冒険者ギルドへの連絡と知り合いへの報告
空っぽの広場をぐるりと眺めたケネスが口を開く。
「まだ誰も戻ってきてねぇな。ならしばらくここで待つか」
「ケネス、俺とユウで冒険者ギルドにこの件を報告しておく」
「ああそうしてくれ。おっとそうだ、証明板はどうする?」
「それはまずルーサーに渡すべきものだ。後で冒険者ギルドに提出するように言っておけばいい」
「だな。そっちが戻って来る前にルーサーたちが帰ってきたら、オレから説明しておくぜ」
「任せた。ユウ、行こうか」
話が決まって促されたユウはジュードの後に続いた。仲間のいる広場を後にして冒険者の道に戻る。
門をくぐり抜けて、2人はすぐ近くにある冒険者ギルド城外支所の建物に入った。室内は相変わらず盛況だ。
ここからはユウが先頭に立って歩き、列に並ぶ。順番がやって来て受付カウンターの前に立った。すぐに受付係のトビーに声をかける。
「トビーさん、こんにちは。報告があってやって来ました」
「こんな珍しい時間帯にか? ロクでもなさそうだな。まぁいい。話してくれ」
トビーから促されたユウが
報告を受けたトビーは見るからに嫌そうな顔をした。厄介事なのは明らかだからだ。ユウが話終わってもしばらく黙っている。
「俺たちとしては、1度ギルドで調査した方がいいんじゃないかと思ってる。1パーティでは抱えられない話だからな」
「面倒なことばっかり押しつけられるな。2階でも殺しまくるヤツがいるなんて」
「2階でも? 他の階でも同じようなことが起きてるのか?」
「3階で他のパーティを襲ってるバカどもがいるようなんだ。今のところ生き残りがいないからはっきりとしたことはわからんが、どうも魔物と戦っている連中の背後から襲ったり、落とし穴を使って対象のパーティを分断したりしてるようなんだよな」
「ひどいな」
「落とし穴を使ってって、それじゃ俺たちが見つけた死体の一部はその連中に襲われたということか」
「可能性はあるな。それで2階に落ちて魔物と別のパーティにやられたんだろう」
「
「だろうな。状況としては、
受付係の推測にジュードはうなずいた。恐らく状況はそんな感じであったろうし、それ以外は考えられない。しかし、それでも疑問は残る。冒険者の証明板の件だ。
首を傾げたユウが口を開く。
「ルーサーの知り合いが巻き添えに遭ったというのは僕もそう思います。そして、別のパーティが落ちてきた人と一緒にみんな殺したとも思います。けど、どうしてその後物を取ったときに落ちてきた3人の証明板だけ持って行ったんでしょうね? そこがわからないです。できるだけ証拠を残したくないのなら、全部持っていけばいいのに」
「そりゃオレにもわかんねぇな。襲撃者じゃねぇんだし。3階で殺された連中も証明板はなくなってたし、同一犯、いやそりゃ無理だな。同一グループの犯行の可能性が高い」
「その推測は無理があるんじゃないか? 2階と3階でどうやって連絡を取り合うんだ」
話を聞いていたジュードが疑問を口にした。その質問を向けられたトビーは口を尖らせる。状況的にグループの犯行と言っただけで具体的な手段までは思い至れるはずもない。
「だからオレは犯人じゃねぇからわかんないんだって。お前さんらの報告でこれから2階と3階の死亡者の突き合わせをしなきゃならんが、そこが一番問題になるだろうな。3階の犯人が落とし穴を利用して襲撃してるなら、2階の連中と連絡できねぇと都合良く落ちたヤツらを襲えねぇ。それこそ都合良く魔法でも使ってんのかって話だ」
「そんな都合のいい魔法なんてあるのか?」
「魔術師でもねぇオレが知るわけねぇだろ。魔術師ギルドに問い合わせなきゃなんねぇな。連中が素直に答えてくれるとも思えねぇが」
尋ねてきたジュードにトビーは肩をすくめて答えた。どこの組織も基本的に自分たちの持っている情報を外には出したがらないので、尋ねたからといって簡単には答えてくれないのだ。
ため息をついたトビーがユウとジュードに告げる。
「ま、この件はこっちでも問題になりつつあるから何かしら動くことになるだろうな。近いうちにお前さんら冒険者にも警戒するよう呼びかけるかもしれん。2階で活動する連中は巻き込まれねぇようにってな」
「巻き込み注意と言われてもな。どうにもならんだろう」
「警戒してたらそれだけ対応できるだろう? ま、そこはうまくやるんだな」
「気軽に言ってくれる」
面白くなさそうに言い返したジュードにトビーは再び肩をすくめた。それきり黙る。
伝えるべきことはすべて伝えたユウとジュードは冒険者ギルド城外支所の建物を出た。仲間の待つ換金所の北側へと向かう。
広場にはまだ
「ということだ、ケネス。ギルドは珍しく動こうとしている」
「へぇ、いつもは聞いておしまいなのにな。3階の冒険者が殺されてるのがよっぽど気に入らねぇのか」
「魔法の道具を持って帰ってくれるパーティは貴重だからだろう。これが俺たちのような2階のパーティだったらたぶん動かないと思うぞ」
「だな。むかつくがしょうがねぇ。ということは、当面オレたちとしては警戒しながら
渋い表情をしたケネスがため息をついた。元々知り合いでない冒険者は潜在的に警戒していたが、その警戒をより一層強めないといけなくなったのだ。しかもそれを冒険者全体でやるとなると疑心暗鬼に陥って精神的な疲労がひどくなる。
負担が重くなることにユウたち6人はため息をついた。ハリソンがぼそりとつぶやく。
「アディの町の繁栄を妬んだ他の町が謀略を仕掛けたと言われたら納得しそうだな」
「俺も。3階のことは3階だけで片付けてほしいよねぇ」
つまらなさそうな表情のキャロルがハリソンに同調した。
面白くない感情を抱えたユウたち6人はそのままルーサーたちの帰りを待ち続ける。六の刻の鐘が鳴る前から1パーティずつ帰還してきて、最後に
疲労の色が濃いルーサーを見かけるとケネスが近寄って声をかける。
「お疲れさん。やっと戻って来たな」
「こっちは何も見つからなかったよ。手がかりすらね。そっちは?」
「
平静に返答したケネスが懐から6人分の冒険者の証明板を取り出した。呆然とするルーサーの前に差し出す。気もそぞろなルーサーがその証明板をゆっくりと受け取った。
ルーサーとその仲間たちが黙って顔を向ける中、ケネスは発見したときの状況を淡々と伝える。尚、自分たちの考察については伝えなかった。推測の部分が多すぎるので余計な混乱を与える可能性が高いからだ。
ケネスが口を閉じると広場に沈黙が訪れる。冒険者の道を往来する冒険者たちの喧騒が遠くから聞こえていた。
いつの間にかケネスの隣に立っていたジュードがルーサーに話しかける。
「思うところは色々あるだろうが、ともかく1度冒険者ギルドへ行ってルーサーから話をしてくれ。トビーという受付係なら詳しい話もしてくれるだろう」
「うん、わかった」
「まぁ、こんなことになったのは残念だが、2階も安全ではないらしいから気を付けてな」
「そうだね。他の仲間にも伝えておくよ。今日は協力してくれてありがとう」
「またなんかあったら言ってくれよ。相談には乗るぜ」
最後はケネスが締めると、ルーサーたちはうなずいて広場から去った。
それを見送ったユウがつぶやく。
「何も悪くないのに殺されるなんて、ひどいよね」
「まぁな。胸くそ悪い話だが、オレたちも人ごとじゃねぇんだ。
「なんでこんなことをするんだろうな」
何となく漏れたユウの言葉に誰も反応しなかった。やる理由など人それぞれなので明確な回答などないことをみんな知っている。それこそユウもだ。それでも言いたくなる。
しばらくじっとしていたユウたち6人もやがて広場から立ち去った。
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