第21話 最凶のスフラ
「撃てえ!!」
スフラの合図と共に一斉に放たれる無数の矢と魔法。
風魔法が次々とウルフを切り裂き、火魔法が周りを巻き込みながらその身を焼く。
魔力を帯びた矢が水平に貫き、山なりに降り注ぐ。
倒れたウルフはその体を再び魔素へと分解されて消えていき、瞬く間に中央に大きな空間が出来上がる。
「突撃!!俺に続け!!」
スフラは先頭をきって騎馬を駆る。
その右手には全長二メートルを超える矛を持ち、雄叫びを上げながらウルフの群れへと突っ込む。
《
スフラの矛先から炎の刃が伸び、その刃渡りが二倍ほどになる。
「オラアァァァァ!!」
馬上から水平に振り放たれたスフラの炎の斬撃は数十メートル先のウルフまで両断し、その先で巨大な爆発を起こした。
その一撃で百を超えるウルフたちが塵へと消える。
後に続く騎馬隊もスフラに後れを取るまいと馬蹄を響かせウルフの群れへと突撃していく。
各々が剣で斬り、槍で突き、魔法で強化された騎馬で蹴散らす。
ウルフの持つ鋭い爪と牙をもってしても、彼らに傷一つ付けることは出来なかった。
そして、一軍が一つの意思を持った巨大な矢のように、一気に群れを引き裂いていく。
「オラオラオラァァァァ!!」
正面だけでなく、右に左にと次々と斬撃を繰り出すスフラ。
「ハハハハハッ!!死ね!死ね!死ねえぇぇ!!」
歓喜に満ちた表情でウルフたちを殲滅していく。
少なくとも、彼の意志だけは共有されていないように思えた。
「また派手にやってますねぇ」
群れのあちらこちらで巻き起こる爆発を後方で眺めながら、呑気な口調でブラインは独り言ちる。
その左右には作戦通りに向かってくるウルフへと魔法と矢を必死に撃ち続けている兵士たち。
「さあさあ、皆さん。どんどん数減らしていってくださいね。――右!弾幕薄いよ!もっと気合い入れて!!」
一応指揮は執っているのだが、それ以外は何もしていない。腕を後ろに組んで立っているだけだ。
先陣切って突撃したスフラとはあまりに対照的ではあるが、兵たちは特にその態度を不満には思っていないようだ。
「ブライン様、両翼の隊が行動を開始したようです」
スフラの突撃と同時に大きく左右に展開していた二隊は、左翼の騎馬隊は乱れだした群れの横腹に突撃をし、右翼は騎馬に乗った魔弓兵が未だ増え続けている後方へと矢を放ち出していた。
「あれだけの魔物の群れは初めて見ましたが、こうして離れたところ(安全なところ)から大規模な攻撃を仕掛けているのを見てみると、これはなかなか壮観ですね。――あ!だから右の弾幕薄いって!!何やってんの!!」
スフラたちの怒涛の攻撃を受けながらも、撃ち漏れたウルフたちは怯むことなくブラインのいる陣を目掛けて向かってくる。
「ブライン様!右側の敵が多すぎてこのままでは押し切られます!!」
「総員、右の敵に攻撃を集中させろ!!左は私が行きます!!」
――ああ!もう!どこが「近づくまでには散り散りになってる」ですか!!
――文官として来てるのに、結局は肉体労働させられるんですね……。
ブラインは単独で左から向かってきているウルフの群れへと走り出す。
『アースウォール』
その先団との距離を一息に詰めると、自分の後方に巨大な土の壁を作り出す。
――このまま物量に物を言わせてぶつかられたらひとたまりもないでしょうけど、ある程度の数を減らしたら問題無いでしょう。
そして、その腰に帯びていた細身の双剣を抜く。
その刀身は黒く鈍い光を放ち、白銀の鎧を纏うその身にはひどく不釣り合いにも思えた。
《
疾風のような速さで切り込んでいくブレイン。
まるで踊りを踊るような洗練された動きで振るわれ続ける双剣。
その黒き刃に触れたウルフは、紙を切るように何の抵抗もなく両断されていく。
そして、その刃の軌道には黒い三日月型の影が残り、ブラインの動きに呼応するように鋭い刃となってウルフを切り裂く。
やがて、百の影の刃がブラインの周囲を荒れ狂う嵐のような勢いで暴れまわり、押し寄せてくるウルフの群れを次々と無慈悲に飲み込んでいく。
もはやブラインに近づくことすらも敵わないままに斃れていく。
いかに魔物相手とはいえ、これはあまりにも一方的な殺戮。
そんな目を覆いたくなるような惨状を生み出した当の本人は――
――通常業務外の請求はいくらにしましょうかね?
そんなことを考えながら優雅にダンスを続けていた。
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