第13話 フェルト、ようやく全てを理解する
「ライアス殿……何を言っているんですか?」
「そのままの意味ですよ」
いたって真面目な顔でそう返すライアス。
フェルトはその表情から、ライアスが冗談を言っているような感じは受けなかった。
「しかし――私は別に何も……」
「この二週間、シン殿と共に旅をされてきたのでしょう?」
「……はい。ただ――それだけです。別に修行しながらとかではありません」
馬車を使わずにずっと徒歩で来たが、そんなことで強くなるはずがない。でなければ、世界中の兵士の訓練がランニングだけになってしまう。
「ここで先ほどの話に戻ります。身体強化の魔法を受けると限定的に能力を上げることが出来ます。それは自身の魔力量の器を広げ、循環させる魔力量を一時的に増やすことが出来るということなのですが、その状態を維持し続けて魔力を使用することで、無理やり元の能力を上昇させることが出来るのです」
確かにそれが本当ならば、ロバリーハートを出てからの間、ずっとその状態で旅をしてきたのだから分からないことではない。しかしそれならば――
「何故私だけにしか起こっていない状態なのでしょうか?その方がどう考えても効率の良い訓練方法ではないですか?それが分かっているならば、他の方も同じようなことをやっているのではないですか?」
例えそうすることで何か弊害があったとしても、それを受け入れても強くなりたいと思う者が誰もいないとはとても思えなかった。
「フェルト殿は通常、他者にかけた身体強化魔法がどれくらい継続するかご存じですか?」
「それは……分からないです」
「――約一分ほどです。移動の際に使う馬などにかける最低限の強化であればもっともちますが」
「そんなに短い…のですか……?」
「ええ、ですから――普通は自分自身を鍛えることで体内で練れる魔力量を増やして、それを自身の強化に使うのですよ」
「じゃあ、二週間という期間は……」
「はっきり言って――異常ですね。最初に聞いた時は、正直どうしてフェルト殿の身体が壊れていないのかと不思議でしたが、先ほどのヴィリムスを見て合点がいきました」
「壊れてないのが不思議って何ですか!?」
そう言われて自分の身体を確認してみたが、特におかしなところは無い。
「短時間でも強制的に上昇した能力で動けば身体に負担がかかるものです。それがそれだけ長い期間だとしたら、普通に考えたら死んでいてもおかしくないかと」
「――死!?」
「しかし、シン殿の回復魔法はかなりのものとお見受け致します。いや、そもそも強化魔法の持続時間や、夕べの山から発せられた魔力を考えても常識外れの魔法の使い手であることは疑いようがないですが」
「つまり……私は死なないように回復されつつ、ずっと強制的に修行させられていたと?」
「おそらくはそういうことだと思います。シン殿、どうでしょうか?」
「ぴんぽーん!正解!!」
シンの気の抜けた返事に膝から崩れ落ちるフェルト。
「私は死にかけていたのか……」
それを想像してぞっとするフェルト。
「体力や魔力だけじゃなくて、傷んだところも即時回復してたから全然平気だったでしょ?」
全く対照的にお気楽な感じのシン。
「まあ、そういうことで、フェルト殿の現状の基礎能力は――強化すれば私たち師範、副師範クラスの能力までは至っているということですね。なにせ――あの円卓の間に入ることが出来たのですからね。これではヴィリムスがいくら優秀とはいえ、先ほどの結果は然るべきものであったということでしょう」
「何となく道理としては理解しました……しかし……」
「何でしょうか?」
「それは―――ただ歩いているだけで、それだけの効果があるものでしょうか?私はそんな負荷がかかるようなことはしていません!ただ旅をしてきただけなんですよ!?」
「それは――私には見ていないことなので分かりかねます。しかし、現状から考えるとそうとしか――」
「フェルト、本当に歩いてきただけだったっけ?」
シンはニコニコしながら項垂れるフェルトに話しかける。
「え?それはキナミ様が一番よく知っているではないですか?」
「道中は楽しかったねえ。初めて見る世界だったから、いろんなものが珍しくてついつい寄り道ばっかりしちゃったねえ」
「――!!」
そこでフェルトは思い出す。
少しでも目を離すとすぐに姿を消すシン。
シンを探すためにウロウロと走り回り、はぐれないようにと気を使っていた道中。
しかし、どれだけ走り回っても、身体的には全く疲れなかったことで、すっかり失念していた。
「まさか……あれも……」
「フェルトは疲れないから気にしてなかったと思うけど、実際は結構な距離を走り回っていたからねえ。最後の山も普通に歩いて一日で越えられるような規模の山じゃないんだよ?」
「ああ、ケルフト
「……キナミ様を追って、道なき道を抜けてきました」
そういえば、めちゃめちゃなところを通ってきたんだなとフェルトは思う。
藪など強化した身体には何の障害にもならなかったので、道があろうが無かろうが関係ないと考えていた時点で、すでにシンの非常識さに慣れ過ぎてしまっていたのだろう。
「それならば、一日でというのも納得出来ますね」
そんな非常識なことを納得されたくないと思うフェルト。
「で、どうかな?今の身体の感じは?さっきの彼との組手ですっかりフェルト自身の魔力が体に馴染んだように見えるんだけど」
「組手で……?」
「そうそう。元の魔力が増えても、それを馴染ませるのには実践で身体を動かすのが一番早いからね」
「……それで、途中から彼の動きがゆっくりに見えだしたということですか?」
「だね。ああいう機会でもないと、馴染ませる前に何かに襲われないとも限らないし、その時に俺が傍にいるかも分からないからね」
それは初めて国の外に出るフェルトへのシンなりの配慮だった。
「国を出る時に、最初にそう言ってくれれば――」
「絶対に嫌がるだろ?」
「――そうですね」
命がけで強くなろうなどとは間違っても思わないフェルト。
シンの力をもってすれば、安全な方法だったのだろうとは思うが、最初に聞いたとしても、素直に受け入れたとは思えなかった。
「それに、せっかく旅に出るんだったら、フェルトにも出来るだけ楽しんでもらいたかったからね」
「……シンさん」
「でも、全部バレた以上は仕方ない!」
「……ん?」
この流れはヤバい――そう直感するフェルト。
「シンさん、仕方ないとは――」
「フェルト――君はしばらくの間、ここでお世話になって戦い方の基本を身につけなさい」
「ああ……」
今回は何となく予想出来ていたので、ショックは少なかった。
「せっかく身体が成長しても、その使い方を知らないと意味が無いからね。ここなら基礎からみっちりと教えてくれそうだし」
シンはそう言ってライアスを見る。
――いやいや、部外者が訓練に混ざるなんて出来ないですよね?
フェルトの最期の希望は――
「こちらとしても、是非ともフェルト殿の成長を見てみたいと思っておりますので、もし任せていただけるのでしたら、責任をもってお引き受けさせていただきます」
「そんな簡単に!?」
簡単にくじかれた。
「じゃあ、さっきの話でお願いしますね」
「さっきの話って何ですか!?それに私がここに残ったらキナミ様はどうするんですか!?」
「ん?フェルトを鍛えてもらう代わりに、俺がその間はここで訓練を手伝うことになった」
「なった!?すでに決定事項!?というか、いつの間にそんな話を――」
「さっき、フェルトが組手やってる時かな?これでしばらくはゆっくりとここを見て回れるねえ」
すでにシンの関心はアデスの事に向いているようだった。
「貴方!そこまで計算済みかー!!」
こうして、世界最強と謳われる戦闘集団『アッピアデス』の総本山見学ツアーに見事当選した二人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます