第36話 第二騎士団長シロッコ
「ここが騎士団が普段模擬戦に使っている訓練所です」
シンたちが案内されたのは、王宮から少し離れた場所にあった闘技場のようなところ。
周囲には観客席もあり、そこにはすでに先ほど見た貴族たちが座っている。
皇帝ユリウスの姿もそこにあった。
「じゃあ、みんなはライアスと一緒に待ってってね」
シンがロイドたちに言った。
「しんさまがんばってー」
ミアがシンを見上げるような姿勢で笑顔を見せる。
シンはミアの頭を無言で撫でると、フェルトと共に広場へと足を進めた。
その中央で待っていたのは、騎士団長のシルヴァノと、金髪の長い髪を後ろで結んでいる若い騎士。
戦う相手はこの二人なのだろうとシンは思った。
「シン殿、フェルト殿。今回、お二人のお相手を務めさせていただく、騎士団長のシルヴァノと、第二騎士団長のシロッコです。よろしくお願します」
シルヴァノが丁寧な挨拶をしてくる。
「この訓練場内では受けたダメージを張られている結界が吸収してくれます。ですので、安心して戦っていただきたい」
「それでは勝敗が着かないのではないですか?」
フェルトが疑問を口にする。
「どちらの技量が優れているかは見れば分かります。まあ、戦っている者同士ならば、勝敗はお互いが察するでしょう」
「なるほど――」
「ご理解いただけたならば、そろそろ始めさせていただいて構わないだろうか?まずはフェルト殿とシロッコ、次に私とシン殿とのイキートス殿からのお達しだ」
シンはフェルトを見る。
アデスでは鍛えてきた。魔物とも多くの戦闘を重ねてきた。
それでも、帝国の騎士との戦いとなれば、その経験はフェルトよりも遥かに多いはず。
本人はやる気になっているが、勝てるという保証はシンにも出来なかった。
「シンさん――私は強くなっていますか?」
フェルトも同じようなことを思っているのだろう。
若干不安そうな表情でシンに問いかけた。
「――大丈夫。君は強くなってるよ。怪我することはないみたいだし、思い切りやってきな」
シンは自分が不安がっていてはいけないと思い、出来る限りの笑顔でフェルトの背中を軽く叩いた。
「――行ってきます」
フェルトはシルヴァノと向かい合い、シンは後方へと下がった。
「では、武器はこちらの剣を使っていただく。フェルト殿もそれで構わぬだろうか?」
「問題ありません」
刃渡りのある長剣をシルヴァノから受け取る。
「この剣は特殊な付与魔法がかけられているので、この結界内で破壊されることはない。そして、この剣でのダメージは自動的に結界に吸収される。ただ――その衝撃や、肉体での打撃は吸収されないので注意してくれ」
「分かりました」
すでにシロッコも同じ剣を手にしていた。
「ふぇるとにいちゃんがんばれー」
ちびっこたちの声援が聞こえる。
「何とか良いところを見せたいのですけどね……さて」
「では、改めてルールを説明する。自身の強化魔法のみで、その他の魔法および魔道具の使用は禁止する。勝敗はどちらかが負けを認めるか、私の方でこれ以上の戦闘は無用と判断した時とする。双方異論は無いか?」
「ありません」
「私も普段と同じですので問題ないです」
「では、双方距離を取って――始め!!」
フェルト、シロッコの両者が剣を構えたのを見たシルヴァノが開始の時を告げた。
合図と同時にフェルトが踏み込み、間合いを詰めようと試みる。
フェルトは剣技では、騎士であるシロッコとは天地の差があることを承知していた。
それに、フェルト自身がかけることの出来る強化魔法の制限時間は、ギリギリもって二分程度。
勝機を求めるならば、相手が様子見してくるだろう開始直後の短期決戦しかなかった。
しかし、踏み出そうとした瞬間――目の前にシロッコが剣を振りかぶって現れた。
明らかに後から動き出したはずのシロッコだったが、その動きはフェルトの想像を超えた速さだった。
反射的に剣を頭上へ構えて、シロッコの剣を受けようとするフェルト。
すでに視覚には捕らえられていないが、修行での経験からか、身体が自然と反応していた。
剣と剣が衝突するその瞬間――フェルトの本能が嫌な予感を告げた。
それは瞬きすらも許されないような一瞬。
フェルト自身も意識できない程の刹那の時。
受け止めようとしていた剣を、自身の右わき腹方向へと変化させる。
ガキイィィィン!!
金属のぶつかり合う激しい音が響き渡り、その衝撃でフェルトの体が数メートル弾き飛ばされた。
しかし、何とか倒れることなく体勢を整えて、再びシロッコへと剣を構える。
「一撃で決めるつもりだったのですが……今の剣筋が見えたのですか?」
シロッコもすでに剣を構え直しており、フェルトへとその剣先を向けていた。
驚いたようなことを言っているが、その表情に変化はなく、真っすぐにフェルトを見ていた。
「さあ……どうでしょうね?」
フェルト自身分かっている事は少ない。
上段から振り下ろされた剣が、横から払われてきたらしいということ。
何とかそれを受け止めたということ。
そして、その全てが見えていなかったという絶望感。
もしも追撃を受けていたのなら、無防備な状態で攻撃を受けて、下手をすれば試合を止められていたかもしれない。
「奇襲は失敗。様子見をする感じも無しですか……ふぅ」
フェルトとシロッコには、今すぐには埋められない程の力の差があった。
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