第47話 覚醒のロットスター

「王子、今どんな気持ちですか?悔しいですか?憎いですか?私が味わった苦しみの何分の一かでも感じてくださってますでしょうか?処刑されるまでの時間を、絶望を感じながらお過ごしくださいませ」


 下卑げひた笑みを浮かべるネイサン。


「もう良いだろう。そろそろラーゲも到着するはずだ。そやつらを捕らえて、処刑の準備を進めろ」


 ユーノスはこれ以上ネイサンの声を聴きたくなかった。


「大叔父様!!お考え直しください!!今ならまだ間に合います!!」


「間に合う?何を言っておるのか…間に合わないのはお前たちだろう?もう全て終わったのだ」


「いいえ!終わってなどおりません!どうか、今すぐに自らの過ちをお認めください!」


「もうよい!早くそいつらを連れていけ!!」


 これ以上話すことは無いとばかりにユーノスが怒鳴る。

 それまで様子を伺っていた騎士たちが二人を捕らえようと動き出す。


「ロット君、これまでみたいだよ」


 そんなシンの呟きと同時に一人の騎士が部屋の扉を開けて入ってくる。


「ご報告いたします!!」


 そのあまりに慌てた様子に、動き出した騎士たちも動きを止める。

 ラーゲの到着を知らせるにしては、あまりにも様子がおかしすぎる。

 ユーノスも不穏な雰囲気を感じて席を立ちあがる。


「どうした!騒々しいぞ!!」


 ネイサンだけが、その不自然さに気付かずに不機嫌な態度で怒鳴る。


「城外に数万の国軍の軍勢が迫って来ております!!」


「何だと!!どういうことだ!!」


 予想していなかった展開にユーノスが声を荒げる。


「しかも、その先頭には国王陛下の御旗が上がっております!!」


 動揺するユーノスに追撃をかける報告が続いた。


「馬鹿な!ラーゲはどうした!!しかも数万の兵だと!?やつらは魔物の群れに殲滅させられたのではなかったのか!!」


 ユーノスは責めるようにネイサンに怒鳴りつける。


「え?あ、いえ、そんな……」


 ネイサンは頭の整理が出来ていない状態で怒鳴られて言葉が出ない。


「城門は周辺の城壁共々破壊されましたので、ここにいる兵だけではとても戦えません!」


「な!?――本当に城門が破壊されたというのか!?しかも、城壁ごとだと!?」


 ユーノスは悪夢を見ているような気分になって、よろよろと玉座に倒れるように腰を下ろした。


「いや――こちらにはまだ人質がいる!このジルオールの民と、やつの親族がこちらにある限りは、あの弱腰の王が強硬策を取るようなことはあるまい!!」


「そ、そうでございます!!まだこちらが優位に立っているのは間違い無いのです!!」


 状況が何も分かっていないネイサンが何とか自分の保身の為にユーノスの太鼓を持つ。


「黙れ!!貴様はもう喋るな!!」


「ひっ!」


 しかし、嫌われているネイサンの言葉は火に油を注いだにすぎなかった。


「もう諦めてください!反乱は失敗したのですよ!!」


 ロットは説得することを諦めていない。


「うるさい!貴様のような小僧に何が分かる!!幼い頃より私に何一つまさっているところのない兄が、ただほんの少し先に生まれたというだけで王となった!!この私が辺境の領主へと追いやられたこの数十年!どんな思いで貴様らを見ていたと思っている!!」


「それが王家の掟です!後継争いを避ける為には仕方がないこと!」


「だから愚鈍な王でも良いと?その子供である貴様の父親も同じだ!親子揃って笑ってしまうほどの弱腰の王!国の為、民の為と口では綺麗ごとを言っておきながら、何の成果もあげられていない。この国の衰退を引き起こした張本人ではないか!!」


「違います!父上もお爺様もむやみに民を戦禍に巻き込みたくなかったのです!それはこの国だけではなく、他国の民であっても!だからこそ、外交に力を入れてより良い国造りを目指していたのではないですか!」


 ロットはユーノスの迫力に一歩も押されることなく言い返している。


「それが弱腰と言うのだ!!より良い国にしたければ、他国を奪って大きくすれば良い!――他国の民の命?くだらん!!自国の民であっても、国の発展において多少の犠牲が出るのは当然のこと!!それを恐れていることこそ自体が王の器では無いのだ!!」


「いいえ、二人はお優しい方です。常に民のことを想い、その生活を護る為に最善を尽くされております。大叔父様もご存じでしょう?このロバリーハートが何故王国ではなく、ロバリーハート国と名乗っているのか」


 ユーノスの眉がピクリと動く。


「初代国王陛下が、王の治める国ではなく――国を護る為に王を置くという意思の下に建国されたからです。だからこそ――お爺様はその意思を護るべく、民を巻き込む火種とりかねないあなた方をちゅうしたのです」


 それはネイサンへの言葉。

 それまでとは違って、落ち着いた口調に戻っていた。


「そして、父もそんな先代まで続いている意思を引き継いでこられました。だからこそ、この国の窮地においても諸外国からの援助を受けることが出来たのです。ですから――」


 ユーノスを見つめる。

 その幼い外見に似つかわしくない力強い意志のこもった視線。



王の器でふさわしく無いのは――あなたの方です。ユーノス大公」


 ロットもまた――その器を持って生まれた一人であった。

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