第3話 子供たちの今後
「先生。全員揃いました」
ライアスがそう声をかけた時、シンは机に向かって何かを書いていた。
「りょーかいっと」
シンは座っていた椅子をくるりと回転させて皆の方へと向く。
シンから向かって右手にフェルトとライアスが立っていて、その横にあるソファにロイドとジャンヌ。
シンのベッドの上ではローラとミアとルイスがお尻で弾みながら座っていた。
「みんな朝から集まってもらってゴメンね。どうせなら早く伝えておいた方が良いかなと思って集まってもらいました」
口調は軽かったが、シンの表情は真面目な顔をしていた。
そのアンバランスな雰囲気に、ロイドとジャンヌだけが緊張を増していた。
「まあ、ごちゃごちゃ説明しても意味無いと思うので、先に結論から伝えます」
ロイドのゴクンという唾を飲む音がジャンヌの耳に聞こえる。
「ロイドとジャンヌ。それにローラ、ミア、ルイス。君たちには今日から正式に俺の養子になってもらいます」
「――え!?」
即座に反応したのはロイド。
ジャンヌは目を見開いて固まっている。
「ようしってなんですか?」
そんな二人とは対照的にローラが無邪気にシンに聞く。
「養子っていうのは、ローラが俺の子供になるってことだよ」
「しんさまのこども……しんさまがおとうさんになるの?」
「そうだよ。ローラは俺の娘になるんだ。嫌かな?」
シンがそう問いかけると――
「ううん!おとうさん!!」
満面の笑顔でそう答えた。
「ミアとルイスはどうかな?」
二人にそう聞いたのだが、すでに二人はお互いの手を握り合ってぶんぶんと振って喜んでいた。
「さて、あとはロイドとジャンヌだけど――」
シンが二人の方へ振り向くと、ロイドは喜んでいるローラの方を複雑そうな顔で見ており、ジャンヌは下を俯いていた。
「このことは俺が勝手に決めた事だから、嫌だったら当然断ってくれても構わない。その事で君たちへの対応がこれまでと変わらないことは誓っても良い。すぐに決められないと言うのなら保留してくれて、その返事はいつでも構わない。明日だろうと、十年後だろうとね」
「僕がシン様の養子……」
ロイドはシンの突然の申し出にどう返事をして良いものか判断がつかなかった。
妹のローラのように無邪気に受け入れることが出来るなら、どれほど楽だっただろうかと思った。
「……どうしてですか?」
ジャンヌは下を俯いたまま、何とか振り絞ったような声を出す。
「それが君たちにとって将来的にいろいろと良い事だと思ったからだよ。このことはライアスとフェルトにも相談して決めた事だけど、さっき言ったように、最終的にどうするかは君たちが決めてくれて構わない。このまま俺たちの弟子兼仲間という形でも良い」
「少し……考えさせてください」
「あ、僕も少し時間をください。ローラは……よろしくお願いします」
そう言うとロイドは頭を下げる。
「――分かった」
そして二人ははしゃぐちびっこたちを連れて部屋を出ていった。
「みんな大体予想通りの反応でしたね」
紅茶を注ぎながらフェルトが言う。
「予想通りだからこそ、この先が読めないんだけどねえ」
シンはそう返事をしながら、ティーカップに口を付ける。
「おそらくロイドは受け入れるでしょう。ジャンヌは…どうですかね。私には女性の気持ちが分かりませんので」
ライアスもそう言って紅茶を一口飲んだ。
「それを言ったら俺たちみんなそうだよ。だから先が読めないんだよね」
当のシンはもちろん。フェルトとライアスもジャンヌがシンへ抱いている気持ちに気付いていた。
それは憧れから派生した初恋とも言うべき淡い恋心。
本人すら最近まで自覚することの無かった気持ち。
「あと数年もすれば成人して婚姻も可能なのですけど、シンさんはジャンヌは嫌ですか?」
人の悪そうな笑みを浮かべてフェルトが言う。
「嫌とか嫌じゃないとかの話じゃないよ。いくらなんでも歳が離れすぎてるでしょ?」
「425歳ですもんね」
「いや、先週誕生日で426歳になった」
「もう変わりませんよ。そんなのは誤差ですらありません」
「酷いな。誕生日祝ってよ」
「来年まで覚えていたら祝って差し上げますよ。見た目が変わらないんですから、歳の差とか関係無いと思いますけどね」
「さっき言ったでしょ?いろいろと良い事だって。ジャンヌにはちゃんとした人と一緒に年を取っていって欲しいんだよ。自分だけが老いていって、相手が若いままとか嫌でしょ?」
「……どうですかね?シンさんはそう思っても、ジャンヌはそう思わないかもしれませんよ?」
「今はまだ若いからね。実際に大人になっていけば考えも変わるんじゃないかな?」
「さあ……私には分かりかねますね」
「まあ、返事はいつでも良いと言っておいたから、気持ちの整理がつくまではゆっくりと待つさ」
そう言うと残っていた紅茶を一気に飲み干した。
「とりあえず朝ごはんにしようか」
シンは二人にそう言って席を立つ。
「いくら修行を積んでも…女心だけは手ごわいですねえ……」
紅茶の残ったティーカップを眺めながらライアスは誰にともなく呟いた。
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