第18話 マリアンvsシン
「えっと……誰?」
突然襲ってきたエトスタ軍の女性にシンは動揺していた。
助けに来た相手に、助けた後に問答無用で死角から襲われるという理不尽な状況。
剣で受け止めて弾きはしたものの、その攻撃は明らかにシンの命を狙った本気の攻撃だということが伝わってくる激しいものだった。
「ハッ!誰だと?――お前こそ何者だ?この化物がよ!!」
変わらず憎悪の眼をシンに向けるマリアン。そして
二人の間合いは約十メートル。このレベルの二人にとって、それは無いに等しい距離。
マリアンの踏み込みに石で舗装されていた街道の地面が抉れ、砕けた石と
目の前まで一気に迫ったマリアンの渾身の横なぎの斧がシンを襲う。
――ガギイィィィィン!!
シンはそれを避けることなく《
耳をつんざくような衝突音が鳴り響き、二人を中心とした辺り一帯に衝撃波の突風が巻き起こる。
周りにいた兵士たちは何が起こっているのか分からないものの、自分たちが近づくことの出来ないレベルの何かが起こっている事だけは理解していた。
長剣と両手斧のつばぜり合いが続く。
両手に渾身の力を込めて押し切ろうとするマリアン。しかしそれを片手で平然と受け止め続けるシン。
両者の力量差は明らかだった。マリアンもその事は最初から分かっていた。しかしマリアンが斧へと込める力を緩めることはなかった。
「あの…攻撃を止めてもらえません?俺はあなたと戦う気は無いし、出来れば話し合いで解決したいんだけど?」
シンとしてもこのまま付き合っている場合ではなかった。
戦況が決まったとはいえ、もしかしたらゴブリンキングに繋がる何かが見つかるかもしれない。
出来れば今のうちに出来る限りの捜索を行いたいと考えていた。
「話がしたけりゃ、私を倒してからにしな!!」
「いや、倒したら話出来ないでしょう!?」
マリアンの斧が真紅に燃え上がる。
『
「あ、やば――」
『Envol
――キイィィィィィィン!!
超高音の音が戦場に響き渡る。
兵士たちは突然の激しい耳鳴りのような音に耳を押さえてうずくまっていく。
その音の発生源となったシンとマリアンはマーブルの光の中にいた。
赤、黄、緑。
三色の光を放つ魔力の奔流が二人を包み込み、その絡み合った光は空へと伸びていた。
身体強化へと回していた魔力。放出系攻撃へと回していた魔力。そして――自らの命を魔力へと変換することで発生した三色の魔力が、術者であるマリアンすらも巻き込んで荒れ狂う。
自分の命が先に尽きるか、その前に相手が倒れるか。
これが対単体戦用のマリアンの最終手段。
命を賭けて咲き誇る奇跡の
その儚いまでの輝きは、戦場中の兵士たちが戦いの手を止める程に美しかった。
「この距離で…どれだけ…耐えられるかい……?」
苦痛に歪む顔で、尚もシンを睨みつけるマリアン。
衝撃に耐えきれなくなった鎧が悲鳴を上げながら徐々に弾け飛んでいく。
――マズイマズイマズイ!!
シンの視界に露わになったマリアンの豊満な胸が飛び込んでくる。
咄嗟に目を逸らすシン。
「ハッ!流石にこれは効いてるみたいだ……ねえ……」
徐々に強さを増す三色の光。それにつれて威力も増していく。
その威力が増すにつれて、その中にいるマリアンの受けるダメージも大きくなっていく。
そして、肌の露出も増えていく。
「ちょっと止めて!!」
「誰が止めるかよ!!死ねや!!」
「このままじゃ社会的に死ぬから!!」
「一緒に地獄に行こうや!!」
二人のどこまでも噛み合わない会話が続いたのだった。
「マリアン!!」
しかし、そんなおかしな時間はそう長くは続かなかった。
遠巻きに眺めている兵士たちの中、唯一危険地帯に踏み込んできたのはターフだった。
シンの後を追ってきていたターフは、突然の異常な状況に駆け寄ってくる。
そして、そこにマリアンの姿があることに気付いた。
「来るな!!お前も巻き込まれたくなかったら近寄るな!!」
近づいてくるターフに気付いたマリアンが叫ぶ。
その声に反射的に足を止めるターフ。
眩しく輝きながらうねりを上げる三色の光で、その中の様子はターフにははっきりとは確認出来ない。
それはシンにとっての救いでもある。
ターフはその状況を作り出しているのがマリアンなのだと理解した。
その光から感じる魔力は確かにマリアンのものだと。
そしてそれはマリアンの命すら削り取っているのだと。
「マリアン!!それを止めろ!!死ぬ気か!!」
たまに光の狭間から覗くマリアンの顔から感じ取れる生気は薄い。まるで重病人が今際の際で覗かせる表情のように見える。
――誰か知らないけど、この人を止めて!!
――いや!遠くに離れてから止めて!!
ターフの叫びにマリアンの返事は無い。
シンの心の叫びもターフには届かない。
ただ、少しだけ見えたマリアンの顔は、悲壮感漂う顔で叫んでいたターフを見て微笑んだような――そんな気がした。
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