第10話 賭けの行方

 賭けに勝ったのはランバート。

 

 目の前には無防備に立ち尽くす魔王。


 万が一にも破られるとは考えていなかっただろう。

 その動揺の中、この距離の攻撃に対応出来るはずはない。

 それに――


 ――たとえ、この身が貫かれようとも、この剣は止まらぬ!!



 全てを賭した渾身の斬撃。


 ――その身は一筋の雷光のごとく。


 ――その剣は空を切り裂き、大地を砕く。


 ――武神が放つは裁きの一閃。


 ロバリーハートが守護者たる武神ランバートが、防御を捨てて攻撃に力の全てを振り切った捨て身の一撃は、いかなるものをもってしても受けることが敵わぬ必滅の閃光。


 もとより賭けの条件など関係なく、必殺の覚悟で放たれた無慈悲なまでの一振りは、明確な殺意をもってシンへと振り下ろされた。


 そして――手に伝わる確かな衝撃。



「お見事」



 その全てが刹那であったにもかかわらず、ランバートの耳には確かにその声が聞こえた。


 次にランバートが目にしたのは、シンに当たる直前に砕け散った己が大剣。


 そして――悪魔が如き不敵な笑みを浮かべた魔王の姿だった。



「……届かぬ……か」


 ランバートは、半ばから砕けた大剣を見つめながら誰にともなく呟く。

 その表情は憑き物が取れたかのように穏やかだった。


 ――あれを破るほどの強化の練度とは……あの若さで凄いなぁ。


 三十半ばほどに見えるランバートと二十代で成長の止まっているシンとでは、見た目は完全にランバートの方が年上に見えるのだが、実際に生きている時間はシンの方が遥かに長い。


 シンはランバートの剣を直接(?)受けて、そこに至るまでの鍛錬の過酷さを想像し、純粋な感動から思わす笑みを漏らしていた。


 ――とりあえず、賭けには勝ったということで、これで戦争回避は決定!!


 心の中でガッツポーズをとる。

 約束通り、動いてもいないし避けてもいない。

 もちろん手も出していない。

 スーツの障壁は破られたが、自身が常時展開している魔力防御壁がランバートの剣を防いだだけなので、何ら問題は無いと考えていた。



 ランバートが負けたことを理解した兵たちは、皆一様に声を押し殺すように涙を流していた。

 そんな中、ロバリーハート王が一人ランバートに近づいていく。


 それに気づいたランバートはゆっくりと王に向かい片膝を着いて頭を下げる。


「ご期待に沿えず申し訳ございません……」


「構わぬ。私こそ辛い役目をお前に任せてしまった……すまない」


 二人の表情に悲壮感は無く、どこか穏やかなようにも見える。


「魔王シン殿、約束通り速やかに我が軍はファーディナントより撤退する」


 王の言葉にランバート以外の兵が驚きの声を上げる。


「元よりこの戦争は我らが都合で始めたもの。被害を受けたファーディナントにしてみれば、引き上げたから終わりというわけにはいかんだろうが、そこは何とか私の首一つで何とか済ませることが出来るように交渉してみよう」


「王よ、先ほどの言葉をお忘れですか?」


 顔を伏せたままランバートが言う。


「あぁ、私の首とお前の首、二つあればお釣りがくるな。ははははっ!」


 楽しそうに笑い合う二人。

 崩れ落ちて嗚咽を漏らす兵士たち。


 そして、シリアスすぎる状況が理解できずに立ち尽くす魔王。


 ――え?戦争止めて帰国しまーす。で、雨の問題を解決して終わりなだけじゃね?


 ――何この世界の終わりを迎えたみたいな空気?




 その感想は、あながち間違ってはいなかった。




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