第43話 その力で望むものは……
「不味いことになりましたね……」
フェルトは屋敷から遥か遠くにある城門の方へと目をやりながら呟いた。
「そうですな。現在帝都に張られている結界は、当初から帝都に張られてあるもののみ。今もところカネリン王国の攻撃は何とか凌いでいるようですが、先ほどと同じような攻撃を受けたならば一たまりもないでしょう」
フェルトの隣で同じように遠方を見つめるフルーク。
捕らえたスティエ子爵はフェルトが拍子抜けするほど簡単に白状した。
自分がカネリン王国と密約を結んでいた事。その内容は、シンの不在を狙ってこの屋敷を制圧して家族を人質とすること。王都を内部から混乱させ、帝都の城門を開かせること。そしてその報酬としてパルブライト帝国を滅ぼした後はカネリンの侯爵として厚遇されるという事。その自分勝手な内容は、どれ一つをとってもフェルトには許すことが出来るものではなかった。
――しかし、クズの処分は今は一旦置いておきましょう。
すでにカネリン王国の攻撃は始まっている。
城壁を護る兵だけではとても守り切れない。だが、おそらくはユリウスが兵を裂いて回してきているだろう。
それでもゴブリン軍と交戦中である以上、多くをこちらに当てることは出来ない。
現在この帝都エクセルは、前門のゴブリン、後門のカネリンに挟まれた窮地に立たされていた。
スティエのような小物に構っている暇はなかった。
「とりあえず今は一人でも多くの住民を屋敷へ避難させてください。私は外の様子を見てきます」
フェルトはそう言い残すと、フルークは何か言いかける前に姿を消していた。
暗闇の中、拳と蹴りが何度も交錯する。
ゴブリンキングの拳がシンの腹部を強打する。
その衝撃で体をくの字に曲げながらも、右ひじでゴブリンキングの顔面にカウンターを仕掛けたシン。しかしその一撃をモロに喰らっても平然とした顔で蹴り返してくる。その蹴りがシンの左腕の辺りに直撃すると、その肘の辺りから骨の折れる鈍い音がし、苦悶の表情を浮かべながら距離をとった。
「今ので骨の一本だけですか。しぶとい。本当にしぶといですねえ」
ゴブリンキングは苛立つように言い放つ。
「いい加減魔力が尽きても良い頃だと思うんですが……。まだそれだけの強化が出来るとは……あなた本当に人間ですか?」
「……魔物に言われることじゃないと思うけどな」
「まあ、あなたが強ければ強い程、それを吸収した後に私が強くなるのですから構いはしないのですけども」
「そう簡単に負けられないんだけどな」
「あなたが粘る理由も分かりますよ?私があなたの相手をしている間は、さすがに新たに兵を送り込む余裕はありませんからねえ。この間に人間たちが勝利することを狙っているのでしょう?」
その言葉にシンの表情が強張る。
「でも残念です。あなた方は私がまだ世界を滅ぼそうと思っているように考えているのですね。人類にとって代わり、ゴブリンが支配する世界を作ろうとしている、と」
「……違うのか?」
「違いますよ」
ゴブリンキングは即答する。
「本来なら人を喰らう我々ですがね。私が生み出したゴブリンたちは魔力さえあれば人を喰らわずとも生きていけるのですよ。そして私は人を喰らう事で強くなるんですが、あなたを喰らってしまえば必要ないでしょう?ですから、あとは嗜好品として定期的に捧げてくれるシステムを作ってしまおうと思いましてね」
「……人を生贄として捧げろと?お前は神にでもなるつもりなのか?」
「神――そうですねえ。あなたたちの世界でいうところの神として私はこの世界の頂点に立つのです!」
「はっ!ゴブリン風情が大した野望をもったもんだ」
「人間風情に見下される覚えはありませんよ?そしてその計画の邪魔になるのがあなた、そして大陸の先導者としてのパルブライト帝国なのです。帝国を滅ぼし、私にとって都合の良い頭と挿げ替える。そうすることでこの計画は完成するのです!」
「……そんな都合の良い奴がいるのか?それに帝国がそう簡単に落とされるとは思わないし、俺もお前に負けるつもりはないんだけどな」
「ハハハ!まだそんな余裕があるとは憎たらしいですね!私に都合の良い駒はすでに手に入れてあります。そしてあなたは私には勝てないし、帝国も間もなく滅びます。私の計画は完璧なのですよ!」
ゴブリンキングの高笑いの中、シンは再び『大和』を握りしめて斬りかかった。
「無駄ですよ?そろそろ死んでくださいませんか?」
その刃はゴブリンキングの掌によって受け止められる。
「やだね!!――ハアァァァ!!」
光速にも達する千の刃が至近距離からゴブリンキングを襲う。
「遅いです」
その身体が一瞬ブレ、その千の斬撃は全て躱された。
そしてシンの身体を襲う強烈な衝撃。至近距離からの魔力砲を受けたシンの身体は耐えることが出来ずに彼方へと吹き飛ばされていった。
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