第44話 囚われ?のロットスター
ユーノスは朝一から玉座にてダミスター到着の報を、まだかまだかと待ちわびていた。
しかし、何の連絡も無いままに時は過ぎ、時刻はすでに正午前となっている。
「まだラーゲは着かぬのか?」
何気なく発したユーノスの一言に、その場にいた側近たちに緊張が走る。
長年ユーノスに接している彼らには、その言葉に怒りと苛立ちが含まれていることが察せられた。
「まだ物見の者からの連絡はございません」
側近の一人が恐る恐るといった感じで答える。
その者と同室にいるのだから当然その答えが返ってくるのはユーノスにも分かっていたのだが、今日で全てを終わらせられるという想いから、気持ちが逸っての無意識に口にした言葉だった。
ここまでは何の問題も無く計画は進んでいる。
あと一手で全て完了するはずだ。
そう考えるからこそ、ラーゲの到着の遅れがユーノスを苛立たせていた。
「閣下、いえ――陛下。少々スズカ辺境伯のご到着が遅れているようでございますが、直に来られるでしょう。王宮前の広場には、すでに処刑台の準備が出来ておりますゆえ、ダミスター前国王が到着すればすぐに処刑は始められます」
ユーノスの傍に控えていたやや太った男が、そう言いながらいやらしい笑みを浮かべている。
――ふん、このようなクズを傍に置くのも後少しの辛抱だな。
ユーノスはその男に軽蔑の眼差しを送るが、相手はまるで意に介していない様子だった。
そんな厚顔無恥な態度も余計に腹立たしかった。
ガタガタガタガタ……。
――なんだ?
ユーノスはその身体に軽い揺れを感じた。
周りの反応を見ると、おそらくは王宮全体が揺れているようだ。
その揺れはすぐに収まったが、地震などほとんど起きることのないこの国では珍しいものだった。
騎士たちも動揺したのか、室内はざわついている。
少しすると――ガチャガチャと鎧を鳴らしながら一人の騎士が駆け込んできた。
そして――
「も、申し上げます!!城門が破壊されました!!」
ロットは寝付けなかった上に、早くから目が覚めてしまっていた。
明らかに寝不足でぼんやりとした頭で、準備された朝食を食べた。
硬いパン2つと水。
これがもしかしたら最後の晩餐になるかもしれない王子の食事。
運んできた城のメイドは、何度も「申し訳ございません」と繰り返して泣き崩れた。
そんな彼女に「大丈夫」と笑顔で返したロット。
すでに自らの運命を受け入れているかのような穏やかな表情に、メイドは更に激しく泣き続けたのだった。
当の本人にそんなつもりは一切無かったのだが……。
鼻歌交じりに窓の外を眺めているロット。
囚われているのという自覚など微塵も無い王子。
ある意味大物である。
そんな感じで昼が近づいてきていた。
ロットが少し空腹を感じ出していた頃――
「入るよー」
おもむろに部屋の扉が開けられ、普通に入ってきたシン。
「シン様!!」
それは驚きと喜びの入り混じった声。
ロットが外を見ていたのは、おそらくそこからシンが来るだろうと思っていたから。
まさか、普通にドアから入ってくるとは思わなかった。
「ロット君、怪我は無さそうだね?」
思いの外、元気そうな姿を見て安心する。
「はい!大丈夫です!元気です!ピンピンしてます!さあ、参りましょう!!」
思いの外、元気すぎる姿を見てドン引きする。
「そ、そうだね。とりあえず…ロット君を城の外に――」
「違いますよ!!行くのはユーノス大叔父様のところです!!」
「いや、ロット君は――」
「そして、私たちで反逆者どもに正義の鉄槌をくらわせてやりましょう!!」
「ロット君!?何言ってるの!?」
「さあ、早く!!敵はいつまでも待っていてくれませんよ!!」
――いや、せっかく占拠したんだから、敵も待ってくれてると思うよ?
シンとしてはロットの安否を確認しに来ただけだったので、全てが解決するまで部屋に結界を張っておくか、城の外に連れ出すかするつもりでいた。
しかし、強引にシンの腕を引いて部屋を出ていこうとするロットを見て予定を変更する。
――次期国王なら、経験しといた方が良いかもね?
「あ、ロット君。ちょっとだけ待って」
すでに身体の半分が部屋の外に出ていたロットを止める。
「ダミスター王に頼まれてたことがあるから、先にそれをやっとくわ」
「父上の頼み事ですか?」
ロットの掴んでいた手を外すと、窓の方へ歩いて行く。
窓を開けると何やら集中するように目を閉じる。
『爆ぜろ』
そんな声がロットの頭の中に響いたかと思うと、城下の彼方で巨大な爆発が起こった。
その衝撃は王宮にまで伝わり、部屋がガタガタと振動する。
「シン様……今のは……?」
それまで興奮していた熱が、すうっと引いていくのを感じるロット。
「城門と、その周りの城壁を壊しただけだよ」
――ここから!?
「あ、ちゃんと王様が許可してることだから安心して」
後でどうやってこの部屋まで来たのかを聞くつもりでいたロットだったが、初めて目の当たりにしたシンの常識外れの行動に、そんな些細なことはどうでもよくなっていた。
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