2人だけの捜索隊(前)
突然仮のパーティを解消されたユウはしばらく呆然としていたが、いつまでもそのままというわけにはいかなかった。1週間を3日間に短縮したのは自分であり、それが更に1日縮んだだけだと気持ちを切り替える。
大きく息を吐き出したユウは隣のトリスタンに顔を向けた。同時に声をかけられる。
「なんていうか、ごめん。俺のせいでペアを解消されたみたいで」
「いいよ。どうせ1日違いだし。それより、これからどうしようかな。下水路の中は1人だと厳しそうだから、また誰か組んでくれる人を探さないと。トリスタンはさっき言っていた相棒以外に仲間はいないの?」
「今はいないんだ。だから誰か組んでくれる人を探さないといけないんだけど、ユウも今は1人なんだよな?」
「うん、そうだけど」
「だったら俺と組んでくれないか? ずっとでなくてもいい。
「それなら僕の方からもお願いしようかな。実は、ここの下水路で人捜しをしているんだ。年内いっぱい探す約束をしているんだけど、その間手伝ってくれないかな。トリスタンの方の人捜しを終えてからでいいから」
「本当か! もちろんいいよ! ところで、どんな人を探しているんだい?」
「ええと、それはだね」
目を輝かせて申し出を受けてくれたトリスタンにユウは自分の事情を話した。内容はパオメラ教の熱心な信者を殺した友人の行方を追っているというものだ。
説明を聞き終えたトリスタンが微妙な表情を浮かべる。
「ユウは殺人犯を追っているんだ」
「まだ容疑者らしいけど、そうなるかな」
「しかも、見つからなくてもいいって珍しい依頼だね。捜索の依頼なんて大抵見つからないものだけど」
「僕もこういう依頼は初めてだよ。報酬がちょっと特殊だから。ああそうだ、トリスタンの報酬をどうしよう」
「達成しなくてもいい依頼なんてそもそもありえないしなぁ。事情付きの依頼だから、交渉しても俺への報酬は出なさそうだ。だったら、普段は巡回なんかの仕事を中心でこなして、そのついでにそっちの捜索の依頼をやるっていうのはどうだ?」
「順当だとは思うけど、手を抜くのはなしって言われているんだよね」
「その辺は受け取りようだろう。年末いっぱいまで捜索を続けるにしても、その間の生活費はこっち持ちなんだぞ。前金なしで依頼を引き受けさせるんだから、生活費を稼ぎながらやっても文句を言われる筋合いはないよ」
「なるほど、だったら生活費を稼ぎつつ捜索するでいいんじゃないかな。最初はトリスタンの相棒ゴードンを探して、次は僕の犯人捜しを手伝ってもらうということで」
「いいぞ。なら決まりだな。よろしく、ユウ」
「こちらこそ。なら、仮のパーティの成立だね」
「ということで早速なんだが、今日はこれで解散しないか? 俺の方は害獣駆除の依頼の処理をしないといけないんだが、失敗した上に問題が発生したから時間がかかると思うんだ。それに、ゴードンの捜索の手続きもしなきゃいけないし」
「捜索の手続き?」
「自分のパーティメンバーを探すってことを冒険者ギルドに伝えるんだ。すると、捜索依頼が発行されるんだよ。この依頼書があったら幹線下水路にある検問所を通って城内の下水路に自由にいけるからな」
「自分の仲間を探すときもそんな手続きが必要なんだ。冒険者ギルドは関係ないと思っていたよ」
「城外の下水路だったらそれでもいいんだけどな、あの検問所って通るのがそれだけ厳しいんだ」
「2回見たことあるけど、あの地下門番っていう人たち、あんまりやる気がないように見えたんだけどなぁ」
「慣れているからそう見えるだけだよ。さすがに怪しい奴は見逃さない。だから怪しまれるようなことはしたら駄目だぞ」
「わかった。それじゃ、僕は自分の準備をしておくよ。やっておきたいことがあるから。明日の朝、日の出頃にここでまた会おう」
やることがあるという点では同じだったユウは別行動することに賛成した。1人でやりたいこともあるので都合が良い。
その場で別れたユウは冒険者ギルド城外支所南西派出所を出た。太陽の位置を見ると昼下がりらしいことがわかる。まだ昼食を食べていなかったことを思い出し、背負っている麻袋から干し肉を取り出した。歩きながらそれを囓る。
口を動かしながら歩くユウは貧民の道を東へと向かった。冒険者の宿屋街を通り過ぎて貧民の市場へと入る。かなり活気があり、店主と客の声で非常に騒々しい。
食事を提供する屋台や武具を売る店舗を無視して歩くユウは雑貨屋の集まる一角にやって来た。良さそうだと思った店に順番に入っていく。こういう所の出回っている物品は怪しいものが多いので慎重に見極めないといけない。
何軒か巡った後、ユウは3軒目の雑貨に戻った。ここが最もましな店のように思えたのだ。それを確認するためにも中に入って直接見ないといけない。
いくつもの雑貨を眺めてからユウは店主に声をかける。
「使い捨ての
「いらっしゃい、これだよ」
差し出された松明を手に取ったユウはゆっくりと眺めた。取り立てて特徴のない松明だ。握り手や棒の部分を軽く見た後、発火する部分をじっくりと見つめる。
「おじさん、これって火を点けてからどのくらい保つんですか?」
「点けてみりゃわかるよ」
「それじゃ今試しに点けてもいいんですね」
「いいわけないだろ! 何考えてるんだ」
「冗談ですよ。それで、鐘の音で例えたら何回分くらいなんですか? 3回くらい?」
「2回が限度だろうよ。1回は保証する」
「この松明って、1度火を点けてから消した後、また火を点けられますか?」
「できるよ。その点火する部分はしっかりと固定してあるし、油もたっぷり染み込ませてあるからな。他の店のやつよりもいい感じに火が点くよ」
「この松明に使っている油は動物油ですか? それとも魚油? さすがに植物油ではないでしょうけど」
「動物油だと聞いてる。この辺りで魚油はないんじゃないか? 沿岸の町でもない限り」
「そうでしょうね。それで、この松明って水がかかっても消えにくいですか?」
「あんた、下水路に入る冒険者なんだろ? 臭いでわかる。その点は大丈夫だ。多少糞尿がかかっても消えないよ。多少ならな」
にやにやしながら説明してくれる店主にユウは少し表情を曇らせた。やはり体に臭いは付いているようだ。酒場や宿で何も言われなかったのはみんな慣れているからだったのかと半ば確信する。水で洗い流せたらいいなと内心で願った。
ともかく、知りたいことは大体教えてもらえる。動物油を使った松明なので煤が出る上に臭いが強く、使える時間も鐘の音2回分あるかどうかだ。そして、水を多少かけられてもすぐに消えることはない。後はこの話をどこまで信じられるかだが、それは使ってみないとわからなかった。聞いた範囲では今のところ合格だ。
最後にユウは店主に尋ねる。
「これ、1本いくらですか?」
「鉄貨50枚だよ。この辺りじゃ定番でね。みんなよく買っていってくれるよ」
「下水路に入るときは絶対に必要ですからね。5本ください」
「鉄貨250枚だね。200枚は銅貨でもいいよ」
「どうぞ。煤が少ないといいんだけどな。使い勝手が良かったら、また買いに来ますね」
「へへへ、商売は信用が一番だからね。待ってるよ」
銅貨と鉄貨を手渡したユウは店主から松明を5本受け取った。これで出費を抑えられる。人捜しが中心とはいえ、赤字はできるだけ抑えたいのだ。
首尾良く松明を変えたユウは次いで宿に戻った。自分の個室に入ると麻袋を
「さてと、これで今使っている松明はいらなくなったからこっちに移さないとね、っと」
麻袋の中から不要になった差し替え可能の松明の棒と松明用の油が入った大瓶2本、それにぼろ布をユウは取り出した。一旦机の上に置いた後、机の横に立てかけてある
尚、火口箱は麻袋に入れたままだ。サイモンのように下水路に設置されている
「よし、これで明日からの捜索を安心してできるぞ」
改善点を直せたユウは満足そうにうなずいた。ついでに他にも何か足りない物はないか探してみる。すると、手持ち以外の水袋がもう空であることに気付いた。危うく明日を水なしで過ごすところだったと焦る。
いくつかの革袋を手にしたユウはすぐに買い足すために個室を出た。
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