第42話 滞在申請
「ねえ、本当に滞在申請って必要?別に依頼受けるわけじゃないんだから…」
「その発言は冒険者としてどうかと思いますが。そもそもシンさんはCランクの冒険者として登録されているんですから、少しは活動しないと、骨を折ってくれたギルマスのレオナルドさんに申し訳ないとは思いませんか?それに、一年以上依頼を受けなければ冒険者登録を取り消されるんですよ?」
「……一年?」
「そうです。その期限は来月中ですね。」
「あれ?もうそんなに経った?」
「発行されてからロバリーハートを出るまでに一か月。そしてアデスで半年以上いましたし、そこに行くまでにも二か月以上かかってます。あと、ギャバンで復興の手伝いをして、ここに来るのも通常よりもゆっくり来ました」
「はあ……」
「ですから、ここにいる間に一度は依頼を受けておかないと間に合わなくなる可能性もあります。多少のズレはありますが、もちろん私も同じです」
フェルトはシンに同行することを決めてから登録したので、シンよりは若干の余裕はあった。
「じゃあ、薬草でも取りに――」
「それはCランクのやる仕事じゃありません。新人の仕事を奪うつもりですか?」
「うっ…それはそうだけど…」
「シンさんならドラゴンでも狩れるんですから、とりあえずギルドの依頼を見てから決めましょう」
「そんな依頼はそうそうないんじゃ…」
「例えばの話です。そんなのは依頼出してる場合じゃなくて国が動いてますよ」
「何か今日のフェルト、機嫌悪くない?」
「…そんなことはありません。いつも通りです」
宿で子供扱いされたことを根に持っているとは言えないフェルトだった。
パルブライトにあるギルドと言えば、誰もが知っている大陸全土のギルドを束ねている総本山である本部ギルドである。
どこの国にも属さないという点では、宗教組織であるレギュラリティ教団と似ているが、所属している人数だけなら、教団を遥かに上回る巨大組織であった。
当然、そんな組織の本部であるのだから、その建物は推して知るべし物である。
「……え?…これ全部がギルド本部なの?」
シンはその巨大な建物を前に呆気にとられたように言った。
巨大な石造りの五階建ての建物は、下手をすればロバリーハートの王宮と同じくらいはあるのではと思えてしまう。
扉の開け放たれたままの広く大きな入り口からは、絶え間なく冒険者風の人々が出入りしている。
「そう…みたいですね…。私も話には聞いていましたが…これほどとは……」
「すまないが通してもらえるかな?」
立ち尽くしていた二人の背後から若い男が声をかけてきた。
金髪の髪を短く刈り上げ、シンと見た目は同世代くらいの男は、全身を青を基調とした
「あ、すいません。どうぞ」
シンがそう言うと、フェルトも逆方向へと避けて道を空ける。
「ありがとう」
男はそう言って通り過ぎようとしたが、ふと立ち止まって振り返った。
「ええと、君たちはギルドへの登録希望かな?それとも何か依頼の申請?」
男は二人がギルドに入るのに躊躇していたのだと思ったのだろう。
今日は目立たないようにと普段着のフェルトと、似たような軽装のシン。
とても現役の冒険者には見えなかったのだろう。
「いえ、私たちはエクセルでの滞在申請に来た冒険者です」
フェルトは男の言葉に特に気にした感じもなくそう返した。
「ああ、失礼。気分を害したなら謝罪するよ。その、何ていうか、冒険者がギルドに来る恰好に見えなかったんだ」
「いえ、お気になさらずに。今日は申請だけのつもりでしたので、このような軽装で伺ったのです」
「そうか、寛大な対応感謝する」
男は明らかに年下であるだろうフェルトに対しても、紳士な態度で接していた。
「申請なら依頼と同じく受付で言えば対応してくれるはずだ」
「そうですか。親切にありがとうございます」
シンが男に対して礼を言う。
「いや、礼を言われるようなことではない。どうせ誰に聞いても教えてくれるような事だからな」
「いいえ、それでも自分から教えてくれる方は少ないでしょう」
「――君は冒険者らしくない礼儀を身に着けているようだな。どこかの貴族のご令息なのか?」
「私はただの冒険者ですよ。それに、それを言うなら貴方も同じではないですか?」
「確かに――。すまない。冒険者でありながら、素性を探るような真似をしてしまった」
「気にしてませんから大丈夫です」
「――分かった。今回はその言葉に甘えさせてもらうことにしよう」
そこで謝るのはかえって礼を欠くと感じた男は、シンの言葉を受け入れることにした。
「では、私たちは申請に行きますね」
「ああ、引き留めてすまなかった。エクセルでの生活を楽しんでくれ」
そう言うと男は受付とは違う方向へと歩いて行った。
「さすがはギルド本部といったところでしょうか……」
男の去っていく背中を見つめながらフェルトが呟いた。
「うん、冒険者であれだけの力を持った人が普通に歩いてるんだからね。あ、名前聞いとけば良かったか」
そういえば、お互い自己紹介をしていなかったことに気付いたシン。
「いえ――あの人のことなら、滞在申請をする場所以上に誰に聞いても知ってるんじゃないですか?」
「かもしれないねえ……」
シンもフェルトの意見と同じような感想をもっていた。
「シルヴァノ総騎士団長に感じたものと同じくらいの力を感じましたから……」
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