頭目の盗賊騎士を討ち取った者
悪党の山での山賊討伐が終わった。中継拠点の解体も完了してオスカー率いる
傭兵団の面々はすっかり良い気分だった。何しろ仕事は大成功なのだ。戦利品も充分に手に入ったので当分は懐も温かい。言うことなしである。
しかし、オスカーとパトリックはそうもいかなかった。中継地点を襲撃してきた者たちの中に別の傭兵団が狙っていた大物が混じっていたからだ。本格的な話し合いはこれからである。
普通なら単なる雇われ者のユウとトリスタンは町に帰還した時点でお役御免だ。ところが、今回はそうならなかった。
町に到着してすぐ、2人はオスカーに呼び出される。
「2人ともしばらくここにいてほしい。例の話し合いで事情聴取というのが恐らくある。そこで自分のやったことを証言してほしいんだ」
「僕は副団長と口裏を合わせた話になるんですよね」
「わかっていると思うが、余計なことは絶対に言わないでほしい。後はこちらで話を付ける」
「そうなるとその間の僕たちはどうしますか?」
「話し合いが終わるまでは人足として働いてくれ。報酬は今まで通り出す」
問題が解決するまでの処遇が3人の間で決まった。ユウとトリスタンはまたいつもの立場に戻る。
町の拠点に戻ってユウがシドニーから最初に任されたのは余った荷物の確認である。多めに消耗品を持って行ったのですべてを使い切ったわけではなかった。1つずつ点検して使える物を次回の仕事に回せるようにするのだ。このとき、数を数えられて文字も書けるユウは重宝された。
一方、トリスタンはもはやおなじみの
他にも、持ち帰った道具の点検などもある。問題のない物、修理が必要な物、使い物にならない物というように選り分けていくのだ。2人は先輩人足に従って作業をしたわけだが、色々な意見を聞いて興味深げにこなしていった。
こうして色々と作業をこなしていった2人だが、その間に悲しい出来事を迎える。
ある朝、天幕から1人の青年が出てきた。いつも身につけている武具はなく、衣服だけを着ている。左手には少し膨らんだ麻袋を手にしていた。
周囲の人々は忙しそうにしている。全員が顔見知りだ。町の拠点にいるのだから当然である。ただ、接し方はいつもと違った。ある傭兵は同情の視線を向け、別の傭兵はほとんど興味を示さず、他の人足は声をかけずらそうに顔を背ける。
そんな青年を作業の合間にユウはずっと見ていた。あの夜、相棒が助けた青年である。
尚も立ち止まって見ていると、ユウは青年と目が合った。思わず声をかける。
「ランドル」
「ユウか」
「傷はまだ治りきっていないよね? せめて完治するまでは寝ていたらどうなの?」
「これ以上は居づらいからいいよ。まだ痛むときがあるのは確かだけど、とりあえずは落ち着いたし」
「そうなんだ」
「悪い話ばっかりじゃねぇぞ。今回の山賊討伐は大成功っつうことでちゃんと報酬は出たし、その金額も結構あるからな。当面の生活には困らねぇくらいはもらったんだ」
「良かった。すぐにどうこうなるわけじゃないんだ」
「そうだぜ。片腕はなくしちまったけど、世の中にゃそんなヤツでも働いてるのはいくらでもいるんだ。実際に見たこともある。だから、何とかやっていけるだろうよ」
傭兵に憧れていた青年は静かに笑った。しかし、その笑顔は見るからに弱々しい。
この世界が弱者に厳しいことをユウは知っている。かつての自分がそうであったし、今も立場は弱い方だ。それだけに、体が不自由になった者たちがどんな扱いを受けるのか想像できてつらかった。しかし、それを今吐き出すわけにはいかない。
「ランドルは誰とでも仲良くやっていけるだろうから、すぐに別のところへ入って馴染めるんじゃないかな」
「だろ? だから、先のことはあんまり心配してないんだ。不安はあるけどな」
「そういえば、武器や防具はどうしたの?」
「売った。オスカー団長に多少色を付けて買ってもらえたんだ。だから、今回の報酬と合わせるとなかなかの額になるのはユウならわかるだろ」
「そうだね。武具はちょっとしたのでも結構な値段になるから」
お互いに静かな笑みを浮かべながら話をした。付き合いは浅いが、少しは知った仲だ。いくらかでも話すことはある。
「お~い、ユウ! ちょっとこっちに来てくれよ! って、あ」
「トミー」
「仕事中か。悪いことをしたな。それじゃ、オレはもう行くぜ。じゃあな」
呼びかけに応じて振り向いたユウがまた向き直ると、青年が別れの言葉を告げて踵を返した。声をかける時機を逸したユウは黙ったまま見送る。
朝日を浴びながら青年は傭兵団の拠点を外に向かってゆっくり歩いていった。
盗賊騎士ヴィクターを討ち取ったことに関する話し合いは何度か行われた。
その内容をユウとトリスタンは直接聞いていないので窺い知れないが、傭兵団内の噂だと焦点は名誉と実利らしい。今回盗賊団
一方、オスカーの方はというと完全に立場が優位というわけでもなかった。そもそも、傭兵団としての規模は相手の方がずっと大きく、発言力もある。また、他の傭兵団の獲物を横取りすると噂を立てられたら逆に立場が悪くなる可能性もあった。
そんな話し合いの最中、ユウとトリスタンは一度だけその話し合いの場に呼ばれる。ヴィクターたちが襲撃してきた夜のことを詳しく聞くためだ。
最初はユウから指名を受けた。全員が注目する中で口を開く。
「襲撃を受けたとき、僕は天幕の中で寝ていました。最初に襲撃の声を聞いて天幕の外に出ると、外は真っ暗でほとんど何も見えませんでした」
あらかじめパトリックと打ち合わせた通りの筋書きをユウは披露した。何度か相談し、何度も頭の中で繰り返し練習したので淀みなく口から言葉が出てくる。当時が新月の夜でほとんど視界が利かないことを相手側も理解しているからこそ、暗闇の中で右往左往しただけでほとんど終わったという主張に異論を挟まれることはなかった。
次いでトリスタンも当時のことを話したが、こちらも内容は似たようなものである。先にしゃべったユウから聞いた状況と大体同じなので誰も質問すらしない。
結局、2人の証言については何の波乱もなく終わった。用が済むと帰って良しと許可をもらう。
天幕を出た2人は大きく息を吐き出して肩の力を抜いた。
盗賊騎士ヴィクターを討ち取った者に関する話し合いはユウとトリスタンが証言した翌日には解決した。今回、
ようやく厄介な件が終わってユウとトリスタンは喜ぶ。何かあるのではないかと不安に思っていたが、終わってみれば実にあっさりとしたものだった。
最終日の夕方、2人はオスカーに呼び出される。
「2人ともよくやってくれた。おかげですべてうまくいったよ。これが今回の報酬だ」
「ありがとうございます。おお、これはすごい」
「おお!? こんなにあるんですか?」
「1ヵ月以上も雇っていたからな。その日当だけでもなかなかの額なんだが、何より盗賊騎士からの戦利品がでかい。あいつらいい武器と鎧を持っていたからな。それに、今回は手柄を譲ってもらったからイロも付けておいた。それで普通じゃちょっとお目にかかれない額になったぞ」
「ありがとうございます!」
「それと、前に頼まれていたセレート行きの人足兼護衛の話について心当たりがあるから、2日ほど待ってくれないか?」
「はい、待ちます!」
待っている間に冒険者ギルドで次の仕事を探していた2人はうまくいかない状況をオスカーに相談していた。すると、自ら探してくれると申し出てくれたのだ。それが実を結びつつある。
苦労した甲斐があったとユウとトリスタンは心底喜んだ。
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