第47話 裏稼業は辛い
「そうですか、そんなことが……大変でしたね」
シンは宿に戻って、留守番をしていたライアスに今日の事を話していた。
ちびっこたちはいろいろと疲れただろうと、部屋に戻らせて昼寝をさせている。
ロイドとジャンヌは、やはり今日の事を気にしているのか、ちびっこたちに付いているといって一緒に部屋に戻った。
「うん。本当、二人をなだめるのが大変だったよ」
「シンさん、ライアスさんが言っているのはそこではないと思いますよ」
実際にシンにとって大変だったのはそこなのだが。
「その黒ずくめの者たちと、その者たちを連れ去った者。どこの手の者でしょうか?」
「ああ、あれは俺の完全な手落ちだね。ロイドとジャンヌの目の前を盗んでそんなことが出来る奴が出て来るとは考えてなかった。というか、絡んでくるのはもっとチンピラみたいなのだと思ってたんだよねえ……。黒づくめの集団もそれなりの奴らだったし、それを連れ去った奴?奴ら?はもっとやり手の相手だね。ちゃんとそんなのを保険に付けるなんて、なかなかどうして、しっかりしている。」
「または、黒づくめの奴らを最初から信用してなかったのか」
「見張りの方が腕が立つとかやめて欲しいね。でも、最初からそいつが出てきていたら、黒幕を見つけるのが早かったかもだけど」
「とにかく、相手がはっきりするまでは、子供たちだけで行動させるのは控えた方が良いでしょう。大丈夫だからといって、あまり怖い思いをさせるのはどうかと思いますので」
「そうですよ。あの子たちはゴブリンの一件があるんですからね。もう少し配慮してください」
「はい…気を付けます……」
二人にしっかりと釘を刺されて反省するシン。
少なくとも、傍目にはそう見える。
傍目には……。
「それで、ユリウス皇帝の件ですが、いかがしますか?」
「そっちは早めに片づけておこう。その方が誘拐犯の黒幕を釣るのが早くなりそうだし」
「先生は皇帝の関係者が怪しいと思っているのですか?」
「いや、怪しいというか、今回の件の協力者がその近くにいるのは間違いないと思う。結構な手練れの者を送り込んできたところからしても、ただ子供を誘拐しようとしたってわけじゃなさそうだし」
「我々の仲間だと知っていての行動でしょう」
「ライアスさんの仲間と知ってやってきたなら、レギュラリティ教に敵対するような組織が相手ということでしょうか?流石に個人で喧嘩を売ってきたとは思えませんが……」
「もしくは――先生の事を知っていての行動かもしれません。そう考えれば、あの場にいた貴族の誰かが協力者だという線はありえます」
「そうだったら、相手はかなりの命知らずということになりますね」
「はい。可哀そうに」
「いや、人を血も涙もない殺人鬼みたいに思ってる?」
「シンさんは殺人鬼相手の方がマシだったと思わせることが出来るでしょう?」
「出来るけどしないからね!」
「出来るだけで十分です」
「はい。普通はそんなこと、拷問官くらいしか出来ません」
「拷問もしないから!」
この認識については、一度二人とはじっくりと話し合う必要があると感じるシンだった。
「怪我はどうだ?」
ろうそくの灯りがかすかに灯る薄暗い部屋の中。
男の低い声で話しかける。
「……まだ吐き気がするわ。骨とかは大丈夫そうだけど――顔も痛いし、頭の中もガンガンする」
全身を黒一色の服に身を包んだ女がそう返事をする。
「そうか、やはりお前が一番軽傷のようだな。他の四人は全身の骨が何本も折れていたからな。今は俺の手配した治癒士のところへ運んでいるから安心しろ」
「軽傷……ねえ。まあ、命があるだけマシかしら」
「言葉もしっかりしているから、まあ大丈夫だろう」
「そうね。とりあえず助けてくれた事には礼を言っておくわ。ありがとう」
「それが俺の仕事だったからな。礼を言う必要はない」
「それは、私たちは最初から信用されていなかったって事かしら?」
「さあ、それはしらん。そうなのかも知れないし、ただの保険だったのかもしれない。俺はそんなことには興味が無いからな」
「……まあ良いわ。それにしても、あの二人……何者なのかしら?不意を突かれたとはいえ、私が隣に並ばれるまで気付けないなんて…。」
「俺が見た限り、お前たちがまともに正面から戦ったところで、とてもじゃないが相手にならん強さだったな。離れて見ていた俺でさえ、お前たちが倒される瞬間まで気付けなかったんだからな」
「……流石はレギュラリティ教の師範の仲間ってとこかしら。あの三人の子供の動きも異常だったしね」
「それだけでは無いかもしれんが……」
「ん?何か言った?」
「いや、別に……」
「そう?何にしても、今回の依頼は失敗ね。依頼主は怒ってるかしら?」
「どうだろうな」
男は思っていた。
依頼主は最初からこうなることが分かっていたのではないかと。
だからこそ、自分を――空間転移を使うことの出来る自分を後詰めとして付けたのではないかと。
しかし、それは男の想像でしかなかったし、そんなことには興味が無かった。
男は与えられた仕事をこなしたにすぎない。
「……お前も治療を受けに行くか?」
頬を押さえている女に男はそう言った。
「……そうね。あいつらのことも気になるし、お願いできるかしら?」
「ああ、了解した」
そして二人の姿は忽然と消えた。
残された部屋の中では、灯っていたろうそくが最後の輝きを放って――深い暗闇が訪れた。
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