第22話 洞窟の奥に潜むモノは
シンは子供たちが捕らえられている牢屋のような空間に結界を張った。
少々のドラゴンのブレス程度ではビクともしない程の強力な結界。
――ふぅ、これで一安心だな。
この子供たちも衰弱はしているが、今すぐ命に係るような怪我をしている子はいないことに安堵する。
さてと――
振り向いたシンを見つめるゴブリンたち。
突如として現れたシンにどう対処していいのか迷っているようだ。
「GYeYAAaaaaー!!!」
部屋の奥から坑内が震えるほどの大きな叫び声が上がる。
その叫びを合図として一斉にゴブリンたちはシンへと襲い掛かってくる。
手に剣を持ち走ってくるもの、槍を持って突きかかってくるもの、鋭い爪を振り上げて飛び掛かってくるもの。
その場の全てのゴブリンが殺意を撒き散らしながらシンへと迫る。
『右に黒炎・左に白氷・対と成り・反と成せ』
右手には光すら捕らえて逃がさないほどの闇のように漆黒の炎を纏う
左手にはこの世の如何なる闇をも払い去るほどに光り輝く氷で
いつの間にかシンの両手に握られていた二振りの魔剣。
殺意に狂ったゴブリンたちはその存在に気付くことなく、各々が奇声を上げてシンに向かってくる。
シンはその魔剣を交互にバツの字を描くように正面に振り払う。
黒剣から漆黒の炎の斬撃が、その炎に触れたゴブリンを一瞬で消し炭へと変えていく。
白剣から純白の氷の斬撃が、その凍気に触れたゴブリンを凍らせ、塵のような氷の結晶へと砕いていく。
『
そして、二つの斬撃が部屋の中央で重なり合うと、眩い虹色の光を発して爆発したかようにゴブリンたちを襲い――
七色の閃光に身体を貫かれた全てのゴブリンたちは、一瞬で蒸発したかのように消滅した。
洞窟内に振動一つ起こすことなく――シンに襲い掛かろうとした数百のゴブリンたちは、その僅か一秒ほどの間に、跡形も無く全滅していた。
「GYUOooooo!!!」
その一部始終を見ていた巨大な個体が雄叫びと共に立ち上がった。
顔つきなどはゴブリンの様ではあるが、立ち上がると広い洞窟内の天井にまで届くその巨体は、ゴブリンと呼ぶことをはばかられる異様さであった。
――さて、あとはこいつだけど……。
魔剣での攻撃は最初からこの個体を対象から除外していた。
シンにはどうしても確認しておかなけらばならないことがあったからだ。
シンは魔剣を収納すると、代わりに何の変哲もない一本の鋼の剣を手に巨大なゴブリンへと対峙する。
その巨体からは想像できないような速さで、一気にシンまでの距離を詰めると、全体重を乗せた右の拳をシンの頭上へと振り下ろす。
「GUoooooooo!!!」
大気を振動させながら振り下ろされた全力の一撃。
しかし、その拳をシンは左手で簡単に受け止める。
その刹那――シンの剣が巨大ゴブリンの右の手首を斬り落とした。
「GYeAAAAAAAaa!!!」
悲鳴を上げて後ずさるゴブリン。
切断された手首からはどす黒い血が噴き出している。
掴んでいた拳を投げ捨てると、観察するかのようにゴブリンを見つめるシン。
魔力の流れ一つすら見流さないようにと、その動きに集中する。
すると――切断面がゆっくりと塞がっていき、吹き出していた血液も止まった。
――少し弱いけど超回復か?体格的にも、魔力量的にも……。
出血は止まったが、止血に使った魔力の消耗が大きいのか肩で苦しそうに息をしているゴブリン。
その醜悪な表情には、明らかに焦りの色が見て取れた。
その様子をじっと観察し続けているシン。
倒してしまうのは簡単だったが、まだはっきりとしたある確証がシンの中では持てていなかった。
「GYe……GYeAAAAAAAaa!!!」
シンの感情の見えない瞳で見つめてくる様子に恐怖を感じたゴブリンは、それまで以上の絶叫ともいえる咆哮を上げた。
すると――その背後に巨大な魔力の渦が発生し、黒く渦巻くそのその魔力がゴブリンの中へと流れ込んでいく。
欠損していた右手は見る見るうちに再生し、その全身から溢れ出す魔力は、それまでのものとは桁違いのものとなっていた。
――今のは……乱魔流?いや……んん?
ゴブリンの背後に発生した魔力の渦。
それは小さいながらも、乱魔流と同じような気配をシンは感じていた。
「WHOooooooo!!!」
全身に漲る力に全能感を感じて雄叫びを上げるゴブリン。
その声から発せられる覇気だけで、洞窟が崩れ落ちるのではないかとすら思える。
――どうもちぐはぐな感じで気に入らない…。
シンがそんなことを思っていると、ゴブリンが再びシンへと襲い掛かってきた。
再び振り上げられた右の拳。
それは、先ほどの攻撃を遥かに凌ぐ
シンが躱せば、この洞窟が崩落してしまうほどの威力の籠った一撃。
しかし、シンは同じように左手を出して受け止めようとした。
それを見た瞬間、ゴブリンはニヤリとする。
例え受け止めたとしても、その威力で洞窟は崩壊するだろう。
万が一、シンが耐えたとしても、その隙にこの場を離脱すればいい。
ゴブリンはその圧倒的な力を得た上でも、冷静にシンとの力の差を感じ、逃げの一手の為の攻撃を仕掛けていた。
洞窟内にはまだ数千の仲間のゴブリンがいるが、巨大ゴブリンの放つ怒気に怯えて近づいてきていない。
それらを巻き込んでしまっても彼には何の問題もない。
捕らえた子供たちを失うのは痛手だったが、また他で集めればいい。
一番大事なのは、この場を生きて脱出することだった。
唸りを上げてシンへと襲い掛かる巨大な拳。
受け止められようと、躱されようと、次の瞬間には崩落が始まる。
その後は全力で逃げ出す心の準備をしつつ、手加減など皆無な一撃がシンに迫っていた。
そして、その拳がシンの左手に触れる瞬間――
ゴブリンの肘から先が跡形も無く消失していた。
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