第31話 ゴブリンジェネラルvsシン

 離れた位置から見ていたブリッツでは視認出来ないほどの常軌を逸した速度で次々と繰り出される互いの攻撃。

 拳が、蹴りが交錯する度に周囲の大気は震え、目に見えない強い衝撃波が走る。

 ジェネラルが突きを繰り出せばシンがそれを払い、シンがそこから裏拳を打てばジェネラルが受け止める。掴んだシンの腕を引き寄せ、その鳩尾に肘を撃ちこむジェネラル。しかしその肘を手で防いだシンは、逆にジェネラルの鳩尾を狙って膝を繰り出した。

 ジェネラルは掴んでいた手を放し、後方へ一歩バックステップをとってその膝を躱す。そして間髪入れず後ろ回し蹴りでシンの頭へと後ろ回し蹴り。シンはそれを屈んで躱し、そのままジェネラルの足を払い転倒させる。

 倒れた瞬間にシンの右こぶしがジェネラルへと振り下ろされたが、指の力のみで地面を掴んで身体をずらして回避した。

 シンの叩きつけた拳を受けた地面は、そこを爆心地としたように爆発し、直径十メートルを超える巨大なクレーターを作り上げた。

 その爆風を利用して距離をとったジェネラルは、楽しそうな笑みをシンへを向けていた。

 人類の常識を超えた互いの攻撃は、綱渡りのようにギリギリのバランスで躱され続けていた。


「オマエ…シッテイる……キオクノナカにアル……ジャマナやツ……」


「そうか。俺はお前のことなんて知らないけどな」


「デモ…オマえツヨイ……オレニモット…オマえヲミセロ……」


「見てるのはお前じゃないだろうに」


 そして一気にクレーターを飛び越えてジェネラルとの距離を詰めるシン。

 再び組手のような攻防が始まった。




 ジェネラルの支援を失ったゴブリン軍は、三体のロードがいるとはいえ、ファーディナント軍にとってはすでに烏合の衆と変わりはなかった。

 その最大の理由は、東側のファーディナント軍の援軍に新たな援軍が到着したこと。

 スフラ伯爵率いる一万の軍勢が、疾風怒濤の勢いをもって二十万近いゴブリンの群れを蹂躙していった。

 先頭に立って巨大な偃月刀を振るスフラ。

 一振りで数十のゴブリンが塵と消え、その刀身から放たれた火球は進路上のゴブリンを焼き尽くし、その群れの至るところで巨大な爆発を起こしていた。

 鬼神が如くに暴れまくるスフラの姿に、それまで劣勢を強いられていた味方の兵の士気が一気に上がる。折れかかっていた心に勇気が、疲労の蓄積していた身体に力が沸き上がってくる。

 そして到着から僅か数分。


「くたばれや!!」


 すれ違いざまに振り払われた偃月刀えんげつとう

 その刃はロードの胴体を斬り裂き、分断された体は紅蓮の炎に包まれた。


「次だ!!行くぞお前ら!!」


 後方の兵たちに檄を飛ばしたスフラは、休む間もなく騎馬を駆ける。

 次の獲物は中央のハダル軍と交戦中のロード。

 スフラは三体全てのロードを一人で片づけるつもりでいた。


 その時、そのロードがいる後方で大きな爆発が起こった。

 それはまるで隕石でも落ちてきたのではと思う程の爆発音と、騎馬の上からでも感じることの出来る地響き。

 それに驚いて暴れそうになる馬を懸命になだめるスフラとその兵士たち。


 爆発の起こった方をちらりと見た後――


「変更する!!俺たちはこのまま中央を突っ切って、西側の援護にまわる!!」


 進路を変更して中央のゴブリン軍の横腹目掛けて突撃を開始した。


――アレがいるところに近寄ってたら命がいくつあっても足りねえよ。


 スフラが思い浮かべたのは、かつてアイブランの地で見たシンの顔。

 そしてスフラの恐怖したケルベロスを一蹴した常識外れの力。


――何を遊んでいるのか知らねえけどよ。さっさとそっちを片付けてもらいたいもんだ。じゃねえと、ここら辺の地形が無茶苦茶になっちまう。


 偃月刀を振りながらスフラはそんなことを考えていた。




 ジェネラルの前蹴りがシンの顔の前をすり抜ける。


――パキン!


 その蹴りはシンには届いていなかったが、張っていた障壁が破壊された。


 そしてジェネラルの連続攻撃が始まる。

 突き、蹴り、肘、膝。

 徐々に速度を増し、暴風に巻き込まれたかのような怒涛の連撃。その攻撃をシンはギリギリのところで受け、躱し、直撃することなく防御に徹する。

 その一撃一撃は必殺の威力を秘めた暴力の結晶ともいえる一撃。

 防御する度に、幾重にも張られていたシンの魔力障壁は次々と破壊されていった。


 そしてついにジェネラルの攻撃がシンを捕らえる。

 前蹴りがシンの腹部を直撃し、シンは猛烈な勢いで弾き飛ばされた。

 ジェネラルはノータイムでその後を追う。

 顔に浮かぶは邪悪な笑み。

 戦いの中でシンから学び続け、そして自身の力がシンを追い越したことを確信したことで無意識に浮かんだ笑み。

 あとは役目を終えたシンを片付けるだけ。

 キングの邪魔になるシンを排除することが出来れば、自分がその地位に近づくことは間違いない。


 戦い、経験を積むごとに強くなり続けるジェネラル。

 強さをどん欲に求める性格が故に抑えきれない反逆への欲望。

 ジェネラルの目的はキングすら超える力を手に入れて、自らが最強へと至ることであった。


 立ち上がったシンを強烈に蹴り上げる。

 大きく宙に舞ったシンを追いかけるように跳び上がり、組んだ両拳で力の限り地面へと叩きつけた。


 飛び散る土塊。巻き起こる土煙。

 落下しながらジェネラルは次の攻撃態勢をとる。

 目標は土埃の中央。

 凝縮された膨大な魔力は破壊的な威力をもってシンへと放たれた。




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