第37話 最凶vs最強
「くそがあぁぁぁぁぁ!!」
マリアンの絶叫が戦場に木霊する。
ジェネラルが魔力砲を放とうとした瞬間――その前に飛び込んで両手斧でその砲撃を防いだ。
マリアンが持っているのはシンから借り受けている「ラプリュス」。神話級のレベルにまで鍛え上げられた逸品。
しかし、それをもってしても全てを受けきることは出来なかった。
爆散するように飛び散った魔力砲は、その威力を減少させながらも戦場のいたるところへと破壊的な衝撃をもってゴブリンたちとマズル軍に損害を与えた。
直接受けたマリアンも、その身体に大きなダメージを受けながら大きく宙へと弾き飛ばされていた。
再び現れた二百万を超えるゴブリンの群。そして前回は一体だった巨大な上位種が今回は五体。更には、それを上回る力をもっている個体までもが怒涛の勢いをもってマズル共和国を襲っていた。
迎え撃つはホワイト将軍率いる八万のマズル軍。
そして挟撃する形で応援に駆け付けたエトスタ軍二万。
後方から一気に攻め込むつもりでいたエトスタ軍の作戦は、ゴブリン軍が後方の部隊を自分たちに向けるという予想外の行動によって失敗に終わった。
エトスタ軍に向けられた軍勢は約六十万。そしてロードが二体。
二万のエトスタ軍は完全に騎勢を削がれる形となり、真っ向からゴブリンの群と相対することとなった。
そんな中、マリアンはジェネラルの存在を誰よりも先に察知していた。
――アイツはヤベえ!!
自らの隊を副官であるトゥルノの預け、単独でゴブリン軍を旋回し、ジェネラルの首を真っ先に上げるべく騎馬を駆った。
幸か不幸か、今回のゴブリンたちは部隊を編成しているかのような規律に従った動きをしていた為、単騎で移動しているマリアンへ向かってくることはなかった。
近づくにつれて増していく悪寒のような嫌な感覚。
それが恐怖であるということをシンを初めて見た時に理解していたマリアンは、今度こそここが自分の最期の地となるのではないかと感じ、自然とその顔に笑みが浮かんでいた。
そしてロードに抱えられるようにいた一匹のゴブリン。
その姿を見た瞬間、マリアンはもてる全速をもってその前に飛び出していたのだった。
ジェネラルの攻撃によって宙を舞ったマリアンはギリギリのところで意識を保ち、何とか着地に成功することが出来た。
しかし、その額からは血が流れ落ち、国宝級と呼ばれた美しかった真紅の鎧は見る影もなくボロボロになっており、すでにその役目を果たせるとは思えなかった。
マリアンは「ラプリュス」を構え、全力で振り下ろす。
その衝撃で全身に強い痛みが走る。
先程のジェネラルの魔力砲よりは弱いが、それでも街を吹き飛ばすほどの威力のロードの魔力砲が、その一振りによって今度は完全に消滅した。
それを放ったのはジェネラルを抱えていたロード。
マリアンがそちらを睨むと、ジェネラルの顔は不快なものを見るような目をしていた。
「バケモンが!!そんな目で私を見てんじゃねーよ!!」
軋み痛む身体のことなど、マリアンにとっては何の問題はなかった。
絶叫と共に大地を蹴り、大気を突き破る勢いでジェネラルへと向かう。
そして、その瞬間――目の前に目標であったゴブリンが突然現れた。
――クッ!!
反射的に「ラプリュス」を正面に構える。
構えた瞬間に斧から伝わってくる強烈な衝撃。
自身の障壁も、「ラプリュス」のもつ障壁も、その全てが一瞬のうちに破壊された。
その瞬間に斧越しにマリアンが見たのは、ジェネラルの右の拳が斧を捕らえていた――いや、斧によって防がれていた光景だった。
局部的に受けたその攻撃の威力は魔力砲を上回るものだったが、受けたマリアンも「ラプリュス」で全ての衝撃を受けた為、障壁を破壊されはしたが、先ほどのように吹き飛ばされることはなく、数メートル押し戻されるに留まった。
どうだ?という不敵な表情でジェネラルを睨むマリアン。
そしてジェネラルの顔には怒りの感情が浮かんでいた。
一筋の光も差し込むことのない暗黒の異空間では、シンとゴブリンキングの戦いが続いていた。
暗闇の中で瞬く魔力の光。
互いの攻撃によって放たれているその光は、地上であったならば地図を大きく作り直さなければならなくなるような天変地異的なエネルギーのぶつかり合いであった。
素手で攻撃を仕掛けるゴブリンキングに対して、シンは神剣『大和』をもって迎え撃つ。
シンの剣筋がゴブリンキングの首元を襲う。しかし、それを左腕で難なく受け止める。その皮膚には傷一つ付いていない。
ゴブリンキングの右の回し蹴り。シンはその足首をつかみ取って防ぎ、そのまま脛に向けて『大和』を振り下ろす。しかし、それもゴブリンキングの強固な魔力障壁によって弾かれてしまった。
そしてシンの胸に左足の前蹴りが直撃する。
ゴキゴキッ!と嫌な音がし、シンは掴んでいた足首を放して後方へと距離を取った。
――グフッ!!
シンの口から大量の血液が吐き出されたのだが、この暗闇の中では互いに確認することは出来なかった。
「フハッ!たのシいなあ!ちからをふルうというのは、たいへんたのシい!!アッハハハハハッ!!」
暗闇の中に響くゴブリンキングの笑い声。
狂気を含んだその笑い声に、シンは遠い異世界での命がけだった生活を否が応でも思い出せられた。
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