第15話 円卓会議

 年が明けてしばらく経つと、ようやくアデスにも落ち着いた日々が戻りつつあった。


「すいません。私が最後だったみたいですね」


 シンが円卓の間に到着した時、総師範をはじめとする師範総勢十二人はすでに席に着いていた。


「いえいえ、突然お呼びしたのですからお気になさらず。どうぞこちらへ」


 ジンショウはそう言うと隣の空いている席をシンに勧めた。


 普段は十二席の円卓の間であったが、今日はシンの席を用意した為、全体の間隔を詰めた十三席となっている。

 ブリッツやイネルなどの師範たちも、半年近く経った今ではすっかり見知った仲となっていた。


「では、シン殿も来られたことですので、始めるとしますかの」


 ゆっくりとした口調でジンショウがそう切り出す。


「はい、それでは今回の師範会議を開始いたします」


 ジンショウを挟んでシンの反対側に座っていたブリッツが話し出す。


「今回の議題は二つです。まず初めに――ライアス副師範」


「失礼いたします!」


 シンと共に円卓の間まで来て、部屋の外で待機していたライアスが、ブリッツの呼びかけに反応して部屋の中へと入ってくる。

 そのまま入り口付近で止まると、直立不動の姿勢で待機した。


「では、ライアス副師範の師範への昇格についての是非を問いたいと思います」


 ――ライアスが師範!?


 シンは会議の内容を聞かされずに呼ばれていた為、その言葉にかなり驚いた。


「このことに賛成の方は挙手をお願いします」


 そう言ったブリッツを含む師範十二人全員の手がすっと挙がる。

 何故かシンも挙げていたので合計十三人の手が挙がっていた。


「では――全員の賛成をもちまして、ライアス副師範の師範昇格を承認いたします」


「おめでとう!!」


 シンはそう言うと、一人拍手をし始める。


 シンの突然のその行動に全員が驚いたような顔になるが、ジンショウも拍手をしだすと、他の師範たちも続けてそれに倣った。

 どうやら、拍手をする場面では無かったらしい。


 ――この席が十三になってるのもその準備だったんだな。


 今回はシンの為に増やしていた席だったが、ライアスが師範になるのであれば、このまま使うことになるのだろうとシンは思った。


「ライアス師範、二十三歳での師範昇格というのは、アッピアデスでの最年少記録となりますが、貴方は十分にその資格を満たしたと判断します。今後の貴方に期待しておりますぞ」


「はい!師範の名に恥じぬよう!これからも精進して参ります!!」


 ジンショウの言葉に、ライアスは大きな声で返事を返す。


「それでは次の議題ですが――ライアス師範は申し訳ないが、その場にて聞いていただきたい」


 ライアスは座る席が無い為、そのまま立ったままである。


「皆さんはすでにご存じの事と思いますが、シン臨時師範が来週ここを離れることになりました」


 ライアスには先生と呼ばれてはいるが、それがシンのここでの仮の役職。


「半年ほどの短い期間ではありましたが、その功績は非常に大きく――なまでに大きく」


 ――ん?これ褒められてる?呆れられてる?


 半々かな?という雰囲気。


「その功績に報いる為に何か出来ることはないかと考えておりましたが、その際にライアス師範からある提案が出されました」


「ライアスくんから?」


「はい。提案内容はフェルト殿に関することです。彼は非常に優秀な若者であることはシン殿もご存じと思われます。我々はその才が今後も磨かれ続けることを望んでおるのです」


「そうですね。私もフェルトがここまでコルディア流と相性が良いとは思ってなかったです。もっと力づくでどうにかするようなタイプに育つと思っていたので」


 そもそもそのつもりで能力を底上げしていたのだが、理論に基づいて構成されている基本の型を身に着けてからのフェルトは、シンの予想を遥かに上回る成長を見せていた。


「しかし、ここを離れるということであれば、基礎の繰り返しは出来たとしても、新たな事を覚えることは難しいかと思います」


 フェルトが現在修練しているのは四段。

 そこから先は各部隊に配置されることになるので、期間限定で入門しているフェルトにはどのみち進むことが出来なかった。


「誤解されないように言っておきますが――決して、シン殿がフェルト殿を強く出来ない等と言っているわけではございません。いや、おそらくシン殿が教えた方が――な強さになるだろうと思っております」


 ――だから褒められてるの?


 これは微妙なところ。


「ですので、これはシン殿への恩返しと言いながらも、これは我々のエゴなのですが――今後もフェルト殿の指導を我らの手の者に任せてはいただけないでしょうか?彼がどのように成長していくのかを我々も見てみたいのです」


 アッピアデスの者が入門者以外の者に指導するなどというのは、長い歴史の中でも前代未聞のことである。


「それは――フェルトをここに置いていけということですか?」


「いえいえ!そうではございません!」


 一瞬シンの気配が変わったのを察したブリッツが慌てて否定する。


「もし、シン殿が許されるのであれば、指導者として一名同行することをお許しいただけないでしょうか?」


「え?わざわざ誰かついてくるってこと?」


「はい、もちろんお二人のお世話などの含めてですので、決して足手まといにはならないと思います」


 ――そりゃ、今のフェルトを教えれるような人が足手まといにはならないだろうけど……てか、執事をお世話するって何だ?


 シンはこの半年近くの間、ここでコルディア流の動きを見てきた。

 だからと言って、シンにその指導が行えるわけではない。

 自己流で鍛えても強くすることは出来るだろうが、フェルトにはこの世界での強さを身に着けてもらいたいという思いもあった。

 しかし、旅をするのにあまり人数が増えても、自由に動けないのではという気もしている。

 そうして少しの間逡巡しゅんじゅんしたが――


「分かりました――皆さんのご厚意、ありがたく受けたいと思います」


 そう決心した。


「ありがとうございます」


 シンの言葉にほっと息を吐いたブリッツ。


「いや、お礼を言うのはこちらですよ。この事がどれだけ例外的なことかってくらいは理解してますから」


 本当に例外も例外。

 シンがその真意を疑ってしまう程に例外的な対応。


「ではその者もすでに決まっておりますのでご紹介しておきます」


 この場に呼べるということは副師範以上――いや、シンの行ったデタラメな訓練によって、今では班長以上の者であれば、この円卓の間に入れるまでに成長していた。

 そうであれば、シンとしても知らない人間では無い筈なので少し安心ではある。


「――ライアス師範」


「はい!先生!今後もどうぞよろしくお願いいたします!!」


 元気よく答えるライアス。


「はい?ライアスくんがついてくるの?」


「はい!それと、今後はライアスと呼び捨てでお願いします!!」


「いやいやいや!せっかく師範になったのに、何でそうなるの!?」


「ふぁ!ふぁ!ふぁ!師範が同行するほうが箔がつくというものでしょう?」


 ジンショウはシンの反応が予想通りすぎて楽しそうに笑った。


「……まぁ、ライアスく――ライアスだったらフェルトも気が置けるから良いけども」


「では、決定ということでよろしいですか?」


「……はい」


 断れる流れではない。


「それではこれにて今回の師範会議の閉会といたします。シン殿もありがとうございました」


「いえ…こちらこそ?ありがとうございます……」


 シンはどうも納得いかないままライアスと一緒に退室していった。



「さて――」


 シンとライアスがいなくなった後の円卓の間。

 そこには十二人の師範、総師範が未だ残っていた。


「それでは――」


 ブリッツが先ほどまでが嘘だったかのような真剣な声で皆に語り掛ける。

 それを聞く者の表情も真剣そのものだった。



「今回のの是非を問いたいと思います」




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出番の少ない主人公(謎)シンがどうやって生まれたのかを書いたエッセイ、「魔王シンという男」を書きましたので、興味のある方は読んでやってくださいませ。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330665415449105


こちらの作品は、

蜂蜜ひみつ様企画の【てんとれ祭】参加作品です。


【てんとれ祭】「1行、100滴、お好きに」使って創作トライ!」

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こちらも興味のある方は覗いていってくださいませませ。

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