第40話 成長する最凶、そして更なる動乱
『炎よ』
暗黒に響くシンの声。
ゴブリンキングの全身は一瞬で青白い炎に包まれる。
太陽の表面温度にも近い高熱がその身を焼き、暗闇の世界に光をもたらした。
若き古龍すらも灰塵と化した超高熱魔法。
ゴブリンキングとて例外ではなく、一瞬で燃え尽きて姿を消した。
光が消え、再び周囲は闇に包まれる。
そんな空間に一人浮かぶシン。
その身体の至る所は傷だらけとなっており、口元からは絶えず込み上げてくる血を吐き出していた。
満身創痍となっている状態であったが、まだ戦闘態勢を解いているようには見えない。
ゴブリンキングが消滅した空間に魔力が集まってくる。
やがてそれは形を成し、再びゴブリンキングの姿を形成した。
「どうしました?かなり疲れている様子ですけど?」
その表情は見えないが、その口調からはシンを嘲るような色が見えた。
「……そんなに疲れちゃいない」
シンは大きく肩で息をしながらそう返した。
「まだ強がりを言えるくらいの元気はあるようですねえ。しかし、これだけ大規模な魔法を連発しているんですから、そろそろ魔力の限界も近いんじゃないですか?ああ、そう言えば、ここに来る前にも使ってましたっけねえ?」
それは大型のゴブリンに対して使用した魔法のことを言っているのだろう。
まるでそれすらも自分の予定通りだったと言わんばかりの口調だった。
「でも、あなたはそうするしかないんですから仕方ないですよね?距離を取って魔法で私を攻撃する。でなければ、近接戦では傷一つ付けることが出来ないんですから」
戦闘が始まってから、ゴブリンキングが復活するのはこれで八度目。
ゴブリンキングの言うように、シンの剣技での攻撃は全てその固い障壁に阻まれて、ただの一撃として届くことはなかった。
「……えらく流暢に話すようになったな。人と戦いながら学習していくとは余裕のあることだ」
「学習?そうですねえ。これはあなたから吸収した魔力の質がそれだけ高いということでしょうね。これほど短時間で成長するというのは初めてですよ」
光の全くない空間。
姿の見えない二人の会話だけが聞こえている。
「そろそろ諦めて吸収されてくれませんかねえ?私も少し飽きてきましたし」
「……素直に分かりましたとでも言うと?」
「思いませんねえ――」
瞬間的にシンの正面に移動したゴブリンキングは、そのまま顔面を殴りつける。
辛うじて反応したシンだったが、避け切ることが出来ずに吹き飛ばされた。
「ここは私を生み出した魔力の貯蔵庫とでも言える場所。常にその魔力は私に注がれ続け、逆に異物であるあなたの魔力は吸われ続ける。ここにいる限り私が亡ぶことはないし、あなたがここから抜け出すことも出来ない。もうそのことはあなたなら理解しているはずでしょう?それなのに何故無駄な抵抗を続けるのですか?」
本当に理解出来ない。
ゴブリンの口調からはそんな感情が伺えた。
「陛下!我が軍の被害が一割を超えました!!」
戦況を見つめるユリウスへ伝令が駆け込んできた。
徐々に弱まる王都の結界。どれだけ倒せど怯むことなく押し寄せてくるゴブリンの群。未だ勝敗の分からないシルヴァノの戦い。
そんな中、パルブライト軍の兵士たちは緊張と疲労が蓄積していき、徐々に犠牲者の数を増やしていた。
総戦力の一割というのは、戦争において決して楽観視出来る数値ではない。
本来の戦争であれば三割も減ってしまえば負け戦だ。三軍に分けた陣形の一翼を失うようなものである。とても戦況を維持することなど出来ない。
つまりリミットまでの三分の一を消費してしまったということであるし、万が一にもシルヴァノが敗れた場合は、その時点でどれだけの戦力が残っていようとも負けが確定してしまう。
それでもユリウスは冷静に局面に対処していたと思われた。
むしろ健闘していると言っても過言ではなかった。
兵たちの練度や各隊の指揮の有能さもあるが、それでも全体を指揮していたユリウスの判断があってこそ未だに被害が一割で済んでいたのだった。
ユリウスが待っているのはシルヴァノとシンの勝利。
それさえ成れば世界の戦局は一変するはずであると、そう信じていた――。
「陛下!!王都南部より軍勢が近づいてきています!!その数、約五万!!」
「どこかの援軍でしょうか?!」
傍に控えていた軍務卿のタッソが
「どこの軍か!!」
「旗印からしてカネリン王国軍と思われます!!」
「おお!カネリンからの!!」
「あの馬鹿どもが!!」
援軍に喜んだタッソとは正反対に、苦虫を嚙み潰したような表情で吐き捨てるように言ったユリウス。
「陛下?何か――」
「何かではない!!何故北東に位置するカネリンが王都の南部より進軍してくるというのだ!!」
「え……」
「奴らはこの機に乗じて帝国に攻め込んで来おったのよ!!」
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