第31話 帝都エクセル
「ようやく帝都が見えてきましたね」
フェルトが街道の先に見えてきた城壁を見つけてそう言った。
ギャバンを出て二週間。
予定の倍ほどの時間をかけてパルブライト帝国の帝都エクセルへと到着しようとしていた。
「まあ、ずっと移動しっぱなしだったわけじゃないから、これくらいは掛かるよね」
休憩の度に子供たちと遊んだり、早めに移動を止めて、ライアスがフェルトに修行をつけたりしていたので、一日の移動距離がそれほど稼げなかったからである。
しかし、それも含めて、全てシンの計画通りだったのではないかと、フェルトは訝しんでいた。
「わあー。おっきな街だー」
ルイスが徐々に近づいてくるエクセルの城壁の大きさに驚きの声を上げた。
帝国民であるちびっこたちを含めて、エクセルに来るのは初めての者ばかり。
ロバリーハートの王都ジルオールを知るシンとフェルトにしても、その規模は想像以上のものだった。
――さすがは、大陸西部最大の国だな。
シンはその国力を想像し、その国の主に会うのかと少し憂鬱な気持ちになった。
――絶対に面倒事を頼まれるよな……。
「身分を証明できるものはありますか?」
入城待ちの列に並ぶこと一時間。
ようやく順番が回ってきたシンたちは、門番の兵士にそう言われた。
「身分を証明……冒険者証で良いのかな?」
シンは、その為に冒険者登録をした事を思い出して、一度も使ったことがない冒険者証を門番へと見せる。
フェルトもそれに合わせるように自分の冒険者証を差し出した。
「冒険者の方ですか……そちらの子供たちは?あなた方のお子さんですか?」
荷台にいるジャンヌたちを見て、訝し気な視線をシンへ向ける門番。
「ええと、この子たちは……」
――あ、なんて言えば良いんだ?考えてなかった……。
言い淀むシンに、怪しい気配を感じた兵士が剣にそっと手をかける。
兵士の睨みつけるような視線を受けた子供たちも不安そうな表情を浮かべて、じっと黙ったままだ。
――ヤバい!ヤバい!到着そうそうに騒ぎ起こしてる場合じゃないって!
「えっと、えっと…この子たちはですねえ……」
「この子たちは私たちの仲間です」
困っていたシンにライアスが助け舟を出す。
「仲間?こんな子供が冒険者の仲間だと?……何か証明出来るものはありますか?それとまだあなたの証明書を見せてもらってませんね」
しかし、兵士の警戒は更に増してしまった。
まあ、それが普通の反応だろう。
「生憎、私は冒険者登録を禁じられておりまして、祖国の籍も外しておりますので、これといった証明書を持っていません。」
ライアスの言葉に兵士の身体がびくっと震えた。
冒険者登録が禁じられていて、国籍を持たない者と言えば一つしか思い当たるものがない。
「しかし、そんな私ですが、子供たちのことに関しては保証いたします」
そう言うと、ライアスはローブの前を開けて、その下に身に着けていた金糸雀色の袈裟を兵士へと見せる。
「――!?失礼いたしました!!どうぞお通りください!!」
兵士の顔色は一瞬で蒼白になり、慌てふためきながらそう言った。
「ギャバンでも思ったけど、それって便利だよね。ご老公の印籠みたい」
シンは遥か昔に観た時代劇を思い出していた。
「印籠…?というものは分かりかねますが、大体の国では身分証明の代わりになるようです」
ならない国もあるのか…と、シンは思ったが、今は関係ない事だとスルーした。
城門を抜けて見たエクセルの街並みは――
「わぁ……すごい……」
ちびっこたちだけではなく、ロイドとジャンヌもそんな言葉しか出てこないくらいの圧倒的な都会感で溢れていた。
きちんと舗装された地面に、全てが石造りの建物。
その全てが綺麗に外装を塗装されており、広く作られた道路の両脇に立ち並んでいる。
そして、その遥かかなたに、一際大きく見える巨大な建物が見える。
おそらくは、あれがこの国の皇帝のいる城なのだろうとシンたちは思った。
フェルトですら見たことのないほどの多くの人が行き交う街の中を、ゆっくりとした速度で馬車を進めていく。
間違っても人を撥ねるような事になってはいけないと、手綱を持つ手にも緊張で汗が出てくる。
「とりあえず、場所を預けるところを探さないとだね。それから今夜泊まる宿探しだ」
そんなフェルトの様子を見て、これ以上の馬車での移動は止めておこうと感じたシン。
「そうですね。これ以上街の中をこの馬車で移動するのは危険です」
シンの提案にほっとするフェルト。
「では、私が聞いてきましょう」
ライアスはそう言うと、さっと場所を飛び降りて、近くで露店を開いていた男に近づいて行った。
「ライアスってコミュ力高いよね」
「こみゅりょく…って?」
隣に座っていたローラが初めて聞く言葉に興味を持つ。
「コミュ力っていうのはね。知らない人に会っても普通にお話したり出来る事だよ」
シンの説明に「んー」っと何か考えているローラ。
「じゃあ、わたしもこみゅりょくたかいよー。みあちゃんとも、るいすくんともすぐになかよくなれたからー」
「ぼくもー」
「わたしもこみりょくたかいー」
「ミアちゃん、コミュね」
「こみゅー」
「そうそう」
シンがちびっこたちと楽しそうにしていると、聞き込みに行っていたライアスが戻ってきた。
「お待たせいたしました。少し戻って西へ行ったところで場所を預けられるそうです」
「ありがとうライアス。それで――その手に持っている物は?」
ライアスの手には何かの焼かれた肉の刺さった串が十本ほどあった。
「ああ、これは――今の店の店主に美味いと勧められまして、私は一本で良いと言ったのですが、なかなかに商売の上手い方でした」
そう言って、みんなに串を配っていくライアス。
「コミュ力は高いけど、社会経験は不足してるみたいだね……」
「おいしいー!!」
「おにくおいしいー!!」
――子供たちが喜んでいるから、これはこれで良いか。
そう思いながらも、ライアスの意外な弱点が見れたことに笑顔になるシンだった。
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