第32話 警備隊隊長ティム

「失礼ですが、ライアス師範様と、そのご一行様でございますね?」


 フェルトが馬車を預けに行っている間、シンたちは近くの露店を見て回っていたのだが、警備隊と思われる兵士たちに突然声をかけられた。


 ライアスは騒ぎにならないようにと、深くフードを被っていたのだが、兵士たちはその情報を知っていたのだろう。迷うことなくそう聞いてきた。


「はい、私がライアスで間違いありません。何か御用でしょうか?」


 とぼけたようにそう返すライアス。

 帝都に来た目的を考えれば、理由など考えるまでもないのだから。


「おお!私はエクセル城下警備隊隊長のティムと申します。お会いできて光栄至極でございます」


 中年のティムと名乗った男は、人目もはばからず膝を着いて祈りの姿勢を取ろうとした。


「ここは街中。目立つことは好みませんので、そのような礼は不要にてお願いいたします」


 ライアスがそう言うと、ティムはしゃがみかけた体勢とぴたりと止めて、再び直立した姿勢へと戻る。


「それでは、このままで失礼いたします。レギュラリティ教の師範様が来られたと門番の兵士から連絡を受けまして、我々はお迎えに参った次第でございます」


「私は名乗ってはいなかったと思いますが?」


「皇帝陛下より、ライアス様が近いうちに来られるので、その時は決して失礼のないよう城までご案内しろと厳命を受けておりました」


「なるほど、ということは――すでに私たちが来たことは皇帝陛下にも伝わっているということですね?」


「はい、すでに連絡はしております」


「分かりました――先生、いかがいたしましょう?」


 一応の確認作業を終えたライアスは、話を聞いていたシンへと尋ねる。


「ティムさん、と言われましたか?ご存じのとおり、私たちは長旅を経てこの街に着いたところです。旅の垢も落とさずに皇帝陛下にお会いするなどといった無礼を働くわけには参りません。今日は宿で準備をして、明日にでもお会いするという事では駄目でしょうか?」


「明日――でございますか?」

 ライアスの仲間ということからか、シンに対しても丁寧な対応を見せるティム。


「見ての通り、幼い子供もおりますゆえ」


「確かに、幼子に長旅は辛かったことでしょう。分かりました。皇帝陛下にはそのようにお伝えいたします」


「ありがとうございます」


「それと、もしよろしければ今晩泊まる宿もご紹介させていただきますが…」


「おお!それは助かります。是非お願いします」


 ――どちらにせよ監視付けられるんだろうから、それなら変に断って無駄に疑念を抱かせることもない。

 ――それに、皇帝に会うまではどのみち逃げるつもりは無いからね。


 そうして、フェルトが合流するのを待って、ティムの案内で宿屋へと向かった。



「こちらでございます。お気に召されるとよろしいのですが……」


 案内された宿屋は、四階建ての石造りの建物で、周りにあった他の宿屋よりも大きなこの宿は、見るからに高級な宿屋だと分かる。


 入り口の分厚い木製の扉を開けると中は広いエントランスが広がり、二回まで吹き抜けの明るいホールは、清潔感と高級感のある作りだった。


「わあ……」


 天井を見上げて感嘆の声を上げるちびっこたち。


「ティム殿。別に我々はこのように立派なところでなくても良いのですが」


 ティムとしは失礼の無いようにと言われているので、出来るだけ高級なところに連れてきたのだろうと思ったライアス。


「あの…お気に召しませんでしたでしょうか…?」


 恐縮そうに聞いてくるティムだったが、その時――


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか?」


 入り口の近くにいたボーイのような男性が声をかけてきた。


「いえ、予約は――」


 シンがそう言いかけた時――


「これはティム様。お帰りなさいませ」


 ボーイはティムに対して深々と頭を下げた。


「ティム様?お帰りなさい?」


 シンがそう言ってティムへと視線を送る。


「あの、ここは…私の実家が営んでいる宿屋でございまして……」


 ――実家かい!!てか、あんた結構な坊ちゃんだったんだな!?


「ここで構わないです……」


 何か断ることが悪い事のような気がしたシンだった。



 ティムの紹介ということもあり、予約無しで豪華な宿に泊まることになった。

 どうやら宿代も国が負担してくれるとのことで、多少気兼ねする気持ちはあったが、最悪自分で払うことが出来るくらいのお金はロバリーハートを出る時に受け取っていた。


 子供たちをいれて八人ということで、一番高価な四階に隣り合わせで部屋を二部屋用意してもらい、大人たちと子供たちで部屋割りをした。

 子供だけにすることに危険が無いのか?という点に関しては、シンがいる以上は何かあったとしても問題は無いだろうという安心感が皆にあった為、誰一人として異論を挟むことはなかった。

 だが――


「ひろーい!!」


「きれー!!」


「あんまり暴れたら駄目よー」


 シンたちの部屋の中で走り回るちびっこたち。

 それを注意するジャンヌ。

 何やら組手の型についてフェルトとライアスに質問をしているロイド。


 結局は寝る時まで別々の部屋にいる必要は無く、シンたちの部屋はその日遅くまでとても賑やかだった。



 そして日は変わり、皇帝との謁見の時は近づいていた。



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