第43話 大公ユーノス
本来、そこは国王たるダミスターの座る玉座。
だが、今そこに座っているのは厳つい顔つきをした初老の男。
今回の反乱の首謀者たるユーノス大公である。
彼はその人生において、最大の喜びの中にいた。
その表情からはとても想像出来ないが、全身が震えるほどの喜びの中にいた。
この椅子に座ることをどれだけ待ち望んでいたことだろう。
兄が王位を継いだ後も、一日たりとも諦めたことなど無かった。
そして、長い月日をかけて、ようやく念願を果たすことが出来たのだ。
嬉しくないはずがなかった。
数日前にドラゴンが王都に現れ、それを国王と親衛隊で討伐したという噂が城下では流れていたが、ユーノスはそんなものはデマだと信じていた。
王宮に潜ませていた者からも、そんな話は聞いていない。
――どんな魔法を使ったか知らんが、くだらん人気取りだ。
長く続く干ばつに飢餓。
それに加えてのファーディナント侵攻。
民衆の積もりに積もった不満を満たすことが出来ない為の苦肉の策。
ドラゴンを倒すことが出来るだけの力があるのだから、この国は大丈夫だと示す為の
そんな小賢しいダミスターを連れたラーゲが、明日には王都に到着する。
後は民衆の前で――ダミスターと王妃、それと王子であるロットを処刑すれば終わりだ。
幼き頃よりの念願だった王となることが出来る。
――奴に味方していた貴族、王族は死ぬまで牢屋の中で苦しませてやるわ。
ユーノスは高笑いしたい気持ちをぐっと抑えて、ほんの僅かだけ口元を緩めた。
王宮内の一室。
ここはロットスター王子の自室。
ベットの上に座り、一人佇んでいるロット。
反乱が起こった際に、従者と共に一早く避難を計ったロットだったが、元から王宮内に潜んでいた敵に捕まり、こうして自分の部屋に軟禁されていた。
捕まった後、一度だけユーノスがこの部屋に来た。
対峙するだけで委縮させられる顔と雰囲気が、ロットは昔からどうにも苦手だった。
大公の地位にありながら、貴族からの支持を国王と二分するほどの存在。
言動の端々から滲み出る攻撃的な野心。
それは停滞する国を繫栄させるためのユーノスなりの考えで、少々過激な言動だが、愛国心からなのだとロットは思っていた。
なので、このような大それたことをするとは考えてもみなかった。
例え気付いていたとしても、自分では何も出来なかっただろう。
いや――国王である父親であっても、唯一簡単に手出し出来ない存在がユーノスだった。
そのユーノスから伝えられたこと――
王都周辺が占拠されたこと。
母親である王妃を含む王族が捕まっていること。
ダミスターがスズカ辺境伯によって捕らえられ、ここに連れてこられている最中だということ。
そして――
ダミスターが到着次第、全員が公開処刑されるということ。
それを伝えている間もユーノスの表情は全く変わることがなく、それだけ言い終わると――ロットに一瞥もくれることなく部屋を去った。
本来なら絶望的な状況に涙の一つも流すはずなのだが、ロットの頭の中は冷静さを保ったままだった。
彼の頭に浮かぶのはシンの顔。
偶然にも召喚されてきた異世界の魔王。
ランバートや親衛隊をものともせず、巨大なドラゴンすら圧倒する――優しい魔王。
そんな彼が護衛として同行しているのに、ユーノスが言うように簡単に事が運ぶはずがない。
それに、シンのことについて一言もユーノスが触れなかった点もおかしい。
シンが傍に居たなら、ラーゲなど簡単に返り討ちに出来たはずだ。
そう考えるほどに、ロットのシンに対する信頼は厚い。
出会ったばかりで、それほど話をしたわけでも無いにも関わらず。
何かイレギュラーなことが起こって、シンがたまたまその場にいなかったのではないか?
ユーノスもシンの存在を知らないのではないか?
だとしたら――
――明日は面白いことになるかもしれない。
自分の命や、国の未来がかかっていることなど忘れてしまっているかのように微笑んだ。
そのことに興奮して、その夜はなかなか寝付くことが出来なかったロットだった。
そして運命の一日が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます