検問所をこっそり通過
城外神殿でエリオットとの交渉をまとめたユウとトリスタンは当面生活費を稼いで待つことになった。ジャッキーにいち早く知らせてやりたい気持ちもあったが、エリオットに確約してもらうまでは控える。
その間、2人は下水路の巡回の仕事を続けていた。途中、不思議に思ったユウがトリスタンに尋ねてみる。
「そういえば、もっと稼ぎたいって言ってたよね。たまには害獣駆除なんかの仕事を受けてみる?」
「う~ん、ちょっと前ならそうしていたんだけど今はな。だって、ようやく捜索依頼の方が大きく動いたんだぞ? ここで下手な依頼を受けて動けないほどの大怪我を負ったら馬鹿らしいだろう」
「ちゃんと考えてくれているんだね」
「当たり前だろう。手伝っているんだから、俺だって依頼が成功するように考えて動くさ」
生活に余裕がないと言っていた割にきちんと考えてくれていることを知ってユウは嬉しくなった。いずれトリスタンの生活費対策を考えようと思えてくる。
そのような感じで3日ほど過ごした後、ユウたちは1度城外神殿に足を向けた。神殿関係者に取り次いでもらってエリオットと面会する。
「おはようございます、エリオットさん。例の話はどのくらい進んでいますか?」
「上の方の許可はいただけました。静観したままというのは良くないと理解してもらえたのです。今日中に南西派出所へ捜索依頼を出しておきますので、明日引き受けてください」
「ありがとうございます!」
「しかし、こうなった以上は、必ずジャッキーを連れてきてくださいね」
「はい、もちろんです」
要望が通ったユウは喜んでエリオットに請け負った。これでジャッキーを助けられると喜ぶ。
朗報を聞いたユウとトリスタンは喜んで下水路の中に入った。依頼はまだ引き受けていないが、先に話を通してジャッキーに明日すぐに行動できるようにと頼むことにする。
前にジャッキーから教えてもらった場所に向かった2人はその近辺をうろついた。たまに害獣と遭遇して駆除しては生活費の足しにする。
それを何度か繰り返していると、後方を歩いていたユウはふと背後に気配を感じた。振り向くと先程通り過ぎた分岐路から明かりが漏れていることに気付く。
「トリスタン、ちょっと止まって。さっき通った下水路から明かりが見える」
「本当だな。誰かいるのか?」
「へへ、やっぱりユウとトリスタンだったか。見間違えじゃなかったんだな」
「ジャッキー!」
明かりの漏れる分岐路から顔を覗かせたジャッキーにユウは近寄った。気弱そうな顔に笑顔を浮かべている。
「どこにいるのか全然わからなかったよ」
「簡単に見つけられたら隠れてる意味がないからな。それより、何かあったのか?」
「あったけど、その前に1つ確かめておきたいことがあるんだ。僕とトリスタンがジャッキーを匿ってから、また誰かに追いかけられたりしていない?」
「追いかけられたことはないけど、前にオレを追いかけてきた冒険者は何度か見かけたことがある。まだ諦めていないみたいなんだ」
「ということは、また見つかるかもしれないんだね」
「そうだな。他の冒険者にも追いかけられる気がして、安心できないよ」
現在の状態を説明したジャッキーが大きくため息をついた。前よりも若干やつれてきているように見える。
懸念した状態になりつつあることを知ったユウは安心して緩めた表情を引き締めた。そして、真正面からジャッキーに伝える。
「それじゃ本題に入ろう。実は僕、何日か前に城外神殿に行ってきてジャッキーの身柄について相談してきたんだ。それで、ジャッキーを匿ってくれる約束をしてもらったんだよ」
「え!? 何で城外神殿がオレを匿ってくれるんだ? オレはエミルを殺したんだぞ?」
「エミルが密輸に関わっていたからなんだ。城外神殿に勤める熱心な信者が悪に手を染めていたと僕たちが教えたら、別の調査に協力する都合でそうなったんだよ」
「なんでユウはそこまでしてくれるんだ?」
「昔、僕は冤罪で罰せられかけたことがあるんだ。だから、ジャッキーみたいに悪くないのに罰せられそうな人っていうのを何とかしたいと思ったんだよ」
「そ、そんなことがあったんだ」
ユウの話を聞いたジャッキーは呆然としていたが、すぐに真剣に悩んだ。その顔はとても険しい。
「どうしよう。ここにいても良くないことはわかるんだけど、オレを追いかけてた城外神殿が匿ってくれるって急に言われてもなぁ」
「信用できないのは仕方がないと思う。でも、ここにいるとそのうちサイモンのような冒険者に捕まるような気がしてならないんだ」
「それは、オレもそう思う。でも」
信じたいが信じ切れないという様子をジャッキーは見せた。簡単に信じられない気持ちはユウにもわかるので一緒に悩ましげな表情になる。
そこへトリスタンが割って入ってきた。諭すようにジャッキーに声をかける。
「城外神殿もまったくの善意で匿ってくれるわけじゃない。自分たちの醜聞が広がらないように手を打つために、ジャッキーを必要としているんだ。そして、ジャッキーには城外神殿の保護が必要だ。お互いがお互いを必要としているんだから、そこまで悩まなくても大丈夫だと思うぞ」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ。打算で動く奴は嫌われることが多いが、少なくとも打算が有効なうちは誠実だ。だから、この話は信用できるぞ、ジャッキー」
「トリスタン、露骨だね」
「こういうときは全部相手に言った方がいいんだよ。これで駄目ならもう仕方ない」
あまりにも赤裸々に語ったトリスタンにユウは呆れた。しかし、あれ以上どうやって説得すれば良いのかわからなかったのも確かだ。
随分と悩んでいたジャッキーは顔を上げてユウたちを見る。
「わかった。信じる。ユウとトリスタンは1度オレを助けてくれたもんな。だからもう1度信じてみる」
「やったぜ、ユウ!」
「ありがとう、ジャッキー。それじゃ、明日もう1度ここに来るから僕たちに声をかけて。そのまま城外神殿に送るよ」
「そ、それはいいんだけど、検問所は大丈夫かな?」
「うん、それも考えてあるから任せて」
自信ありげに言い切ったユウにジャッキーうなずいた。
話が決まるとユウとトリスタンはすぐにジャッキーと別れる。次に会うのは翌日だ。
翌日、ユウとトリスタンは再び同じ場所にやって来た。そのままじっと待っているとジャッキーに声をかけられる。
「ユウ、トリスタン、こっちだ」
「ジャッキー、良かった。ちゃんと会えて」
「へへ、匿ってもらえるっていうんならついて行くよ。ところで、検問所はどうやって通り過ぎるんだ?」
「今からジャッキーの右目辺りに薬を塗って包帯を巻くんだ。こうすれば、誰だかわかりにくくなるし、怪我人の包帯を無理に取らないだろうから、うまくごまかせると思うんだ」
「なるほど! でも、わざわざ薬まで塗らなきゃダメか?」
「塗った薬の臭いがしたら、本当に怪我を治療したって思ってくれるじゃない。今のジャッキーに安くない薬を使ってまでするかって相手が思ってくれたら尚更」
「確かにそうだな! それなら通れそうだ!」
検問所対策の案を聞いたジャッキーは目を輝かせた。トリスタンが苦笑いするくらいの喜びようである。
早速ユウはジャッキーを跪かせて作業を始めた。取り出した傷薬の軟膏を右眉の上の切り傷跡近辺に塗り、その上から包帯を巻き付ける。できるだけ顔を覆うようにしてだ。
覆面あるいは変装の作業が終わると3人はその場から動く。目指すは南西派出所側の検問所だ。
誰にも疑われることなく検問所へとたどり着くと地下門番に呼び止められた。ユウが対応する。
「捜索の依頼をしていました。これが依頼書です」
「その包帯を巻いた男が捜していたヤツか? 怪我でもしてるのか?」
「はい、どこかで害獣にやられたようで、薬を塗って包帯を巻いてやったんです」
「今日受け取って今日見つけたのか。えらく早いじゃないか、ええ?」
「僕もそう思います。でも、この人、怪我をしていてあまり動き回れなかったようなんです。おかげで僕たちも捕まえやすかったですよ」
「なるほど、運がいいな、お前ら。よし、行っていいぞ」
「ありがとうございます」
許しを得たユウは背後の2人を促して検問所を離れた。思いの外あっさりと通過許可を出してもらえて心底安堵する。
ここから先は早かった。地上に出ると迷うことなく城外神殿へと向かい、エリオットを呼んで引き渡そうとした。しかし、あまりの臭いに卒倒しそうになったエリオットはまずジャッキーの体を洗うよう配下に命じる。下水路に入り慣れたユウたちでも臭いと思ったくらいなので驚きはなかった。
これでジャッキーの身は安全だ。ユウは肩の荷が下りた感じがして喜んだ。
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