第29話 ファーディナントの乱戦

 アーメット、ラスラ、カネリン、そしてマズル共和国。

 大陸に出現したゴブリン軍五隊のうちの四隊が殲滅したという知らせがユリウスの下に入った頃、最後の一カ所であるファーディナントでは予想外の苦戦が続いていた。


「将軍!左軍の障壁がまた破られました!!」


「くそっ!!遊軍のエヒト隊を前に出して、張り直すまでの時間を稼げ!!」


 百万の兵の力押しで攻めていた他とは違い、ここファーディナントに現れたゴブリン軍は、その数を三つに分散させ、闇雲に突撃をするのではなく、軍兵のように規律にそった戦い方を展開していた。


「聞いていた話と違うではないか!!援軍はどうなっておる!!」


 先方隊としてゴブリン軍と対峙していたのはファーディナント王国ハダル侯爵。先のロバリーハートとの戦いにおいても先陣を切って戦った歴戦の猛者である。

 彼はここファーディナント南部ベルーガ地方において、ゴブリン軍襲撃に備えて配置されていた。

 その兵は約五万。周辺には他の諸侯らも駐屯しており、その総数は約二十万。

 どこにゴブリン軍が現れたとしても、すぐに応援に駆けつけ、一気に挟撃することのできる布陣で待ち構えていたのだ。

 しかし兵を分けたゴブリン軍の攻撃によって、その導線は断ち切られ、ハダル軍は孤立無援の戦いを強いられていた。


 キングの命によって猪突猛進ともいえる行動しかとれなかったはずのゴブリン軍。それがここファーディナントにおいてのみ、別の指揮系統によって動いているように見えたのには理由があった。


「敵の魔力砲来ます!!」


 ハダルの横で魔法による索敵を行っていた魔導士が叫ぶ。

 その瞬間にハダル本陣に凄まじい衝撃が襲った。


「グワッ!!」


 目を突くような閃光と、大地を揺るがすような衝撃。

 そのあまりの衝撃に思わず声を上げるハダル。


「被害状況を報告せよ!!」


 まだ視力の戻らないハダルだったが、そんな状態でも指揮官としての任務を果たそうと懸命に声を出す。


「隊に被害はありません!!しかし、今の攻撃で我が隊の障壁には大きな障害が発生しております!おそらく次は耐えられないかと!」


 隣の魔導士がそう告げる。

 盲目の彼は閃光のダメージを受けることなく、瞬時に隊の状況を感知していた。


「魔道具の残りは!!」


「今使っているので最後です!!」


「くそが!!」


 シンがファーディナントに渡していた簡易式の魔法障壁を張る魔道具。

 それは各隊に支給されており、王都を護る障壁よりは数段威力が落ちるが、携帯することでどこででも使えるという利点があり、各隊はそれを使う事でゴブリン軍との戦いを有利に進めていたのだが…。


「あんなバケモンがいるなんて聞いてねえぞ!!」


 ハダルの視線のその先。ゴブリンの群のそのずっと後方。

 一際大きな身体をした個体。それは他の国にも現れたゴブリンロードだったが、ハダルが見ているのはそのロードが手の平に乗せているモノ。

 通常のゴブリンよりもほんの少し大きなその個体から感じる魔力は、遠く離れたハダルにも感じ取れるほど桁違いのものであった。

 その個体の放つ魔力砲は、ロードの魔力砲であれば吸収しきれるシンの魔道具による魔法障壁を破壊するほどの威力を秘めており、直撃すればハダル隊どころか、援軍に来て戦っている味方さえも巻き込んで全滅するだろう破壊力だった。


 ただ、連発出来ないのがせめてもの救いで、ハダル隊は何度も障壁を張り直しながら、どうすることも出来ないまま耐え続けていた。


「あんなバケモン、どうやって倒せというのだ……」


 歴戦の雄だからこそ感じる絶望感。

 それは戦略や数でどうこう出来ない圧倒的な個の力。

 ハダルはそれを分かっていながらも、ただただ時が過ぎるのを待つしかなかった。




 そしてハダル軍が絶望的な戦いを強いられているのと時を同じして、パルブライト北部バスラットにも同じ個体のゴブリンが確認される。

 上位種であるロードは五体。そしてゴブリンの総数約二百万。

 それらはバスラット東部を一気に通り抜け、パルブライトへ進軍していた。

 これはシンがパルブライトより最も遠いアーメットに現れたのを知ったキングの打った次の手であった。


 バスラット軍もただ手をこまねいて通過を許したわけではない。

 ゴブリンたちがパルブライトへ向かっていると分かると、その後方から追撃を始めた。

 バスラット軍の総大将ルディク将軍率いる魔装の施された騎馬隊八万が、その背後から怒涛の勢いで攻め込んだ。

 しかし――


 ロードと、その更に上位種と思われるゴブリンの魔力砲を食らい、シンのバスラットに渡していた魔道具は瞬く間に破壊され、彼らは一太刀もゴブリンに浴びせることも出来ないままに、その全軍が沈黙したのだった。




 そしてその勢いをもった軍勢はついにパルブライト領内へと辿り着く。

 バスラットから報告を受けたユリウスは直ちに全軍に計画されていた通りに指示を出す。

 ゴブリン軍二百万を迎え撃つは総勢二十万を超えるパルブライト軍。

 その中には帝国最強の騎士、騎士団総団長シルヴァノの姿があった。


 ゴブリンキングより指揮権を託された、ロードよりも上位の個体――ゴブリンジェネラル。

 そして帝国最強――現時点での人類最強と謳われるシルヴァノ。

 その両雄の戦いの行方が今後の展開を大きく左右する、まさに人類の生命線ともいえる一戦が始まろうとしていた。



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