第24話 厄災の前触れ

「みんなお待たせー」


 子供を連れて山を下りてきたシンが見たのは、ゴーレムに護られている子どもたちと、それを遠巻きに見ている騎士たちだった。


 どうやら、ギャバンから援軍として騎士が派遣されてきたようだったが、シンの用意したゴーレムたちがその前に立ちはだかっていた為、離れたところでシンの帰りを待っていたようだ。


「お帰りなさい」


 そう言って近づいてきたのは、シンに神様かと質問をしてきた少女だった。

 その時見たよりも、元気を取り戻したのか、しっかりとした顔つきを見せていた。


「その子たちは?」


 シンの後ろにいた子供たちを見て少女は聞いた。


「この子たちはゴブリンに捕まってた子だよ」


 シンの言葉に少女は驚いたような表情になる。


「まだ他にもいたのね……でも、良かった……」


 胸を押さえて安心したように息を吐いた少女の頭をシンは優しく撫でた。


「シン殿」


 シンの姿を見つけた騎士の一人が騎馬を下りて近づいてきた。


「私はギャバンの騎士団長を務めさせてもらっているスピルと申します」

 褐色の肌の若い騎士が名乗る。


「ええと、確か貴方は――」


「はい、ギャバンの街でサッチ子爵と一緒にいた者です」

 彼はブランドンと話した時に後ろに控えていた騎士の一人だった。


「わざわざ迎えに来てくれてたんですね」


「迎えといいますか……」


 スピルはどうも歯切れの悪い話し方をする。


「フェルト殿が、シン殿は子供たちを大量に連れて帰ってくるから、子供たちを運ぶ馬車を用意して欲しいと子爵に……」


 シンが騎士たちの方を見ると、確かにその後方に数台の馬車が見えた。


「ああ――それはどうもありがとうございます」


 シンは全員に強化魔法をかけて歩いて連れて帰るつもりだったが、考えてみれば――幼い子供たちもいるのだから、いくら疲れないようにしていても、それはどうも可哀そうな方法だったなと思った。

 それなら、そんなに言いにくそうにしなくてもとシンは思う。


「正直に申しますと……我々は自分たちでゴブリンを倒して子供たちを救出するつもりで来たのです……。その…お一人ではさすがに無理だろうと……」


「ああ……まあ、そう思うかもしれませんね。私も急いでいたので、詳しく説明しないまま飛び出して来ちゃいましたし」


 名目は子供たちを連れ帰ることだが、当の騎士たちは戦うつもりで駆け付けていた。


「しかし、実際に貴方は一人で子供たちを救出し、我々は貴方の作ったゴーレムを前に手も足も出なかったのです……」


「え!?」


 ――戦ったの?何で?


「この騎士の人たちは、私たちがゴーレムに襲われてると思って……」


 少女がシンの袖を引っ張りそう言った。


「その少女が出てきて説明してくれなければ、我々は攻撃を続けていたでしょう。そうなっていたら……想像するとぞっとします」


 シンは少女を見る。


「君がゴーレムの事を説明してくれたの?」


 騎士とゴーレムが戦っている間に入ってとなれば、かなりの勇気が必要だ。


「私しか説明出来そうな子がいなかったから」


 確かに、シンがこの場を離れる時、だいたいの子がゴーレムに怯えていたことを思い出す。


「そっか、ありがとね。それと怖い思いさせてゴメン」


「いえ、全然怖いとは思いませんでした。だって、どっちも私たちを護ってくれる為に戦ってたから」


 少女のその言葉にシンは驚いた。

 ロットよりも幼く見える少女が、そう考えて行動出来るとは想像も出来ない。


「それはそうと――後ろの子供たちは?」


「あ!」


 シンはゴブリンの巣から連れ帰って来ていた子供たちのことをすっかり忘れていた。


「ええと、この子たちは――」


 シンはゴブリンの巣であった事を簡単にスピルに説明すると――


「……とりあえず街に戻って子爵に説明しましょうか」


 スピルはこれ以上は自分の手に負えないと判断して――はぁ、と大きなため息をついた。




「先生、それはゴブリンキングと呼ばれる魔物でしょうか?」


 ギャバンの領主邸の一室は、シンの話しを聞いたことで重苦しい沈黙が流れていた。

 そんな中、ライアスがその沈黙を破った。


「ゴブリン――キング?それがシン殿が倒したと言われる巨大なゴブリンですか?」


 ブランドンはその名前を初めて聞いたようだ。


「私もアデスにあった書物で読んだことがあるだけですが、それだけ大きなゴブリンとなると、そうとしか思えないのです」


「レギュラリティ教の書物……私はゴブリンにそのような巨大な個体がいることすら聞いたことがありませんが、そこにそう書かれているのでしたら、その可能性は高そうですな」


 レギュラリティ教に伝わっている書物というだけでブランドンがそう思ってしまうほどに、その影響力はこの世界では大きかった。


「ゴブリンたちを統べる王…巨大な体躯たいくに高い知能を持ち、大軍を率いて街や国を襲う災害級の魔物。キングが率いるゴブリンたちは、その能力を強化された上に、与えられた命令を実行するための忠実な駒となり、その狂信的なまでの群れは統率の取れた一軍程度は容易く飲み込むとあります」


 ブランドンは夜中にギャバンを襲ったゴブリンたちを思い浮かべる。

 見張りの目をかいくぐったかのように突然街を襲ったゴブリンたちは、目的を達成したかのように一斉に引き上げていった。

 その計画的とも思える行動は、とても普通のゴブリン程度が成せることだとは思えなかった。


 それと同時に、その厄災がすでに討たれたことは、パルブライト帝国にとっては朗報である。

 この街に多くの犠牲がすでに出てはいたが……。

 ブランドンの胸中には複雑な思いがあった。


「それもすでにシンさんが倒したのですから、一先ずは安心ですね」


 フェルトはそう言うと、出されていたお茶を飲む。

 この場で一番リラックスしているのは間違いなさそうだ。


「そうですな……連れ去られた子供たちも無事だったことですし。しばらくは周囲の村にも警備の兵を回して警戒は続けますが、これで街の復興に集中出来そうです」


 ブランドンは疲れた顔をしていたが、どこか少し緊張が解けたようだった。


「私の考えを言っても良いですか?」


 それまで何かを考えているかように黙っていたシン。


 そして語られた内容は一同に戦慄を与えるに十分のものだった。



 ゴブリンキング――大陸中をおびやかすこととなる恐怖はまだ始まったばかりだった。




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