが、土煙の向こうに見える顔から怒りの色が消えることはなかった。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
ロードの絶叫が響き渡る。
やがて土煙が風で流されていくと、そこには大きく抉られたクレーターと――右腕を肘の辺りから欠損しているロードの姿があった。
「遅くなって申し訳ありません」
ランバートは優し気なその声に自分がその人物に抱えられているのだと気付く。
「……貴殿は」
ランバートの目に映ったのは坊主頭の若い男。
「私はレギュラリティ教師範ライアスと申します。こちらへの応援を頼まれていたのですが、少々来るのに手間取ってしまいました」
金糸雀色の袈裟に全身を包み、ランバートを抱きかかえるライアス。
「ライアス殿というと……シン殿の……」
「はい。先生からロバリーハート国への応援を任せられておりました。しかし詳しい説明は後にしましょう」
ライアスはロードから目を離すことなく、ランバートをその場に下ろす。
「他にも応援が来ておりますので、ランバート殿はそこで休んでいてください」
「他にも応援が……」
その途端に戦場に巻き起こる連続する爆発音。
ゴブリンの群の至る所から立ち昇る火柱。
それは消えては起こりを繰り返しては次々とゴブリンたちを蹂躙している。
「あれが……応援?」
「はい。アデスからの応援です。師範六名、副師範十名からなる二千のアッピアデス軍。ですからもう大丈夫ですよ」
そこで初めてライアスはランバートの方を見て微笑んだ。
「アッピアデスが……我らの救援に来てくれたのか……」
そう呟いたランバートの目からは自然と涙がこぼれ落ちていた。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
ロードはそんな二人の会話に興味はなかった。
右腕に激痛が走っている。原因は間違いなく目の前にいる男だと理解していた。
何をされたかは分からない。しかしそんなことは問題ではなかった。
自分に苦痛を与えたものを許すわけにはいかない。必ず殺す。ジェネラルを殺した男も殺す。そしてこの戦場の全ての人間を殺す。
怒りに震えるロードはライアスに向けて全力の魔力砲を放った。
「無駄ですね」
眩い光を纏って放たれた魔力砲。
しかしその攻撃がライアスに届くことはなく、その直前で大きく空へ向かって消えていった。
「今のは……」
「魔力操作を極めていけば、相手の放った魔力をコントロールすることが出来るんです」
事も無げに言ったライアスの言葉に愕然とするランバート。
「人の魔力を操れるというのか?そんなことが……」
「驚きますよね。私だって先生に教わるまでは信じられなかったですから」
そう言った次の瞬間、ライアスの姿はランバートの視界から消えていた。
「フン!!」
一瞬でクレーターを飛び越え、ロードの腹部まで接近したライアスの掌打。
ロードの体内を波紋のような衝撃が駆け巡る。そして爆散四散するロードの巨躯。
自分がどうやって殺されたのかすらも認識出来ないうちに、ロードは魔素の霧へと消えていった。
「さて、この戦争を終わらせましょうか」
ライアスは――今度はゆっくりとした足取りでゴブリンの群に向けて歩いていった。
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