第46話 魔王様の弱点

「普通に手続きが終わりましたね……」


「だねえ……」


 ギルド本部を出たところで、気が抜けたような会話をするシンとフェルト。


「登録した時の事を考えたら、何かひと悶着あると思ったんだけどなあ」


「ですよね…」


 ロバリーハートでシンが冒険者登録をした時に、本部采配が噛んでいた事を考えれば、普通は何かしら呼ばれるような事があると二人は考えていた。


 しかし、実際には、普通に事務手続きをしただけで、特に何も起こらなかったことに二人は拍子抜けしたような気分になった。


「逆に気味が悪いけど、今は助かったのかもね」


「どういうことです?」


「どうも、ロイドたちに何かあったみたいだ」


「え!?」


「ああ、みんな無事みたいだから安心していいよ」


「――そうですか。では、そちらへ向かいますか?」


「うん。ここからだと少し離れてるけど、飛んで行けば――」


「駄目です」


「……普通に急ごうか」


 そうして二人は街外れへと向かった。



「すいません……僕が目を離したのが悪いんです……」


「いいえ!ロイドに話しかけて、子供たちの事をほったらかした私の責任です!!」


 シンとフェルトが街外れの路地前に到着した時、ロイドとジャンヌが子供たちを連れてちょうどその路地から出てきたところだった。

 そして、二人の姿を見た途端、お互いが自分の責任だと言い出したのだ。


「えっと、まずは先に何があったか説明してくれるかな?」


 そう、何の説明も無く謝り出した二人だった。


 二人は――話をしていた間に子供たちがいなくなったこと。ようやく見つけたと思った時には、何者かに連れ去られそうになっていた事。そして、その相手を倒して救出したことを話した。


「うん。子供たちにも怪我は無さそうだし、二人ともご苦労様」


 しかし、シンは二人を責めることなく、子供たちを助けた事をねぎらった。


「いえ……僕たちのせいですから……」


「そうです……ご苦労様とか言われるような……」


「二人とも、そんなに気にしないで。確かに、子供たちが危険な目にあったかも知れないけど、君たちだって、俺から見たらあの子らとそんなに変わらない感じだからね」


 ――425歳からしたら、7歳も12歳もね。


「そんな君たちだけにした責任は俺にあるから、二人が責任を感じることはないよ」


「でも!もう少し見つけるのが遅かったら、この子たちがもっと危険な目にあっていたかもしれないんですよ!!」


 ジャンヌは、申し訳なさそうに自分たちの後ろに隠れている三人を見た。


「ああ、それは大丈夫」


「え?」


「忘れたの?その子たちには、俺が強化魔法と常時回復魔法をかけてるんだよ?ちょっとやそっとの攻撃で怪我することはないからね」


「――あ」


「それに、その子たちが連れ去られていたとしても、魔力で繋がっている俺にはその場所が分かるから。それは君たちが同じような事になってもね。でも、君たちは自分の力で助けたんだから、それは立派な行動だと思うよ。たとえ、自分たちのせいでそうなったんだと思っていたとしても、俺はそう思う」


「……」


 シンはそう言うが、二人は怒られない事に納得がいかない様子。


「二人ともきちんと叱られたいんでしょうけど、それは諦めなさい。まだシンさんとの付き合いが短いから理解していなかったのかも知れませんが――私や、あなたたちを含めて、この人から何かを奪うなんてことは、世界を相手に戦うよりも難しい事なんですよ。だから、今回の事も大したことではなかったんです。シンさんにとってはね」


 フェルトはそう言うと、深い溜息をついた。


「私はなんておかしなことを言ってるんですかねえ……」


 そして、いかに自分が荒唐無稽な説明をしているのだろうと思った。


 「それに――シンさんは、三人がロイドたちから離れていった時点で気付いていたんでしょう?」


「そりゃ、もちろん」


「え!?」


 シンが最初の時点から分かっていたという事に驚くロイドとジャンヌ。


「連れ去られたら分かるって事は、普段からどこにいるのか把握出来てるってことですからね。それでもすぐに助けに行かなかったのは、二人だけで何とかさせようとか思っていたんでしょ?」

「どういうことです……?」


 シンはしまったという顔をして、フェルトから顔を背けた。


「二人ともよく聞いてください。そして、この人がどういう性格なのかを、今のうちに理解しておくんです」


 フェルトが真剣な表情でロイドとジャンヌにそう言うと、後ろのちびっこたちも緊張した顔になり、誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえた。


「この人はね。三人が誰かによっておびき出されていたことを知っていて、そして二人が助けに行くことも分かっていたんです。それでも放っておいたのは、ロイドとジャンヌだけで助けることが出来る、もしくはそういう経験を積まそうと企んでいたんですよ」


「え……わざと……?」


 シンは顔を背けたままだ。


「なので、本当の責任はこの人にあるんです。二人が気に病む必要なんて、最初からなかったんですよ」

「……シン様?フェルトさんが言ってるのは本当ですか?」


 ジャンヌの声が少し低くなったような気がした。


「ここからは私の推測ですが――もしかしたら、子供たちだけで街に出させたのも、こうなることを分かっていてやったんじゃないかと思っています」


「――いや!それは違う!そんなこともあるんじゃないかな?とは思っていたけど、必ずとまでは思っていなかった!」


 慌てて弁解するシンだったが――


「じゃあ、それ以外はフェルトさんが言った通りだと?」


 ロイドの声も少し低くなった気がする。


「あ……」


 結局、自分の企みを証明する結果となってしまった。


「私たちがどんな思いで……」

「あれも全部分かっていたなんて……」


 一歩ずつシンに近づいてくるロイドとジャンヌ。


 ちびっこたちは、二人の気配に怯えて急いでフェルトの後ろへと隠れた。


「よし!一旦落ち着こう!続きは宿に戻ってからに…ね?」


「いえ、出来ればすっきりしてから帰りたいです」


「僕もジャンヌと同じ意見です」


「フェルト……くん。君は俺の執事だよ…ね?こういう時は、俺の味方じゃないのかなあ…?」


「執事であるその前に、私は二人と同じで、シン被害者の会の一員ですので」


「「シン様……」」


「ゴメン!!ゴメンってば!!」



 二人の怒りが収まるのは、それから少しの時間が必要だった。



 そして――その頃、宿で留守番をしていたライアスの下に、皇帝からの使いの者が来ていた。


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