第4話 S級冒険者リールンク

「はい、確かに依頼にあったツノトカゲの角ですね。数も問題ないです」


 ギルドの受付嬢はそう言うと、シンとフェルトのギルドカードを机の上にあった水晶のような魔導具へとかざす。


「これで依頼完了です。お疲れさまでした」


 事務的な挨拶をしながらギルドカードを二人へと返してきた。

 とくに抑揚のない話し方で、表情もまったく変わることはなかった。


「滞在申請の時もそうだったけど、このギルドの人って、仕事でやってます!って雰囲気の人ばっかりだよね?」


 ギルドの扉から出てすぐにシンはそう言った。


「そりゃあ仕事ですから」


 フェルトの返事はそっけなかった。


「いや、コリィさんがああだったからさ。もっと、こう、人間味のある対応するかな?って思ってて」

「あれはコリィさんがどうというよりも、あの時に渡した陛下の書状のせいでしょう。まあ、ここがギルドの本部っていうのもあるとは思いますが」


 そんな話をしながら街を歩いて行く二人。

 今日は朝から依頼を受ける為にギルドを訪ねていた。


 たくさんの張り出されていた依頼の中から、比較的簡単に出来る依頼を受け、昼前にはギルドに戻ってくることが出来た。

 これでギルドカード失効まで再び一年の猶予が出来たことになる。


「どうします?このまま屋敷に戻りますか?」


「今から戻ったら、ちょうど昼ご飯に間に合いそうだね」


「昼に帰る予定じゃなかったんで、予定外に2人増えたらアレンカーさんが困りませんかね?」


「いや、あの人だったら俺たちの分も準備してるんじゃないかな?」


「……あり得ますね。フルークさんあたりも予想してそうです」


 ――うちの使用人はみんな優秀だからねえ。


 そうして屋敷へと戻っていった二人だったが、屋敷の前で見知った顔と出くわした。


「あれ…は……」


 フェルトがその顔を見て呟いた。


「やあ、こんにちは」


 男の方も二人を待っていたかのように、軽く手を上げて挨拶をしてきた。


「確か――前にギルドで会った…」


 青い鎧を着けた金髪の男。

 やはりあの時と同じように大剣と長剣を携えていた。


「あの時は自己紹介をしてなかったね。私はリールンクという。このエクセルで冒険者をやっている」


 簡単に名乗ると、右手を差し出して握手を求めてきた。


「どうも、シンです。冒険者やってます」


 その手を握り返しながら、更に簡単に名乗った。


「先日はご親切にありがとうございました」


 その横からフェルトが礼を言う。


「私はシンさんの従者をやっております、フェルトと申します」


「いや、礼を言われるほどの事は何もやっていなさ」


 そう謙遜しながら、次はフェルトと握手を交わした。


「もしかして、うちに何か御用ですか?」


 シンはそう言いながら屋敷の方へ視線を向けた。


「ここが――君たちの屋敷だったのか。最近、この屋敷に誰か引っ越してきたという話を聞いてはいたんだが」


 驚いたような表情で二人の顔を見てくるリールンク。


 しかし――


「本当は?」


「もちろん知っていて来たのさ」


 と、簡単に白状した。


「ふぅ。上がっていきます?ちょうどお昼だし、一緒に食事でも?」


「ちょっ、シンさん!」


「喜んでお受けしよう」


 そうして、予定外の来客を迎えることとなった。


 料理長アレンカーは、果たして三人分の昼食を準備することが出来るのか?




「シン殿……あれは?」


 門を抜けた庭に入ったところで、リールンクがあるものに気付いて足を止める。


 その視線の先にいたのは、きゃっきゃとはしゃぎながら遊んでいるローラ、ミア、ルイスのちびっこ三人組。

 いつものように、小型ゴーレムと遊んでいた。


「ああ、あれはうちの子供たちですよ」


「シン殿の子供?」


「ええ、先日養子に迎えたんです」


「養子……ですか」


「私は独身ですから」


 リールンクはシンの最後の言葉が聞こえていないかのように、じっと子供たちを見つめていた。



「お帰りなさいませ」


 玄関を開けると、執事のフルークがシンたちの帰宅を知っていたかのように待ち構えていた。


「フルークさんただいま。こちら、お客さんのリールンクさん。一緒に食事に誘ったんだけど……」


「分かりました。アレンカーに伝えてまいります」


「急に三人増えて大丈夫?」


「アレンカーであれば何の問題も無いかと」


 ――やっぱり優秀だねえ。


「じゃあ、テラスの方で食べるから、そちらへお願いできる?」


「かしこましました。フェルト様はいかがいたしますか?」


「あ、私は他のみんなと一緒でお願いします」


 フェルトは特に言われたわけではないが、同席はしない方が良いだろうと判断した。

 それに対して、シンも何も言わないところを見ると、フェルトの判断は正しかったのだろう。

 

「リールンクさん、じゃああっちへ」


 シンがリールンクを案内しようとした時――


「お義父とう様おかえりなさいませ」


 白いワンピースを着たジャンヌが近づいてきた。


「お義父様?この子もまさか……」


義娘むすめのジャンヌです」


「ジャンヌと申します。ようこそいらっしゃいました」


 ジャンヌはそう言うと、ワンピースの端を両手でつまんで、優雅に挨拶をした。


「これは丁寧な挨拶を――私はリールンクといいます。お嬢さん」


「ジャンヌ、俺たちはテラスで食事をするから気にしないでくれ」


「分かりました。では、テラスまでは私がご案内いたします。お義父様は先に着替えをなさってください」


 シンは一瞬で着替えることが出来るのだが、知らない人の前では控えた方が良いとフルークに言われていた。


「そう?じゃあお願いするかな」


「お任せください。ではリールンク様。こちらへ」


「はい。お願いいたします」


 ――ジャンヌの前だと態度が違うぞ。うちの娘はやらねーからな!


 そんな想いはおくびにも出さずに――シンは自室へ、ジャンヌとリールンクはテラスへと向かったのだった。



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