第48話 心優しき魔王様

「ぬかしたな小僧!!」


 ユーノスはロットの言葉に激昂した。

 腰の剣に手をかけ、そのまま斬りかからんと前に出る。


「処刑などもう良い!!貴様の首を刎ね――それを愚王のところに送りつけてくれるわ!!」


「へ、陛下!お待ちください!王子は大事な人質でございます!」


 ネイサンが慌てて止めようとするが――


「喋るなと言ったはずだ!!」


 ユーノスの剣が水平に振られると、ネイサンの首が宙を舞った。


 頭部を失った身体は、首から大量の血液を吹き出し、静かに――崩れ落ちた。


「後先が変わってしまったが――ファーディナントとの交が成り、王都を奪った今となっては些事さじというもの」


 転がった首を忌々しそうに見つめるユーノス。


「この小僧がいなくなっても、王都の民を人質とすればよい。時を稼げば、いずれファーディナントの軍勢がこの地に駆け付けるはずだ!どのみち、あいつらには何も出来んわ!!」


 再びロットに向けて歩み出すユーノス。


 二人を捕らえようとしたまま固まっていた騎士たちも、ユーノスの剣幕の凄さに手を出せずにいた。


 そんな中、シンがロットの前に出てユーノスと対峙する。


「貴様も一緒に死ね!!」


 ユーノスが問答無用でシンへと斬りかかる。

 が、当然のごとく――その刃はシンの手前で見えない壁に阻まれて弾かれる。


「そうか、やはり魔法を使えるのだな?これが最後だ。私に仕えるか――ここで死ぬか、好きな方を選ばせてやる!!」


「嫌に決まってるだろ。この頑固爺」


「このペテン師風情が!!」


「もう、お止めください!!」


 シンの後ろからロットが叫ぶ。


「もう終わりにしましょう。これ以上いらぬ犠牲を出す必要がどこにあるのです!」

「ふざけたことを!!まだ私の優位は変わっておらん!!それとも、そのペテン師一人でこの状況をどうにか出来るとでも言うのか!!」


「そうです!!――シン様がここに来られた時点で、あなたの計画は終わっていたのです……。ですから――」


「うるさい!うるさい!――お前ら!こいつらを殺せ!殺せ!殺せー!!」


「大叔父様!!」


「ロット君――もう良いだろ?」


 シンはそう言うと、ロットの周りに光の結界を張る。


 突然の正体不明の魔法に、三度みたび騎士たちは動きを止める。

 反乱に加担しているとはいえ、王子に刃を向けることに抵抗があるために思い切った行動が出来ない騎士たち。


「何だ!?何をするつもりだ!!」


 完全に無詠唱で発動された魔法にユーノスもたじろぐ。


「あんたの境遇に同情する気持ちが全く無い――というわけでもないんだよな。王族なんて面倒なとこに生まれて、あんたにしてみたら理不尽な目にあったんだとは思うよ。そこには多少は同情する。でもな、それでもあんたはやり方を間違ったんだと思う。兄貴の力になって一緒に国を盛り上げていっていたら、この国はもっと繁栄してたんじゃないの?――まぁ、仮の話をしても仕方ないんだろうけど、こんなにも人が死んだり苦しんだりすることにはなってなかったんじゃないかとは思う」


「何も知らないやつが勝手なことを言うな!!」


 ユーノスは剣を持つ手に力を込める。


「私が王になっていれば!この国は今よりもずっと豊かな国になっていたのだ!!」


 ついさっき弾かれたことすら怒りで忘れていたユーノスは、再び剣を振り上げてシンへと斬りかかろうとした。

 その瞬間――


 ゴオオオオオオオォォォォー!!


 シンの身体から凄まじい魔力が放出される。


 それは魔法でも何でもない、単純な魔力の放出。


 しかし――それは一瞬で王宮の天井を吹き飛ばし、欠片すらも残さず塵と変えていた。

 

 空間ごと切り取られたかのように円状に消滅した天井。

 上を見上げれば、清々しく晴れ渡る空が広がっていた。


 放出された時の余波を喰らったユーノスは、床を転がって玉座のところまで弾き飛ばされ、周囲の騎士たちも壁に激しく身体を打ち付けていた。

 そして、その悪夢のような光景にユーノスも騎士たちも呆然と空を見上げている。


「凄い……」


 ただ一人――ロットだけは結界に護られていたため、その影響を全く受けていなかった。

 そして、ぽっかりと空いた天井をキラキラした目で見つめていた。


「王様にはちゃんと許可取ってある……範囲内だと思う」


 シンは少し自信無さそうにロットに言う。


「何だ……そいつは……こんなことが出来るはずが……」


 うつろろな瞳のユーノスは譫言うわごとのように呟く。


「悪魔だ……」


 騎士の誰かが呟く。


「悪魔……そうかロットスター!!貴様らは悪魔と契約したのか!!」


 騎士の言葉に意識を何とか取り戻したユーノス。


「やはり貴様ら親子はさっさと殺しておくべきだった!!」


 威勢よく叫ぶが、その身体は腰が抜けてしまっていて動くことは出来ない。


「大叔父様、ですから申し上げたはずです。『』――と」


 ロットはユーノスにの最後の言葉をかける。そして――



「それと、シン様は悪魔なんてじゃありません」


 満面の笑みを浮かべ――



「心優しき魔王様であられますよ」

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