第41話 裏切り者
カネリン軍は総勢五万の兵を率いて、パルブライトの帝都エクセルの南方より急襲をかけた。
帝都均衡に配置してあった兵力の全てを北部からのゴブリン軍に当てていたパルブライト軍。カネリン軍は全く抵抗を受けることなく進軍することが出来た。
彼らの目的はゴブリン軍討伐などではなく、帝都エクセルを落とし、パルブライト帝国を滅ぼすこと。この襲撃は突発的な行為ではなく、綿密に計画されていたことであった。
パルブライト軍がゴブリン軍との戦いで消耗し、エクセルを護る結界が弱まることをあらかじめ知っていたかのような行軍。
どれだけ近づこうともこちらへ兵を向けることが出来ないと理解した上での行軍。
ユリウスがその意図に気付いた時には、すでにその距離は絶望的なところまで詰められていた。
「
その号令に従って多くの兵士たちが様々な部品を持って先頭へと駆け出す。
そしてそれはあっという間に組み立てられていった。
細長い筒が十本。それをひとまとめにした巨大なガトリング銃のような砲身が鉄の砲台に乗せられる。
砲身の先には大きな赤色の魔石。後部には青色の魔石がそれぞれの砲身に付けられている。
「装填!!」
砲台に空いていた穴に漆黒の魔石が埋め込まれると、すぐに青の魔石が輝きだした。
青く、白く、強い光を放つ魔石。
その光に共鳴するかのように、今度は赤の魔石が輝きだす。
青く、白く、赤く、危険を知らせるかのように目まぐるしく点滅を続ける魔石。
やがてそれらは白一色となる。
「装填完了!!」
「発射!!」
完了の報告と同時に発せられた号令。
そして――辺りは光に包まれた。
「きゃっ!!」
「――なんだ!?」
屋敷全体を激しい揺れが襲った。
それは地震などではなく、自分たちのいる空間そのものが振動したかのような揺れ。
天井のシャンデリアは大きく揺れ、棚にあった調度品は床へ落ちて粉々になっていた。
応接室で待機していたジャンヌとロイドは部屋を飛び出した。
そして全速力で二階へと走る。
「お兄ちゃん!!」
階段を上ったところで、ちょうど同じように部屋から出てきたローラ、ルイス、ミアの三人の姿を見つけた。
三人とも怯えたような表情をしていたが、身体が動かないほどではないことを確認してロイドは安堵する。
「今の……何?地震?」
ロイドに抱き着いてきたローラが、そのお腹の辺りに顔を埋めながらそう呟いた。
「いや……地震じゃないと思う」
「ええ、さっきの揺れはお父様の張られた結界そのものが揺らされたような感じね」
「まさか――」
「みんな無事ですか!!」
その時、階下からフェルトの声が聞こえた。
「フェルトさん!!僕たちは大丈夫です!!」
その返事にほっとした表情を浮かべるフェルト。
ジャンヌとロイドは三人を連れて階段を下りてフェルトと合流する。
「フェルトさん。今のはもしかしてゴブリンキングの攻撃ですか?」
そうであってほしくない、そんな希望を込めた質問。
「いえ、それは分かりません。しかし……この帝都に張られていた結界が消滅しました」
「――!?」
「少し前から徐々に弱まりつつはあったのですが、どうやら先ほどの揺れは何者かの攻撃だったのでしょう。それによって完全に破壊されました」
そう告げるフェルトの表情は子供たちが初めて見るほどに暗かった。
「シンさんがいない今、新たに結界を張り直すことは出来ません。しかし、この屋敷の結界はビクともしてませんから安心してください」
自分がどんな顔をしているのかに気付いたフェルトは、子供たちを安心させるために出来る限りの笑顔を作ってそう言った。
「ここは安全でも街の人たちは?!」
ジャンヌは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「それは……」
「フェルト殿。出来る限りの街の方をこの館の敷地へ避難させましょう」
フェルトの後ろから近づいてきていたフルークがそう提案する。
「帝都中の人を避難させるのは不可能ですが、それでもやらないよりはマシでしょう」
「フェルトさん!!やりましょう!!」
ジャンヌの目に力が蘇る。
他の子たちも頷いている。
元よりフェルト自身も異論はなかった。
「では近隣の人たちを屋敷へ誘導してください。みんなにも手伝ってもらいますよ?」
「はい!!」
「じゃあ手分けして街の人たちに声をかけてください。決して慌てさせないように、これ以上の混乱を招かないように、細心の注意を払うようにお願いしますよ」
今現在、この世界で最も安全な場所は、最も狙われているはずの帝都エクセルにあるこの屋敷なのは間違いなかった。
シンが不在である以上、彼らに出来ることは少ない。
この屋敷を護ること。そして、一人でも多くの人の命を救うこと。
シンがゴブリンキングを倒して戻ってくる時まで、自分たちの出来ることに全力を尽くすべく行動に移ったのだった。
しかし、エクセルを攻撃してきたのは魔物であるゴブリンたちではなく、同じ人類であるカネリン王国だということに彼らはまだ気づいていなかった。
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